任意後見制度は将来の備え!任意後見人になれる人と手続き5STEP
- 相続
「今は元気だけど、認知症や事故などで判断能力が低下したらと考えると不安だわ…。」
「信頼できる人に、将来は財産管理や契約などをサポートして欲しい。」
万が一、判断能力が低下したときのために「任意後見人を利用しようかな」とお考えでしょうか。
任意後見制度は、ご本人に十分な判断能力があるうちに、ご自身の選んだ後見人と財産管理などサポートを受ける内容を契約しておく制度です。任意後見は、ご本人が判断能力に不安を感じたときに家庭裁判所に申立てをおこない、任意後見監督人を選任することによって開始されます。
本記事では、任意後見制度の仕組みと任意後見人になれる人や任せることのできる職務の内容について、任意後見制度を利用する手続きに沿って詳しくご説明いたします。
任意後見制度のメリット・デメリットについてもご理解いただいた上で、ご自身の人生を豊かにするために任意後見契約が必要かどうかを判断して頂ければと思います。
目次
1.任意後見制度は判断能力があるうちに後見人を決めておく制度
任意後見制度とは、ご本人に十分な判断能力があるうちに、将来、認知症などにより判断能力が低下したときに備えて、ご自身が選んだ後見人に代理してもらう事務について契約しておく制度です。将来、任意後見人になる方を「任意後見受任者」といいます。
任意後見は、ご本人の判断能力が低下して家庭裁判所で任意後見監督人が選任されたときから始まります。任意後見受任者は、任意後見人となり後見事務(ご本人の支援)を行います。
図1:任意後見制度
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があります。法定後見制度は、判断能力がすでに不十分な方を保護するために、家庭裁判所が後見人を選任するという点が任意後見制度との大きな違いです。任意後見と法定後見の違いを一覧表で確認しましょう。
表1:任意後見と法定後見の違い
2.任意後見人を利用する手続き5STEP
任意後見契約は元気でしっかり判断能力があるときに結びます(STEP①~③)。契約を締結したときに任意後見が始まるわけではありません。ご本人が預貯金の管理や契約時の意思決定に不安を感じた場合やご家族や任意後見受任者から見てご本人の判断能力が低下してきたと思われる場合に、家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、任意後見が開始されます(STEP④、STEP⑤)。
図2:任意後見人を利用する手続き5STEP
2-1.STEP①:任意後見人になれる人を決める
任意後見人になれる人の条件は決められておらず、任意後見人になれない事由に該当しなければどなたでもなることができます。ご本人が信頼を寄せるご家族や友人、あるいは弁護士・司法書士などの専門家に頼むこともできます。社会福祉法人、NPO法人等の法人が任意後見人になることも可能です。
【任意後見人になれない人】
①未成年者
②家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
③破産者
④本人に対して訴訟をしたことのある人、その配偶者と直系血族
⑤行方不明者
⑥不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2-2.STEP②:任意後見人ができること(契約内容)を決める
任意後見人に任せる内容や報酬は、契約で自由に決めることができます。ご本人の実現させたいライフプランを反映させるとよいでしょう。たとえば、「生活費は年金で賄えるようにしたい」「身体が不自由になった時は、できるだけ自宅に住み続けられるよう介護設備を備え付けてほしい」など、将来どのように生活をしたいかを考えると必要な契約内容がわかってきます。
また、任意後見人に支払う報酬は親族の場合は無償にすることも可能です。弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合の報酬の目安は、一般的に3万円~5万円程となります。
【任意後見人ができること】
①財産管理(預貯金の出し入れ、年金の受け取り、不動産の管理など)
②身上監護(ご本人の生活に関する法律行為:要介護認定の申請手続き、介護サービス契約の締結など)
図3:任意後見人ができること
任意後見人ができないこともありますので把握しておきましょう。
【任意後見人ができないこと】
①日用品の購入、身の回りのお世話
②介護・医療行為への同意
③身元保証人、身元引受人になること
④婚姻・子の認知
⑤遺言書の作成
2-3.STEP③:任意後見契約を公正証書で締結
任意後見契約は、法律で公正証書により締結しなければならないと決められています。公正証書は公証役場にて公証人が作成する文書で、契約内容が法律に反しないことを証明します。
公正証書を作成する際の手数料は約2万円です。
【公正証書の作成手数料】
①公正証書作成の基本手数料:11,000円
②登記嘱託手数料:1,400円
③法務局に納める印紙代:2,600円
④郵便切手代(600円程度)
⑤原本超過枚数加算:1枚250円
⑥正本謄本の作成料:1枚250円 など
任意後見契約が結ばれると、公証人が法務局に後見登記を行います。任意後見人は法務局から”任意後見人であること”および”代理権の範囲”を対外的に証明する「登記事項証明書」を受け取ります。
注意点として、任意後見契約公正証書を作成しても、任意後見契約の効力が発生するわけではありません。将来ご本人の判断能力が低下して任意後見監督人の選任申立てを行うとき(STEP④)と任意後見契約が開始され契約を結ぶ際に任意後見人であることを証明するため(STEP⑤)に、「登記事項証明書」を利用することになります。
2-4.STEP④:任意後見監督人選任の申立て
ご本人の判断能力が不十分になってきた場合は、任意後見契約を開始するためにご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、「任意後見監督人の選任申立て」手続きをおこないます。
【申立てができる人】
・ご本人
・配偶者
・四親等内の親族
・任意後見受任者
2-5.STEP⑤:任意後見の開始
家庭裁判所から任意後見監督人が選任されると、任意後見契約の効力が発生します。任意後見監督人は、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。
任意後見受任者は任意後見人となり、任意後見契約で決めた内容に基づいてご本人の支援をスタートします。任意後見人はすみやかに、財産目録、収支予定表、後見事務報告書を作成し任意監督人に提出しなければなりません。その後は毎年1回定期報告を行います。
任意後見監督人は、任意後見人が適正に仕事を行っているかを監督します。任意後見監督人から家庭裁判所に報酬付与の申立てが行われた場合は、ご本人の財産から報酬が支払われます。任意後見人が無償であっても監督人の報酬は発生します。
3.任意後見制度のメリット・デメリット
任意後見制度の利用をするべきか迷われている方に向けて、メリットとデメリットをご説明いたします。
【任意後見制度のメリット】
①任意後見人と契約内容をご本人が選択し決定できるため意思を反映できる
②任意後見人は登記されることにより、任意後見人であることを公的に証明できる
③任意後見監督人から任意後見人の職務をチェックしてもらえるため安心できる
【任意後見制度のデメリット】
①任意後見人は、ご本人がおひとりで不利益な契約をしてしまったときに取消権がない
(判断能力が低下すると利用が難しい)
②任意後見人に死後事務(葬儀の手配や遺品整理、遺産分割など)は任せられない。
(任せられる職務は生存中の財産管理に限る)
4.まとめ
任意後見制度は、判断能力があるお元気なうちに、判断能力が低下したときに備えて、「誰に後見人をお願いするか」「どんな支援を受けたいか」を契約しておく制度です。
任意後見契約は、判断能力が低下して家庭裁判所から任意後見監督人が選任されたときに初めて効力が発生するため、判断能力がしっかりされたまま生涯を終えれば、任意後見がスタートしない可能性もあります。また、任意後見契約は判断能力の低下に対する備えのため、身体が自由に動かなくなったときや亡くなられた後の事務を対応してほしい方は、別途委任契約を結ぶ必要があります。
任意後見契約とご自身に合った契約を組み合わせてトータルでサポートしてもらうことにより、これからの生活がより安心でき満ち足りたものになるでしょう。任意後見をスタートする時期を的確に判断するために見守り契約を結ぶのも効果的です。
任意後見契約の内容についてのご希望やご自身のライフプランを明確にするために、一度専門家にご相談されることをおススメ致します。