納得できない遺言の無効を主張するために確認すべき2つのこと
- 遺言
「10年前に母に先立たれ、1人暮らしをしていた父が亡くなった。長女の私は、離れて暮らしていたが、時々父の様子を見に実家を訪れていた。父は、ここ数年忘れっぽくなっていた。兄は、実家の近くに住んでいたので、頻繁に出入りし、最近は父の財産を勝手に管理していた。兄から、父は長男である兄に財産を引き継がせるという自筆証書遺言書を残していたので、遺言どおりに手続きすると聞かされた。こんな一方的な遺言には、到底納得できない。無効を主張するにはどうすればよいのだろうか?」
「遺言書があるから、遺言どおりに手続きを進める」といわれてしまったら、「反論しても無理だろう・・・」と思ってしまう方は多くいらっしゃると思いますが、絶対に納得できない遺言に関しては、「どうにかしたい!」と諦めきれない気持ちだと思います。
この記事では、遺言の無効を主張するためのチェックポイントと、無効にするための方法について詳しく説明しています。また、遺言の「こんな場合はどうなるの?」という疑問点についても解説いたします。遺言書どおりに手続きを進めることに疑問を抱かれている場合には、この記事を参考に対処法を検討して頂ければと思います。
目次
1.遺言の無効を主張するための2つの確認ポイント
相続において、亡くなられた方の最後の意思である遺言は、最優先されるべきものだとされています。また、遺言書が残されていれば、相続人の同意を得なくても、その内容に従って手続きを進めることができます。
しかし、遺言書が残されていても、法的に有効でなければ、遺言の効力は認められません。遺言書を無効とみなす確認ポイントは、大きくわけて2つあります。
一つ目は、法律で定められた方式とは異なる形式で書かれていた場合です。もう一つは、遺言者の意思によるものではなく、他者から強要された内容で遺言書が書かれていた場合です。どちらか一方でも該当すれば、その遺言書は無効となります。
方式や内容については、いくつかの判断ポイントがありますので、2章で詳しくご説明いたします。
図1:遺言が無効になるケース
2.遺言書の種類別にみる有効性を判断するポイント
遺言書は、単に相続分が少なくて納得できないという理由だけでは、無効にすることは難しいでしょう。しかし、法的に無効だと証明できれば、遺言書の内容にそった分け方をする必要はなくなります。
遺言書の種類がいくつかあることはご存知だと思いますが、今回は、一般的な「公正証書遺言書」と「自筆証書遺言書」を例にとって、法的に有効か無効かを判断するポイントをご説明いたします。
※遺言書の種類について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2-1. 方式に不備が見つかれば無効
遺言書が公正証書遺言書の場合、遺言書作成の専門家である公証人の立ち合いのもと、作成されているものなので、方式などに不備があるということは、ほぼないといえますが、必須条件である証人の方に、欠格事由に該当するなどの問題があった場合、その遺言書は無効となります。
遺言者だけで作成できる自筆証書遺言書の場合は、気軽に作成できるがゆえに、形式に不備が見つかる可能性はあります。財産目録以外はすべて直筆で書かれていなければならず、代筆や録画、録音は認められません。日付、署名、捺印なども正しくなされていなければならないなど、クリアすべきチェックポイントがいくつかあります。さらに、書き損じや訂正、加筆の仕方などが正しくされていない場合も、無効となる可能性があります。
表1:方式に関する主なチェックポイント
【公正証書遺言書】
・証人は2人以上いるか
・証人が相続の利害関係人、もしくは欠格事由に該当してはいないか
・遺言者、証人、公証人全員の署名、捺印がなされているか
【自筆証書遺言書】
・財産目録以外はすべて遺言者の直筆で書かれているか
・作成日の記載があるか
・自署で署名、捺印がされているか
・書き損じや訂正、加筆が正しくなされているか
・訂正や加筆箇所に捺印はされているか
図2:自筆証書遺言書のチェックポイント
図3:自筆証書遺言書の訂正・加筆の仕方
※自筆証書遺言の書き方について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2-2.意思能力がなかったことが明らかであれば無効
明らかに意思能力がないと判断される方が作成した遺言書は無効となります。あまりない事例といえますが、15歳未満の方の遺言で、たとえ親権者の方が代理で作成しても、その遺言は無効です。
認知症の疑いがあった方の場合の遺言書は、遺言書作成時点において、明らかに意思能力がない状態であったことを証明できれば、その遺言書は無効となります。意思能力があるかどうかの判断は、医学的な証明が必要になるため、診断書やカルテなど、具体的に証明できる書類が必要です。
しかし、認知症の場合で難しいのは、一時的に意思能力が回復しているときに2名以上の医師が立ち合い、遺言書を作成していたとなれば、有効とみなされますので、無効を立証することは難しいでしょう。
図4:遺言書作成時点の意思能力が重要
※公正証書遺言でも無効になる場合について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
3.納得できない遺言を無効にするための方法
遺言の内容に納得のいかない場合や、明らかに無効となる遺言書がある場合は、まず相続人同士の話し合いで解決することが前提となります。しかし、一人でも無効に納得しない方がいれば話し合いはまとまりませんので、その場合は裁判所を介入させ、法的に無効であるかどうか判断してもらう手続きが必要です。
遺言を無効にしたい場合の解決方法を、段階的に説明いたします。
3-1.全員の同意を得て遺産分割協議に切り替える
遺言を無効にしたい場合、まず相続人全員との話し合いで解決できるようにします。遺言書により財産を分与される受遺者の方や、遺言執行者が指定されている場合は、その方を含めて話し合いが必要です。
話し合いで全員の同意が得られれば、遺言内容とは異なる分け方で相続財産を分割することが可能です。
全員の納得のいく割合で遺産分割を決めましょう。
この場合、特別な手続きもいらないので、相続税の申告が必要な場合でも、遺産分割協議で決定した内容で遺産分割協議書を作成し、申告すれば何も問題はありません。
3-2.調停の手続きをする
相続人や受遺者の方の中で一人でも遺言を無効にすることに反対をしている方がいた場合には、当事者だけの話し合いでは解決できないかもしれません。この場合は、家庭裁判所に「遺言無効の調停」を申し立てることになります。
調停は、調停委員が当事者の間に入って、お互いの主張を聞き、双方の妥協点を見出して解決していく方法です。あくまで話し合いでの解決策のため、調停でも解決することが難しいと予想される場合は、調停を省略して、3-3で説明する「訴訟」を申し立てることができます。
3-3.調停で解決できなければ訴訟の手続きをする
調停では解決できなかった場合は、訴訟の申し立てをすることになります。
「遺言無効確認訴訟」といい、遺言の無効を主張する相続人の方が原告となり、それ以外の相続人や受遺者の方が被告となり争います。
裁判所の判決で遺言が無効になるかどうかが決まりますが、相続人間の関係性が悪化する可能性や、裁判が長期戦になることもありますので、覚悟が必要です。
最終的に遺言書が有効であると判決された場合は遺言書どおりの内容で、無効と判決された場合は遺産分割協議で分割内容を改めて決めることになります。 当事者間での遺産分割協議が難しい場合には、遺産分割調停を申し立てることもできます。
図5:遺言を無効にしたい場合の解決方法
4.正しい手続きをすれば遺留分は受け取れる
遺言があっても、相続人の方には最低限相続できる割合である遺留分が法律で守られています。遺留分は遺言書より優先される権利ですので、遺言での相続分が遺留分を下回っていた場合には、遺留分までは取り戻すことができます。遺留分の請求ができる相続人の方は、亡くなられた方の兄弟姉妹以外の相続人となります。
遺留分の請求は、請求期限がありますので、どのような結論に至ろうとも遺留分だけは取得できるように、調停や訴訟の申立てと同時に、遺留分を請求する意思を明確に示しておきましょう。
図6:相続人に認められる遺留分と請求期限
※遺留分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※遺留分侵害額請求権について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.こんな場合に遺言はどうなるの?知っておきたい3つのケース
遺言の扱いで疑問の生じやすい3つのケースを説明いたします。
5-1.遺言書に書かれている財産が実際にはなかった場合
相続する際に、遺言書に記載されている財産がすでになかった場合でも、遺言そのものが無効になることはありません。存在する財産に関してのみ、遺言書どおりに分けることになります。
相続財産は亡くなられた方の財産なので、本人がどのように使おうと自由です。遺言書に書いたからといって財産を残しておかなければならないというものではありません。
無いものはないとして、実際に残っている財産だけを相続します。相続できなかった相続人の方が、無い分を請求することはできません。
5-2.遺言書が勝手に開封されていた場合
遺言書をだれかが勝手に開封してしまったとしても、開封したことを理由に、その遺言が無効になることはありません。開封されてしまった場合は、開封したことを伝えて、家庭裁判所での検認の手続きをおこないます。開封してしまったことを黙っていた場合には、罰金となることもあるので注意しましょう。
5-3.遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合
遺産分割協議後に遺言書が発見された場合、原則として、その遺言書は無効ということにはなりません。この場合には、二つの対処法があります。
一つ目は、遺産分割協議の内容を白紙に戻して、改めて遺言書の内容に従って相続をやり直すという方法です。遺言に時効はなく、基本的には遺言があれば、遺言に従うことになりますので、こちらのやり方が原則にはなります。
二つ目は、遺産分割協議で決めた内容をそのままにすると決める方法です。相続人全員が同意して、そのことに納得しているのであれば、発見された遺言書を無視しても問題はありません。
6.まとめ
遺言は相続において最優先されるべきものですが、場合によっては遺言自体が効力を失うケースや、無効にできるケースがあります。また相続人の方など、すべての利害関係者の同意が得られるのであれば、遺言とは異なった分割をすることは可能です。
遺言の無効に関し、相続人同士の話し合いで解決できない場合には、無効を証明する証拠を用意し、裁判所での手続きをする流れとなります。
しかし、遺言の無効を主張しても、最終的に遺言が無効にならない場合も十分に考えられますので、遺留分の請求をする意思を明確に示しておくことを忘れずにおこなってください。
また、相続人同士で意見が対立している場合には、長期的な争いに発展する可能性がありますので、こじれて関係性が破綻してしまう前に、早めに弁護士などの専門家に相談し、解決できる方法を検討することをお勧めいたします。