【特別寄与料の完全ガイド】請求できる要件と請求方法・相場を解説
- 相続手続き
「ずっとお義父さんの介護をしてきたけど、私には相続の権利はないのね…」
長男の妻として、義理のご両親のお世話を献身的に行ってきたとしても、長男の妻(配偶者)は相続人ではないため相続財産を受け取ることはできません。
特別寄与料は亡くなられた方のために介護・看護などをした親族で、相続財産を引き継ぐことができない方の貢献に報いる制度です。
本記事では、近年新しくスタートした特別寄与料について、請求できる方や要件、特別寄与料の金額の目安を詳しくご説明いたします。新しい制度を活用して、円満に相続の話し合いを進めていただければと思います。
目次
1.特別寄与料は相続人以外の親族が金銭を請求できる権利
特別寄与料は、亡くなられた方の親族で相続人ではない方が、亡くなられた方の財産の維持または増加について特別の貢献をした場合に、相続人に対してその貢献に応じた額の金銭の支払いを請求することができる制度です。たとえば長男のお嫁さんなど相続人ではない方が亡くなられた方の介護をしてきたケースや亡くなられた方の事業(自営業、農業など)に無給で携わっていたケースなどが該当します。
従前の制度で「寄与分」があります。寄与分は、亡くなられた方の財産の維持や増加について特別な貢献をした相続人がその貢献に応じて、相続で通常もらえる相続分に加えて相続財産を受け取れる制度です。寄与分と特別寄与料の違いは、請求できる人です。寄与分は相続人が主張できる権利であり、特別寄与料は相続人以外の親族が主張できる権利です。
図1:長男の妻が介護してきた場合は特別寄与料を請求できる
2.特別寄与料を請求できる3つの要件
特別寄与料を請求できる3つの要件は下記の通りです。
①相続人以外の親族である
②亡くなられた方に対して無償で療養看護その他の労務の提供をした
③亡くなられた方の財産の維持または増加について特別の寄与をした
2-1.相続人以外の親族である
特別寄与料を請求できる方は、相続人以外の親族です。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指します。このうち、相続人でない方が対象になります。具体的には、息子のお嫁さん(1親等の姻族)、相続人でない亡くなられた方の兄弟姉妹(2親等の血族)、相続人でない甥姪(3親等の血族)などが該当します。内縁の配偶者やご友人、ホームヘルパーは請求できないということに注意が必要です。
2-2.無償で療養看護や労務の提供をした
亡くなられた方への献身的な介護や、亡くなられた方の家業あるいは農業などを手伝った場合でも、その貢献に見合った対価や報酬を得ていた場合は請求できません。無償で従事し貢献してきた場合のみ特別寄与料の対象になります。ただし無償とは、無報酬であるケースのほかに不十分な報酬しか受け取っていないケースが含まれます。
図2:特別寄与料が請求できる3つの例
2-3.亡くなられた方の財産の維持または増加に特別の寄与をした
亡くなられた方の療養看護を長年にわたり無償で努めたり労務の提供を行ったことにより、亡くなられた方の財産形成に大きく貢献したという点がポイントです。
たとえば長男のお嫁さんが介護をしたため、ホームヘルパーに依頼する費用を抑えることができて財産が残ったケースなどです。注意点として介護事業者への費用を負担した場合は労務の提供とみなされないため、特別寄与料の請求はできません。
3.特別寄与料の金額の目安
特別寄与料としてもらえる具体的な金額は、相続人と特別寄与料を請求できる方(特別寄与者)との間の話し合いにより決定します。
特別寄与料は相続人が取得した相続分から負担するため、そもそも相続財産が少ない場合や遺言があり分割について指定されていた場合には特別寄与料を受け取ることができない可能性があります。
3-1.療養看護・介護をしたケース
亡くなられた方の看護や介護を行った場合の特別寄与料の金額は、次の計算式で求められます。
特別寄与料=介護日数 × 介護報酬相当額 × 裁量割合
介護報酬相当額は、通常の介護サービスの料金を基準に設定されます。介護の度合いに応じて1日5,000円から8,000円程度です。裁量割合は、提供された介護の質や量に応じて調整されます。特別寄与者は介護の専門家ではないことから、介護報酬相当額に0.5から0.8の割合を乗じます。
【事例】
被相続人:お父さま
相続人:長男、長女
特別寄与者:長男の配偶者
長男の配偶者が亡くなられたお父さまに介護した日数:500日
介護報酬相当額:1日5,000円
裁量割合:0.7
特別寄与料=500日×5,000円×0.7=175万円
相続人が複数いるときは、各相続人が相続分に応じて負担します。今回の事例では相続人は長男・長女の2人なので、それぞれが特別寄与料として87万5千円(175万円×1/2)ずつ長男の配偶者に支払います。
3-2.事業に従事したケース
亡くなられた方の事業に従事した場合の特別寄与料の金額は、次の計算式で求められます。
特別寄与料=特別寄与者が通常得られたであろう給与額×(1-生活費控除割合)×寄与期間
特別寄与者が通常得られたであろう年間給与額とは、亡くなられた方の事業と同種同規模の事業に同年齢の方が働いていた場合に得ることができる給与の額です。政府がまとめた「賃金センサス」という統計資料をもとに計算します。
生活費控除割合は、特別寄与者が亡くなられた方と同居するなどして生活費を負担してもらっていた場合にその分を考慮して差し引く割合です。
4.特別寄与料の請求方法と請求期限
特別寄与料は相続人に請求しますので、ご自身の心の負担になったり、請求されたことを快く思わない相続人がいた場合にはトラブルに発展するリスクもあります。特別寄与料の金額の根拠となる書類の準備をしておくことが重要になります。介護日誌をつけたり、経費などの領収書を保管しておきましょう。本章では、特別寄与料の請求方法と請求期限についてご説明いたします。
4-1.相続人と話し合う
特別寄与料を請求する場合、まずは相続人と協議を行います。特別寄与料の請求について相続人と合意が得られればほかに手続きはありません。特別寄与料は、金額の目安(3章参照)に関わらず、特別寄与者と相続人が合意した金額にすることができます。
4-2.家庭裁判所へ調停を申し立てる
特別寄与者と相続人の協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てます。調停では調停委員が間に入り、話合いによりお互いが合意することで解決を図ります。
調停でも合意ができない場合は審判に移行します。
特別の寄与に関する処分調停について詳しくはこちら→https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_25/index.html
4-3.特別寄与料の請求期限
家庭裁判所への申立てを行う期限は、特別寄与者が亡くなられたことを知ったときおよび相続人を知ったときから6カ月以内、または相続開始の時から1年を経過した日までになります。
5.特別寄与料は相続税がかかる(2割加算の対象)
相続税は相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+相続人の人数×600万円)を超えるときにかかります。
特別寄与料は相続税を計算するときは、亡くなられた方から遺贈を受けたものとみなされ、相続税の課税対象になります。特別寄与者は相続税が2割加算されます。申告期限は特別寄与料の金額が確定したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
特別寄与料を支払った相続人は、相続税の課税対象となる財産から特別寄与料の金額を控除することができます。相続税の申告期限後に特別寄与料を支払った場合には、特別寄与料の金額が確定してから4ヶ月以内であれば更正の請求をすることにより、相続税の還付を受けることができます。
※遺贈について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※相続税の2割加算について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
6.さいごに
特別寄与料の請求権は2019年7月1日よりスタートしました。特別寄与料は、相続人以外の親族が亡くなられた方の介護などを無償で行った場合に、その貢献の程度に応じて相続人に金銭を請求できる制度です。亡くなられた方の財産の維持または増加に特別の寄与をしたなどの要件があります。
特別寄与料の金額は明確に定められていません。相場はありますが、実際に療養看護や労務の提供に携わっていた期間やその度合いに応じて特別寄与者と相続人の間で話し合って金額を決めることができます。
特別寄与料は、通常は相続人と話し合ってお互いに合意すれば支払ってもらうことができます。ただし相続人が納得できないケースや特別寄与料の金額に折り合いがつかないケースは多いです。
特別寄与料を請求したいとお考えの方は、相続に強い専門家にご相談されることをおススメいたします。