遺言執行者を解任できるかどうかの判断基準と解任するときの全手順
- 遺言
「遺言執行者が手続きを全然進めてくれないので困っている。遺言執行者をやめてもらいたい。」
相続が開始されたので遺言の内容を執行する手続きを進めるようにお願いしているにもかかわらず、何も手続きを進めてもらえない場合など、遺言執行者の方への不満が募り、解任する方法が無いかとお考えのことと思います。
本記事では、遺言執行者を今すぐ解任したいと考えられた時に確認すべき要点と、具体的な解任方法について詳しく説明していきます。
ただし、遺言執行者への報酬を支払いたくないからという理由で解任を検討されている場合には、本内容は該当せず、辞任または辞退をしていただくしか方法はありませんのでご注意ください。
目次
1.遺言執行者が任務を怠った場合やトラブル時は解任できる
遺言執行者となった方が職務を怠った場合やその他正当な理由がある場合には、相続人や受遺者などの相続における利害関係者が家庭裁判所に申し出ることで遺言執行者を解任することができます。
家庭裁判所には「解任請求の申し立て」をおこないますが、解任を求めるときにはすべての利害関係者が納得した上で申し立てることが必要となりますので、1人の意見だけでは認められません。
図1:遺言執行者の解任を利害関係者全員の同意をもって行う
2.遺言執行者を解任できる具体的なケース
遺言執行者を解任する場合には、相続人を含めたすべての利害関係者が解任することに同意しただけでは解任できません。全員が同意したうえで解任に値する理由があり、それが認められる必要があります。
遺言執行者の解任はどのような場合に認められるのか、具体的な内容を確認してみましょう。
2-1.(解任できる)任務を怠ったときやその他正当な理由がある場合
遺言執行者となった方は、相続が開始されたら直ちに職務を行わなければなりません。いつまでたっても遺言執行の手続きを進めない場合は「任務を怠っている」状況と判断できます。
また、遺言執行者の義務である相続人の方への財産目録の公開や手続きの進捗状況報告を怠った場合なども正当な理由に当たります。
【正当な理由に該当する例】
・遺言執行者として義務を果たさない
・一部の遺言執行しかやらない
・相続財産を不正に使い込んでいる
・一部の相続人に利益を加担していた
・病気により役割を務められない
・行方不明、もしくは長期不在となっている
・明らかに高額な報酬に対する不服
2-2.(解任できない)内容に納得できない遺言を執行した場合
遺言が特定の相続人の方にだけ有利な内容となっており、その遺言どおりに遺言を執行しようとした場合、一部の相続人の方に不利益が生じたとしても、遺言執行者は遺言どおりの任務を行おうとしただけのことなので、この場合は「解任事由」には該当しません。
2-3.(解任できない)専門家への報酬を払いたくない場合
専門家が遺言執行者になっていた場合には高額な報酬が発生する可能性があります。しかし、その報酬が執行内容に応じた正当な報酬であれば「ただ払いたくない」という理由だけで解任することはできません。
遺言執行者の方との単なる感情的な対立でも解任することはできません。
3.遺言執行者の解任までは一定期間がかかる
遺遺言執行者を解任しようと考えても、管轄の家庭裁判所に解任の申立てをしてから解任が正式に認められるまでは、ある一定期間がかかります。状況によっては、その期間を待っていられない場合があります。
すぐにでも遺言執行者の任務を辞めさせたいとお考えの場合は「遺言執行者の職務執行停止の審判の申し立て」を同時におこなう必要があります。
職務執行が停止されれば、当面遺言を実現することができなくなります。その間に遺言執行代行者を選任して進めることもできますが、本来の遺言執行者の解任が認められた時点で代行者の職務も終了となるため注意が必要です。詳しくは5章、6章でご説明します。
4.遺言執行者を解任するには家庭裁判所への申し出が必要
遺言執行者を解任するための「遺言執行者解任の審判の申し立て」について具体的な確認します。
申し立てを受けた家庭裁判所は様々な事情を勘案し、遺言執行者からの事情も確認した上で、解任するかどうかを判断します。
図2:利害関係者全員の同意があれば申立人は1人でもよい
4-1.解任を希望する方が家庭裁判所へ申し出る
解任を希望される相続人や受遺者などの利害関係者のうち代表者お一人が申し立ての手続きを行うことで手続きを進められます。
申請の場所は、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。直接、申し立ての書類を窓口に持参することも可能ですが郵送での手続きも可能です。
4-2.申し立てに必要な書類を準備する
申し立てに必要な書類は主に5分類あり、不備なく揃えて提出しなければなりません。ケースごとに必要書類が異なる場合がありますので、詳しくは家庭裁判所に確認されることをおススメします。
必要書類として明記されている遺言執行者の戸籍謄本や住民票は、通常であれば第三者の方が委任状なしで取得することはできませんが、審判の申立てのような「権利や義務を行使するために必要な場合」はその理由を明記すれば取得することが可能となります。
【主な必要書類】
・申立書
・申立人の戸籍謄本、住民票
・遺言執行者の戸籍謄本、住民票
・被相続人(遺言者)の戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍謄本)、住民票除票
・遺言書の写しまたは遺言執行者の選任審判書
※申し立ての費用として800円かかります。
4-3.申立書に正当な理由を明記する
申立書のフォーマットは裁判所のホームページからダウンロードできます。「家事審判申立書」に解任したい正当な理由を明記します。
申し立てに至った経緯や状況を明確にして、遺言執行者を解任すべき納得できる理由を記入しましょう。
裁判所のホームページ「家事審判の申立書」はこちらから
図3:遺言執行者解任審判の申立書サンプル
4-4.家庭裁判所から審判書が発行されて完了
解任の審判が確定すると、家庭裁判所からの通知として「審判書謄本」が発行され、申立人の方へ交付されます。この書面を確認して、解任の手続きは完了となります。
5.すぐに遺言執行者の職務を停止させたい場合の対処法
家庭裁判所に申し立てをおこなってから解任の審判に関する結論が出るまでには一定の期間を要します。管轄の裁判所によっても異なりますが、おおよそ1ヶ月となります。
解任されるまでの期間は遺言執行者が任務を進めても構わないことになっていますので、すぐに職務を停止させたい場合は解任の申立てだけでは停止させることはできません。
3章のとおり「遺言執行者の職務執行停止の審判の申し立て」を同時におこなう必要があります。
図4:解任までの流れ
5-1.職務執行停止及び職務代行者選任申立てを同時に行う
すぐに遺言執行者としての任務を停止させたい場合は、審判通知前の保全処分として「遺言執行者の職務執行停止の審判」を同時に申し立てる必要があります。
また、中断してしまう遺言執行を継続させたい場合には「職務代行者選任の審判」まで行えば、代行者を選任することができます。
しかし、あくまでも代行者なので、遺言執行者の解任審判が確定した時点で代行者の任務も終了となりますので注意が必要です。
代行者の任務が終了した時点で残務があった場合は、改めて遺言執行者の選任申立てを行わなければなりません。
その際に代行者を遺言執行者の候補者とすることは可能です。もしくは、状況によっては遺言執行者をたてずに進めることも可能です。
5-2.代行者は裁判所が決める
遺言執行者の職務代行者の候補者は裁判所が選任し決定します。代行者は、利害関係のまったくない弁護士などの専門家が選任されることが多いです。
5-3.申し立てには家事審判申立書を使う
職務執行停止の審判、及び職務代行者選任の申立書は、すべて裁判所のホームページからダウンロードできる「家事審判申立書」のフォーマットで作成します。
申し立ての理由欄には保全の必要性について明確に記入しましょう。
図5:審判前の保全処分の申立書のサンプル
6.解任後の遺言の執行方法
遺言執行者を解任した後の相続の進め方は2通りあります。相続人だけで進めていく方法と新たな遺言執行者を立てて進めていく方法です。
遺言執行者は必ずしも必要ではありませんが、相続人間でトラブルになる可能性があり、遺言執行者を立てた方がスムーズに進む場合には、新たな遺言執行者を立てて遺言内容を実現してもらいましょう。
※遺言執行者の選任について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
7.生前に遺言執行者の解任はできない
公正証書遺言など、生前に遺言内容を確認したところ遺言執行者を解任したいと思っても、生前には遺言執行者を解任することはできません。
遺言書は亡くなられて初めて効力が発揮されるものですので、生前にはまだ遺言には効力が認められていません。
よって、遺言執行者も遺言に記載はありますが、遺言執行者に就任したことにはなっていません。よって、相続発生前に遺言執行者の解任はできません。
しかし、新しい遺言を作成し新たな遺言執行者を指名することはできます。遺言は新しい日付のものが有効となりますので、前言の遺言を撤回することができます。
図6:新しい遺言の作成
8.まとめ
遺言執行者は民法でも定めのある義務と権限を持ち大きな責任を負う役目です。遺言執行者を選任することで、遺言内容をスムーズに実現するはずが、遺言執行者がそれを怠ってしまうと選任した意味が無くなってしまいます。
職務を怠ったことで解任となると厳しい処分ではありますが、勝手に解任はできず家庭裁判所の判断結果となります。家庭裁判所が認めて初めて解任となりますので、正当な理由があっての解任となります。
遺言執行者にも意見を求めるため、場合によっては審判が長期化する可能性もあります。
また、遺言執行者の解任手続き中も遺言執行者は職務を遂行できますので、直ちに止めたい場合には、「遺言執行者の職務執行停止の審判」を同時に申し立てることを忘れないようにしましょう。
遺言執行者の解任をスムーズに行いたいと考えている方は、相続に強い弁護士に相談されることをおススメします。