遺言と思える故人の最期の思いがノートに書かれていた場合の対処法

  • 遺言

「父が亡くなり、書類の整理をしていると、父が生前、大事なことを書き留めていたノートが見つかった。そこには、遺言と思える内容の父の最期の思いが記されていた。直筆であることに間違いはないが、これを遺言書として扱うことは無理なのだろうか・・・。父の思いが記された遺言書のようなノートは、どのように扱ったらよいのだろうか・・・」

亡くなられた方が、ご自身の財産のことや、最期への思いについて考えていたことをノートなどに書き残こされている場合があります。日常生活においての備忘録のためであったり、いずれは遺言書を作成しようと準備のために整理していたりと、目的は様々だったと思われますが、この内容はお父さまの大切な思いであることに変わりはありませんので、お子さんであれば、尊重してあげたいと考えますよね。

ノートに書かれた遺言内容が、法的効力をもつかどうかは、遺言書としての法的な要件を満たしているかどうかで判断することになります。

本記事では、ノートに書かれた遺言の取扱いと法的効力を持つポイント、正式に遺言書と認められるまでの手続きについてご説明したいと思います。

1.ノートに書かれた遺言も要件を満たせば立派な遺言書

遺言というと封筒に入った厳粛なイメージがありますが、たとえノートに書かれた遺言であっても遺言書としての法的な要件(法律で決められた書き方)をきちんと満たせば、遺言書としての効力が認められます

遺言書として、法的な要件を満たしていない場合は、残念ながら効力がある遺言にはなりません。

しかし、亡くなられた方の最後の大切なメッセージとして、相続人同士が理解した上で、その内容を尊重することは可能なことです。
図1:ノートに書かれた遺言

2.ノートに書かれた遺言が法的効力を持つ5つのポイント

ノートに書かれた遺言は、亡くなられた方がご自身で書いた、いわば自筆証書遺言書と同じ意味あいのものといえます。自筆証書遺言書は、遺言を書く用紙に法的な指定はありません。

亡くなられた方の直筆であること、そして書かれた日付、署名、捺印がされていることなど、法律で定められた書き方の要件を満たしていれば、遺言書とみなされます

以下、法的効力を持つ5つのポイントをご説明いたします。

図2:法的効力をもつ5つのポイント

2-1.<ポイント1>遺言書の本文が手書きである

ノートに書かれた遺言の部分が、最初から最後まですべて亡くなられた方の直筆で書かれていなければなりません。

法改正により2019年1月以降に作成された遺言書は、添付する財産目録のみ、パソコンで作成したり、登記簿謄本のコピーや預貯金通帳のコピー、もしくは代筆でも良いことになりました。ただし、添付した財産目録には、すべて署名捺印が必要です。改正後も、遺言書の本文については、亡くなれた方ご自身の手書き(直筆)でなければなりません。

2-2.<ポイント2>ご自身の意思で書かれている

遺言書は、ご自身の意思によって書かれたものでなければなりません。誰かに強制的に書かされたり、誘導されたものは無効となります。直筆で書かれていても、万が一、生前の思いや亡くなられた方の考え方と、あまりにかけ離れた違和感のある遺言の場合は、慎重に対応し、場合によっては専門家に相談されることをお勧め致します。

2-3.<ポイント3>財産が特定され正確に記載されている

ノートに書かれた遺言の財産内容は、正確に財産を特定できるように記載されている必要があります。預貯金、株式、土地、建物などの財産内容が、正確に記載されているかどうか、よく確認してください。

例えば、不動産の財産内容を特定するための正しい書き方は、地番表記、もしくは住所表記までの正確な記載が必須となります。「自宅の土地」や、「○○市△△町の家」などといった曖昧な書き方では、財産内容を正確に特定することはできていませんので、遺言書の書き方としては「無効」となります。

2-4.<ポイント4>作成日が記載されている

ノートに書かれた遺言であっても、その内容をいつ書いたものかが判断できるように、作成日を記載しておく必要があります。例えば、複数のページに遺言書の内容が書かれていたり、もしくはノート以外に書かれた遺言書が見つかった場合は、一番日付が新しい遺言書を「有効な遺言書」とみなします。

2-5.<ポイント5>署名・捺印がされている

最後のポイントとして、遺言書の部分に、鮮明な署名と捺印がされていることが必要です。誰かに偽造されたり、改ざんされたりするようなことがないよう、亡くなられた方が自署するお名前と、鮮明な捺印があるかどうかを確認してください。なお、捺印は実印で押印する必要はありません

3.正式な遺言書として認められるには家庭裁判所の検認が必要

正式な遺言書として認められるには、亡くなられた方の最後の住所地を管轄している家庭裁判所で、検認の手続きを受ける必要があります。検認とは、家庭裁判所において、遺言書が亡くなられた方自身の意思で作成された、直筆のものであるかどうかを確認し、証明する手続きとなります。

本来、封印されている遺言書の場合は、検認手続きを受ける前に開封してはいけません。しかし、ノートに書かれた遺言書は、その性質上、封が初めからありませんので、偽造や変造を疑われてしまう可能性があります。家庭裁判所で検認手続きを受けることで、遺言書はその効力を正式に認められることになります。

図3:家庭裁判所の検認のイメージ

 

4.正式な遺言書として認められなかった場合の考え方

ノートに書かれた遺言書の署名や捺印に不備があった場合、残念ながら遺言書としての法的効力は認められません。しかし、ノートに書かれた遺言の内容は、亡くなられた方の大切な思いです。たとえ、法的効力がなくても、その意思を尊重できるよう、相続人同士で話し合いをしていただきたいと思います。

遺産分割のための協議をされるときに、ノートに書かれた遺言内容を尊重して、その上で相続人の方が納得できる協議内容をまとめていただければ、亡くなられた方の最期への思いも報われますね。

図4:亡くなられた方を偲ぶイメージ

5.まとめ

亡くなられた方の預貯金や所有されている株式、不動産などの情報をノートに記録して、どのように引き継いでほしいと考えているのか、相続に対する思いを書き記したノートが見つかった場合、遺言書として効力があるかどうかの判断は、書き方次第で判断することになります。

通常イメージする遺言書と形は異なりますが、遺言を書く用紙に法的な決まりはないので、たとえノートに遺言が書かれていたとしても、遺言書の要件が満たされていれば、法的効力のある遺言書となります。

ポイントは、亡くなられた方の意思で、直筆で書かれた内容であること、財産の内容が曖昧ではなく、明確に特定できていること、書かれた日付や署名、捺印が鮮明に残っていることが条件となります。

 遺言は、大切なご家族に最後に伝える亡くなられた方の思いです。たとえ、遺言書として不備があり、法的には無効だったとしても、残された思いをできる限り尊重し、受け止めることが、残されたご家族にとっても最善の相続につながると思います。

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