株式譲渡をしたら確定申告をしよう!判断基準とお得な制度を知ろう
- 有価証券
株式投資をはじめて1年目は順調に終わりそうだ。
決して多くとは言えないが少しばかりか利益が出ていて、とてもうれしく思っている。
「利益がでたら必ず確定申告をしなければならないのだろうか。」
「会社員で確定申告をやったことがないけど手続きはどのようにしたらよいのかな。」
「確定申告をすると、税金が戻ってくるのだろうか。」
確定申告をはじめてするという方は、そもそもご自身が対象かどうか分からないですよね。
本記事では、お給料以外に株式の譲渡(売却)があった場合に、確定申告をしなければいけないのかの判断基準を初めにお伝えします。
確定申告が必要ないケースや特定口座の方でも確定申告をした方が良いケース、さらに確定申告の手続きの方法についても参考にしていただければと思います。
目次
1.株の売買をして20万円超の所得があれば確定申告が必要
サラリーマンが給与でもらう所得については、会社で年末調整をするため会社が本人に代わって税金を計算して納税をしてくれます。よって、確定申告は不要です。しかし、会社からの給与以外の収入を得ている場合は、確定申告が必要です。株の取引などで利益が出た方も当てはまります。
-
- 【確定申告が必要な人】
- 給与を1か所から受けていて、給与所得及び退職所得以外に「20万円を超える所得」がある
- 給与を2か所以上から受けていて、主たる給与所得及び退職所得以外に「主たる給与以外の給与+20万円を超える所得」がある
- 給与の収入金額が2,000万円を超える
図1:給与所得と株式等の利益による、確定申告の考え方
2.株式譲渡益から税金を計算する方法
株式譲渡をしたときは、他の所得と区分して税金を計算する「申告分離課税」となり、原則として自分で確定申告をしなくてはいけません。譲渡所得(損益)に対して税率を掛けることで、納付すべき税額を算出できます。株式等の譲渡所得等に対する申告分離課税の税率は20.315%(令和3年度)です。
図3:株式譲渡の損益計算式
収入金額:株式を譲渡したときの売却価格
取得費:株式の購入費用
費用等:株式を売却するときの手数料や諸費用
3.株式譲渡があっても確定申告をしなくていい3つのケース
株式譲渡があった場合、基本的には「申告分離課税」で確定申告をする必要がありますが、次の場合には、確定申告は不要です。
3-1.年間を通して株式譲渡の損失が出ている場合
「上場株式」「一般株式」の各グループで、それぞれ譲渡損失が出た場合は、給与所得以外の所得が20万円以下になるので、確定申告の必要はありません。
そして、「上場株式」「一般株式」の各グループそれぞれの譲渡による赤字は、他の株式のグループの黒字と相殺できません。もちろん、給与所得などの他の所得とも相殺できません。基本的には、その年の株式等の譲渡による赤字は切り捨てられます。
3-2.「特定口座で源泉徴収あり」を選択している場合
株式投資をはじめるには、まず証券会社で口座を開設します。口座には、証券会社が確定申告の書類を準備してくれる「特定口座」とご自身で確定申告をする「一般口座」があります。
①特定口座(源泉徴収あり)、②特定口座(源泉徴収なし)、③一般口座の3種類の中からどの口座にするか選択します。「①特定口座の源泉徴収あり」を選択した方のみ確定申告が不要になります。ただし、特定口座内で取り扱えるのは「上場株式」に限られる点は注意が必要です。
図2:株の証券口座の種類と確定申告の考え方
3-3.NISA口座で取引して譲渡益が出ている場合
NISA(少額投資非課税制度)とは、口座内の少額上場株式の譲渡益や配当金を一定額非課税にする制度です。譲渡益や配当金が非課税になるので、確定申告の必要はありません。
株式等の譲渡益や配当金が非課税になる反面、デメリットとしては、損失が出た場合でもその損失はなかったものとみなされるため、後の4-1で説明する上場株式等の譲渡損失に係る「損益通算」及び「繰越控除」の対象にはなりません。
4.確定申告をした方がお得な3つのケース
確定申告の必要がなくても、確定申告をした方がお得になるケースがあります。
4-1.「上場株式等」で譲渡損が出た場合
「上場株式等」の譲渡損失がある場合には、損益通算と繰越控除をしましょう。確定申告することによって、「上場株式等の譲渡損失に係る損益通算及び繰越控除」という特例の適用を受けることができます。これにより、譲渡損失の金額を該当年分の上場株式に係る配当等と相殺することができます(「損益通算」)。
図4:損益通算イメージ(上場株式の譲渡損失と配当)
損益通算してもまだ損失が残る場合には、その損失の金額を、翌年以後3年間にわたって上場株式の譲渡利益と上場株式の配当と相殺することが可能です(「繰越控除」)。この繰越控除も確定申告をしないと適用がありません。
図5:譲渡損失3年間の繰越控除
【注意】
譲渡損失があっても損益通算しない方が良い場合があります。専業主婦のような夫の扶養に入っている人が、特定口座(源泉徴収あり)で株の譲渡をしている場合です。
特定口座(源泉徴収あり)で取引をしている場合、譲渡益がたとえ1,000万円あったとしても、確定申告をしなければ、妻の所得はカウントされず0円となり、年間の所得が38万円以下となり夫の扶養となります。しかし、1年目に株式の譲渡損200万円を確定申告して、翌年以降に繰越し2年目に株式の譲渡益が100万円出た場合には対応が必要です。
特定口座で源泉徴収されている税額を還付するために確定申告をすると、次のような課題が発生します。
(妻の所得)
× 譲渡益100万円-繰越控除100万円=0円
○ 繰越控除前の100万円 ※所得が38万円を超えてしまい、夫の扶養から外れてしまう。
妻が還付される税額と、扶養から外れて夫が負担する税額との比較で考えるべきでしょう。
4-2.複数の特定口座(源泉徴収あり)で利益と損失がある場合
特定口座(源泉徴収あり)を複数所有している場合、申告するかどうかは口座ごとに選択できます。しかし、一方の口座で譲渡益が出て、もう一方の口座では譲渡損があった場合には通算がされません。1つの口座であれば通算されますが、2以上の場合は確定申告をして利益と損失を相殺し、還付を受けることになります。
例)A口座 譲渡益50万円、配当10万円
B口座 譲渡損20万円、配当5万円
上記の場合、A口座の譲渡益50万円、B口座の譲渡損20万円、配当5万円を申告して、A口座で払いすぎた税金を還付してもらうことができます。そして、上場株式の譲渡所得 50万円-20万円+5万円=35万円(所得38万円以下)になり、A口座の配当所得を申告しないことによって、扶養から外れることもありません。
ここで一度申告をした内容は、後で変更することはできませんので、どの口座を申告するのか慎重に吟味しましょう。
4-3.配当控除を受ける場合
上場株式の配当については、大口の株主等を除いて基本的には源泉徴収されているので、確定申告をする必要がありません。しかし、配当所得については「申告分離課税」と「総合課税」のどちらかで申告することを選択できます。
総合課税とは、各種所得の金額を合計して所得税を計算するというものです。サラリーマンの場合、給与所得と配当所得を合算して、所得税の計算をします。そして、総合課税の対象とした配当所得については、配当控除という控除が受けられます。
ちなみに、申告分離課税を選択した場合には、上場株式等の譲渡損失との「損益通算」が可能ですが、配当控除の適用はありません。
源泉徴収での税率は所得税と住民税合わせて20.315%に対して、総合課税の税率は7.2%~になっています。給与所得がそれほど多くない場合は、総合課税で申告をした方が有利です。
申告分離課税の場合には、源泉徴収税率と同じ20.315%なので、所得が695万円を超え、上場株式等の譲渡損失がない場合には、あえて申告する必要はないでしょう。
5.確定申告書は国税庁のホームページで作成できる
確定申告をした方が有利だと判断したら、さっそく確定申告書を作成してみましょう。最近では、国税庁のホームページがとても充実していて、簡単に確定申告書が作成できます。
5-1.確定申告の必要書類
確定申告書を作成する前に、まずは以下の書類を準備してください。
・給与所得、公的年金などの源泉徴収票
・特定口座年間取引報告書(一般口座の場合は、ご自身で1年間の取引金額を集計する必要があります)
・還付先の金融機関の口座番号(本人名義に限る)
・認め印
図6:源泉徴収票
図7:特定口座年間取引報告書
図8:口座番号と認め印
5-2.国税庁の確定申告作成コーナーへ
国税庁の「確定申告作成コーナー」では、画面案内に従って必要事項などを入力するだけで、確定申告書を作成することができます。e-Taxを利用しなくても、作成した確定申告書をプリントアウトし、印鑑を押し、必要書類を添付して税務署へ郵送すれば、提出完了です。確定申告を初めて作成する方でも、とても分かりやすくなっていますので、ぜひチャレンジしてみてください。
図9:確定申告書等作成コーナー
6.最後に
株式の譲渡がある場合でも、特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合は、基本的には確定申告の必要はありません。
しかし、確定申告をした方が節税になる場合もあります。
手間とご自身が得をすると感じる損益分岐点のようなポイントは難しいですが、手間だと感じるのは慣れてない数回の確定申告だけです。確定申告は「めんどうだ」「難しい」というイメージが、実際にはあると思いますが、ぜひ、国税庁のホームページにある「確定申告作成コーナー」を利用してみてください。
きっと、意外と簡単!と思うはずです。