遺言執行者の報酬はいくら?報酬の相場と報酬の決定方法【まとめ】
- 遺言
「父が遺言書を作成してくれる。遺言執行者は専門家の方が将来的に楽だと思うが報酬はどのくらい?」
「もし、相続人の誰かが遺言執行者を担う場合には報酬ってどうすればいいの?」
遺言執行者は遺言書を作成する際に決めておくと良いのですが、亡くなられた後に選任することもできます。
しかし、専門家に頼むと高額な報酬が必要ではないか、相続人の誰かの場合だと無料で良いのかなど、遺言執行者に支払う報酬の相場や報酬の考え方を知りたいとお考えのことと思います。
本記事では、遺言執行者を専門家や相続人のどなたかに依頼する場合の報酬の考え方やその相場についてご説明していきます。参考にしていただき、トラブルになることなく遺言をスムーズに執行していただければと思います。
目次
1.遺言執行者の報酬の相場はおおよそ財産総額の1~3%
遺言書に遺言執行者の報酬についての記載がある場合にはその報酬額となりますが、一般的な報酬の相場は「財産総額のおおよそ1~3%」です。
また、執行する遺言内容の難易度や財産規模が大きく、複雑で非常に手間がかかる場合などは、相場よりも報酬が高くなります。
<専門家が遺言執行者となる場合>
遺言執行者の報酬相場は「財産総額のおおよそ1~3%」で、別途、相談料や日当などが加算されますし、交通費等も別途支払いになりますので、この点を認識しておきましょう。
一般的には交通費等の経費以外に、30万円~数百万円となります。
図1:専門家に依頼する場合は報酬見積もりを事前に確認
<相続人の代表者が遺言執行者を務める場合>
法的な決まりも相場もありませんので、相続人で話し合って自由に決めることができます。また、話し合いで決まらない場合には、裁判所に決めてもらうことも可能です。
図2:遺言執行者の報酬は相場を参考に話し合いで決める
※遺言の執行について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.遺言執行者を選任した場合の報酬相場
遺言執行者の報酬は、誰を選任したかによって差が生じます。
金融機関に依頼する場合や、弁護士・司法書士といった士業に依頼する場合などがありますが、金融機関でも各金融機関で価格は異なり、同一士業でも各事務所によって価格が異なるような状況です。
特に法的な基準や価格表があるわけではありませんが、おおよそ同一業種では相場観があります。事前に見積り等を取っていただき、金額を確認してから遺言執行者を選任するとよいでしょう。
2-1.相続人が遺言執行者となる場合の報酬相場
相続人の代表者の方が遺言執行者となる場合、1章のとおり報酬額の相場は法的には定められていません。
遺言執行者が担わなければならない義務や役割を考えるとその重責を考慮し、財産の規模や手続きの煩雑さを加味して、報酬はきちんと決めておくことがのちのトラブルを防ぐことができます。
相続人の中で報酬をもらう方がいることになりますが、遺言執行者を決めずに相続人全員で手続きを進めるより、遺言執行者を決めて手続きをすべてお任せした方が断然効率よく遺言を執行することができます。
そのようなメリットを十分に理解すると、遺言執行者を選任するメリットは大きく、もし手続きが容易であればそれに合わせた報酬にすれば皆さんが納得できます。
図3:遺言執行者の負担を考慮して報酬を決める
2-2.司法書士が遺言執行者となる場合の報酬相場
司法書士の報酬額は、依頼する司法書士事務所により異なりますが、一般的には30万円から財産総額の1%前後となり、交通費や手続きにかかった実費、出張した場合の日当など、その他の依頼内容によって報酬が加算されていきます。
司法書士の場合は、一律いくらと設定している事務所も多く、他の専門家に比べると比較的報酬は安めです。
例えば、財産総額が1億円の場合の目安としては
遺言執行手数料(1億円×1%)=約100万円
※財産総額に対し一律1%としている事務所も多い
図4:司法書士の相場の目安
2-3.弁護士が遺言執行者となる場合の報酬相場
弁護士の報酬額は依頼される内容により異なりますが、基本は財産総額から計算されます。
また、時間と内容によっては相談料が発生することがあり、揉めている場合には訴訟などに発展することから別途裁判手続き等に必要な費用が加算されます。弁護士が出張などで対応した場合は日当なども加算されていきます。
基本手数料を設定されている事務所は多く、その相場は30~50万円ほどです。最低報酬額という考え方がありませんので、揉めないケースであれば数十万円程度の報酬で済むこともあります。
例えば、財産総額が1億円の場合の目安としては
基本手数料50万円+遺言執行手数料(1億円×1%)=約150万円
図5:弁護士の相場の目安
2-4.金融機関が遺言執行者となる場合の報酬相場
銀行や信託銀行の場合、遺言執行者の役割に加えて遺言書の保管などのサービスが付いています。報酬額は各金融機関によっても若干異なってきますので、実際にご指定される金融機関へご確認することをおススメします。
金融機関は一般的に、契約時に手数料として30万円ほどかかり、そこに遺言執行手数料として財産総額の1~3%と遺言書の保管料が年間で7,000円ほどかかるような報酬体系です。
また、金融機関の場合は最低報酬額(100万円)が設定されている場合が多いのでご注意ください。
例えば、財産総額が1億円の場合の目安
契約時手数料30万円+遺言執行手数料(1億円×1%)+遺言書の保管料7,000円/年
=約130万円
図6:金融機関の相場の目安
3.遺言執行者の報酬の決定方法
専門家の報酬はあらかじめ各事務所や金融機関によって価格表があったり、見積りを取得することで明確になりますが、相続人の代表者が遺言執行者となるの場合の報酬は決めづらいものです。遺言執行者と相続人の折り合いがつかないケースもあります。
あらかじめ遺言書に報酬が記されていればその金額に従うべきではありますが、記載が無い場合や報酬額に納得がいかなかった場合には家庭裁判所へ申立てを行って決めることになります。
3-1.遺言書に記載があれば記載された金額
遺言書に遺言執行者に対する報酬額が記載されていれば、それに従います。専門家でも相続人でも、遺言執行者は記載されている金額を報酬として受け取ります。
図7:遺言執行者の報酬額の記載例
3-2.遺言書に記載がなければ話し合いまたは家庭裁判所で決める
遺言書に報酬額の記載が無ければ、遺言執行者の申し出により相続人全員で報酬額を話し合って決めます。話し合っても決まらない場合には、遺言執行者が家庭裁判所へ申し出ることによって報酬を決めてもらうことができます。
家庭裁判所は財産内容、状況などから報酬額を判断します。
図8:遺言執行者の申出により報酬額を決めることができる
4.遺言執行者の任務は誰に頼んでも同じ
遺言執行者の職務内容は遺言書の内容を実現することですので、専門家に依頼しても相続人の一人がおこなう場合でも内容は変わりません。
ただし、財産の規模や手続き内容の煩雑さ等と報酬のバランスを考えて適任者を選ぶことが手続きをスムーズに進めるためには重要なことです。
遺言執行者に専門家を選任する場合には、揉めごとを含んでいるような遺言書を作成する場合は弁護士を、不動産が多い場合には司法書士を選任するとメリットがあります。
各々の専門家が得意とする分野がありますので報酬額だけでなく、付帯サービスも確認しながら判断していきましょう。
図9:遺言執行者はだれに依頼しても同じ
5.報酬の他に遺言執行にかかった経費も支払う
遺言執行は手間や時間がかかると同時に、手続きに必要な実費もかかります。
例えば交通費、郵送料金、相続財産の管理費用、移転登記費用、預貯金の解約、払い戻しにかかる費用などがそれに当たります。これらの費用は遺言執行者だけが負担するものではなく、相続人全員が負担するべきものです。
相続人の代表者が遺言執行者となる場合には、のちのトラブルを避けるためにも実費としてかかった諸費用はすべての領収書を残すことと、可能な限り記録を残しておくとよいでしょう。
図10:遺言執行に係る費用の明細は残しておく
6.遺言執行者の報酬は相続人全員で負担する
遺言執行者へ支払う報酬については、誰か一人が負担するのではなく、相続人全員で負担します。専門家を遺言執行者に選任する場合と相続人を遺言執行者に選任する場合では、支払い方法が異なります。
6-1.専門家が遺言執行者の場合は相続財産から支払う
遺言執行者への報酬は、だれか一人が負担するのではなく、相続人の全員で負担するべきものです。しかし、実際のところは遺産から報酬を支払い、残った額を相続人で分けるというケースが多いです。
注意点としては、相続税の申告が必要な場合、遺言執行者の報酬は債務として控除したいところではありますが控除することはできません。相続税の申告をする場合、報酬額を差し引いた額で相続税を計算してしまわないようにご注意が必要です。
図11:遺言執行者の報酬は相続人全員が負担
6-2.相続人が遺言執行者の場合は財産で調整する
相続人が遺言執行者となる場合、その負担を考慮して遺言書に遺言執行者が受け取る財産の配分を多くするといった記載があることが一般的です。
記載がない場合でもそれぞれから報酬を集めることよりも、財産の配分で調整をすることが一般的です。
図8:遺言書にて遺言執行者へ配慮した遺産分割がなされているケースは多い
7.遺言執行者の報酬を支払えない場合は辞任か辞退してもらう
遺言書に記載されていた遺言執行者に対する報酬があまりにも高額で、執行内容とのバランスを考えるとどうしても納得ができない、というような場合は、遺言執行者に辞任を求めることが可能です。
また、遺言執行者自らがその重責を担うことはできない、もしくは健康上の問題から辞退するケースもあります。
遺言執行者が選任されていない遺言、もしくは辞任した遺言であっても遺言書の内容が無効になることはありません。遺言の執行は可能ですし、場合によっては改めて家庭裁判所へ選任の申立てを行えば、新たな遺言執行者を選任することもできます。
8.まとめ
遺言執行者の報酬に関し、ご理解いただけましたか。
遺言執行者の報酬は、専門家に依頼する場合には財産総額のおよそ1~3%と言われていますが、さらに手数料や実費などが加算されます。また、執行内容や財産規模によっては相場との差が生じます。
一方、相続人の代表者が遺言執行者となる場合、法的に定められた報酬額はありませんが、遺言書であらかじめ決められている、もしくは報酬分を考慮した財産の分け方になっているケースが一般的です。
遺言執行者は専門家でも代表相続人が担ってもやるべきことは同じです。執行内容に応じて、適任といえる執行者、及び適切な報酬を決めていただければと思います。