【遺産分割協議書の提出先】主な5ヶ所で行う手続き内容と提出期限
- 相続手続き
「相続では遺産分割協議書が必要だとよく耳にするが、どんな手続きをするために、どこへ提出するのだろうか?」
遺産分割協議書の提出先は、必要な手続きの種類によって多岐にわたります。どこの提出先でも共通していることは、遺産分割協議書の内容から「相続人のどなたが、どのような財産を、どれくらい相続するのか」を把握するために必要だということです。
しかし、遺産分割協議書は絶対に作成しなければならないものではなく、作成の期限などもありません。遺産分割協議書があるならば提出が必要であり、手続きの種類によっては、提出期限が決められている場合もあります。
本記事では、遺産分割協議書の主な5つの提出先と、提出期限の目安についてご説明いたします。ご自身には関係がない手続きもあると思いますので、まずは一覧でチェックしてから、必要な手続きの提出先をご確認いただければと思います。
目次
1.一目で分かる!遺産分割協議書の5つの提出先と期限の目安
遺産分割協議書とは、相続人の方が複数いる場合に、相続人全員で相続財産をどのように分けるかを話し合って、相続人全員が同意した内容をまとめた書面です。相続人全員の署名、及び実印の押印が必要となります。
遺産分割協議書は、法的にも有効なもので、分割内容に関し、相続人全員が納得していることを証明する書類です。作成しておくと、後々の相続トラブルを防ぐ効果にもつながります。
さらに、対外的には、相続手続きを進める上で、遺産分割協議書は相続人全員が同意している証となり、手続きの効率をあげるメリットがあります。
主な相続手続きの内容から、提出先と提出期限の目安を確認してみましょう。
図1:遺産分割協議書の主な提出先と提出期限
※遺産分割協議書について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.【法務局】不動産の相続登記(名義変更)をする
所有者が亡くなられ、新所有者に変わる場合、登記簿謄本の記録を変更する必要があります。この手続きを「相続登記」といいます。
不動産の相続登記は義務化されました。相続の開始かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければなりません。
不動産は、法務局に保管されている「登記簿謄本(登記事項証明書)」に、権利者(所有者)や不動産の情報などを記録し、管理されています。
相続登記は、法務局に申請書類を提出しておこないます。(最近はオンライン申請も可能です。)法務局では、相続登記の申請を受け付ける際に、相続人全員の情報や、新所有者の方の情報を確認する必要があり、遺産分割協議書の提出を求めます。
遺産分割協議書は相続人全員が同意した上で作成されているため、相続登記が勝手にされることを防ぐことができるので、必ず必要となります。
※不動産の名義変更について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
3.【銀行】預貯金の相続手続き(解約または名義変更)をする
銀行で解約(払戻し)、もしくは名義変更の手続きをする際に、遺産分割協議書があれば、提出を求められます。
銀行所定の「相続届」に、相続人全員の署名と実印の押印をすれば、遺産分割協議書の提出がなくても手続きは可能です。
しかし、遺産分割協議書を提出することで、銀行所定の用紙には、引き継ぐ方の署名と実印のみでよくなりますので、銀行が複数ある場合などは、大幅に手続きの手間を省くことができます。
窓口では、原本を確認後、すぐに遺産分割協議書を返却しますので、手続きが必要な銀行の数だけ作成する必要はありません。
銀行の手続きに期限はありませんが、口座が凍結された後は、速やかにお手続きをされることをおススメいたします。
※銀行の相続手続きについて詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4.【税務署】相続税の申告をする
相続税の申告が必要な場合は、税務署に遺産分割協議書の提出が必要です。相続税に申告期限は、相続発生した日の翌日から10ヶ月以内です。この期限までに遺産分割協議書を作成する必要があります。
相続税は、基礎控除額を超える財産に対してかかる税金で、相続が発生した方全員にかかるものではありません。
基礎控除額は法定相続人の数によって変わりますので、まずは相続人と相続財産の総額を確認する必要がありますね。
※基礎控除額について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※相続税申告に必要な書類について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4-1.相続税を減らす特例を使うために提出
相続税を減らすために、相続した土地の評価額を減額できる特例を適用したいとお考えの場合は、速やかに分割協議を調え、申告するまでに、遺産分割協議書を作成する必要があります。
また、「亡くなられた方の奥さんには相続税がかからないから大丈夫」と聞かれたことはありませんか?
確かに、亡くなられた方の配偶者の方は優遇されていて「1億6千万円、もしくは法定相続分相当額まで」であれば、相続税はかからないことになっています。
土地の評価額を下げる特例や、配偶者の方への優遇措置を利用して「相続税はかからない」という結論に至っても、これらを適用するためには、相続税申告は必須であり、遺産分割協議書も必要になりますのでご注意ください。
【相続税の主な特例】
①「1億6千万円、もしくは法定相続分相当額まで相続税はかからない」→ 配偶者の税額軽減
②「要件にあえば、土地の評価額を減額できる」→ 小規模宅地等の特例
※配偶者の税額軽減について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※小規模宅地等の特例について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4-2.10ヶ月以内の期限が意味すること
申告期限は、相続が発生した日の翌日から10ヶ月以内とお伝えしました。この期日までに、相続人全員が同意したことを証明する遺産分割協議書の作成ができない場合は、「特例が使えなくなる」リスクが生じます。
分割協議を調え、相続税の申告書を作成するのに、10ヶ月という期間はとても短く感じるかもしれません。期限に間に合いそうにない状況の方は、1日も早く、信頼できる税理士にご相談ください。
※相続税の申告期限について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.【陸運局】自動車の名義変更をする
自動車の名義変更をするとき、原則、遺産分割協議書が必要になります。
普通自動車で、査定額が100万円以下の場合は、遺産分割協議書を提出しなくても構いません。陸運局ホームページで「遺産分割協議成立申立書」という書面をダウンロードして、引き継ぐ方だけが必要事項を記入すれば済みます。
また、軽自動車の場合も、遺産分割協議書は不要です。
提出先は、新所有者の住所地を管轄する陸運局です。提出期限は特にありませんが、自動車保険に加入する、車検を通すなどの状況であれば、速やかに手続きをおこなってください。
※自動車の名義変更について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
6.【証券会社】株の相続手続きをする(売却または名義変更)
株式の相続手続きをする際も、遺産分割協議書の提出が必要です。提出先は、株式口座を開設している証券会社になります。
提出期限はありませんが、手続きをしなければ、株を売却したり、配当金を受けとることができなくなります。株の相続手続きは、新所有者の方が株式口座をお持ちでない場合、口座開設の手続きから始まります。
口座を開設して、株式を移す(移管するという)までに、3週間程度かかりますので、売却をご検討されている場合、タイミングを逃す可能性がありますので、早めに手続きされておくことをおススメいたします。
※株式の名義変更について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
7.遺産分割協議書が必要ない2つのケース
以下、2つのケースの場合、遺産分割協議書の提出は必要ないので、作成も不要です。
ケース①:相続人が1人しかいない
分割する必要がなく、すべての財産を受け継ぐことが明らかなので、提出不要です。
ケース②:有効な遺言書が残されている
すべての相続財産に関し、引き継ぐ方が明確な遺言書があり、遺言書の通りに引き継ぐ場合は遺言書の提出のみで構いません。
8.まとめ
遺産分割協議書は、相続人同士で話し合い、合意した分割内容を明らかにする書面です。相続の手続きでは、対外的に、引き継ぐ内容、引き継ぐ方を証明できる書面となります。
不動産の相続登記、預貯金や株式の相続手続き、自動車の名義変更、相続税の申告の際に必要となり、手続きをおこなう場所に提出します。
名義変更系の手続きは特に期限が設けられていないものもありますが、名義変更をしないままではリスクが生じる可能性がありますのでご注意ください。
相続税の申告が必要な場合は、10ヶ月という明確な期限がありますので、それまでに遺産分割協議書を作成するよう心掛けてください。
遺産分割協議書が必要な手続きや提出先を把握して、スムーズに手続きを進めていただければと思います。