二次相続で予想外の相続税に苦しまないためのシミュレーションと対策

  • 相続税

「二次相続で相続税額の負担が増えると聞いたけれど、どういうことかしら?」
「二次相続に備えた相続税対策が知りたい」

ご両親の相続で、どちらかが先に亡くなられた相続を「一次相続」、残された配偶者も亡くなられた相続を「二次相続」と言います。たとえば一次相続でお父さまが亡くなられお母さまとお子さんが相続し、二次相続でお母さまが亡くなられお子さんのみが相続するケースです。

二次相続では相続税が増える可能性があります。そのためご両親の遺産分割は、将来を見通して一次相続と二次相続の相続税額をトータルで考えることが大切です。

本記事では、二次相続で相続税が増える3つの理由について詳しくご説明いたします。また、一次相続の遺産分割割合が二次相続の相続税額にどのように影響するのかをシミュレーションいたします。

二次相続で高額な相続税を支払わないための相続税対策について、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

1.二次相続とは両親の相続のうち2回目の相続のこと

ご両親のいずれか一方が亡くなり配偶者とお子さんが相続人になった相続を「一次相続」、残された配偶者も亡くなりお子さんのみが相続人となった相続を「二次相続」といいます。

配偶者が相続する際は、ご夫婦で財産形成をしてきたことや今後の生活の保障のため、相続税の税額軽減や特例を利用する場合に特別な配慮がなされています。相続税をできるだけ抑えたいと考え一次相続で配偶者に多くの財産を引き継がせてしまうと、二次相続で想定外の相続税を負担することになります。

相続税を節税するためには、一次相続と二次相続の合計額をシミュレーションした上で遺産分割をする必要があります。

図1:二次相続とは両親の相続のうち2回目の相続
図1:二次相続とは両親の相続のうち2回目の相続

2.二次相続で相続税が増える3つの理由

二次相続では一次相続より相続税が増える可能性が高いです。相続税の基礎控除額や非課税枠が減ること、配偶者の税額軽減が利用できないこと、小規模宅地等の特例が適用できるケースが限られること等が理由にあげられます。

2-1.相続税の基礎控除額・非課税枠が減る

二次相続では一次相続より相続人の数が一人減りますよね。1章の事例では、一次相続の相続人はお母さまと長男、長女の3人、二次相続の相続人は長男、長女の2人です。

相続税の基礎控除額は相続人の数で決まります。相続人の数が3人であれば基礎控除額は4,800万円(3,000万円+3人×600万円)なので、遺産総額が4,800万円を超えるときに相続税が発生します。二次相続で相続人の数が2人になると基礎控除額が600万円減り4,200万円になりますので、その分相続税の負担は大きくなります。

図2:相続税は遺産総額が基礎控除額を超えるときにかかる
図2:相続税は遺産総額が基礎控除額を超えるときにかかる

また、生命保険にも相続税の非課税枠があり、「500万円×相続人の数」で計算します。二次相続で相続人が1人減ると非課税枠も500万円減り相続税の負担が大きくなります。

図3:生命保険の非課税枠は500万円×相続人の数図3:生命保険の非課税枠は500万円×相続人の数

※基礎控除について詳しくは、こちらを参考にしてください。

2-2.配偶者の税額軽減が使えない

配偶者の税額軽減とは、配偶者が取得した財産について1億6,000万円または配偶者法定相続分のいずれか高い方の金額まで相続税がかからないという制度です。

一次相続の際に「配偶者の税額軽減」を適用すれば、配偶者の相続税はかからないケースがほとんどであるため、一次相続で配偶者に多くの財産を引き継がせると相続税が0円になることも多いです。ただし残された配偶者が亡くなられた二次相続では、お子さんが利用できる特例等が少ないため、高額な相続税を負担する場合があります(3章参照)。

一次相続時に二次相続を見据えた対策を講じることをおススメ致します。

図4:二次相続で税負担が大きくなる
図4:二次相続で税負担が大きくなる

2-3.小規模宅地等の特例を利用できる方が限られる

小規模宅地等の特例とは、一定の要件を満たせば亡くなられた方のご自宅の土地の評価額を最大80%減額する特例です。財産に不動産が含まれる場合は、小規模宅地等の特例が適用できるかどうかで相続税額は大きく変わります。特例を適用できる要件は土地を取得する相続人により異なります。

図5:小規模宅地等の特例でご自宅の土地の評価額は80%減額できる
図5:小規模宅地等の特例でご自宅の土地の評価額は80%減額できる

一次相続で配偶者が土地を相続すれば無条件で特例を適用できます(表1①参照)。一方、二次相続では相続の対象となるご実家で同居をしていたお子さんが相続開始時から相続税の申告期限までご実家を所有し、住み続けるという要件を満たさなければならない(表1②参照)など利用できる方が限られます。

二次相続で特例の適用を検討されている場合には、要件に合致しているかどうかや税制改正の情報などに常に意識を向けておく必要があります。

表1:二次相続では小規模宅地等の特例を利用できる方の要件が厳しくなる
表1:二次相続では小規模宅地等の特例を利用できる方の要件が厳しくなる

所有要件:相続開始時から相続税の申告期限まで所有していること
居住要件:相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること

※小規模宅地等の特例については、こちらを参考にしてください。

3.二次相続の相続税額シミュレーション

一次相続の遺産分割方法により、二次相続にどのような影響がでるのかをシミュレーションしてみましょう。相続税額は早見表で確認できます。

<事例>
財産総額:1億円
一次相続の相続人:お母さま・長男・長女
二次相続の相続人:長男・長女

①一次相続でお母さまがすべて相続して「配偶者の税額軽減」を適用した場合

(一次相続の相続税額)

  取得する財産額 相続税額
お母さま 1億円(すべて) 0円(配偶者の税額軽減を適用)
長男 0円 0円
長女 0円 0円

図5:配偶者の税額軽減を適用して相続税0円

図5:配偶者の税額軽減を適用して相続税0円

(二次相続の相続税額)※表2赤枠参照

  取得する財産額(法定相続分) 相続税額
長男 5,000万円(1億円×1/2) 385万円(770万円×1/2)
長女 5,000万円(1億円×1/2) 385万円(770万円×1/2)

(相続税額)一次相続0円+二次相続770万円=770万円

表2:相続人が子どものみの場合の相続税の早見表

※子どもが複数いる場合は等分する

②一次相続で法定相続分通りに相続する場合

(一次相続の相続税額)※表3黄色枠参照

  取得する財産額(法定相続分) 相続税額
お母さま 5,000万円(1億円×1/2) 0円(配偶者の税額軽減を適用)
長男 2,500万円(1億円×1/4) 157.5万円(315万円×1/2)
長女 2,500万円(1億円×1/4) 157.5万円(315万円×1/2)

表3:相続人が配偶者と子どもの場合の相続税の早見表

表3:相続人が配偶者と子どもの場合の相続税の早見表

(二次相続の相続税額)※表2黄色枠参照

  取得する財産額(法定相続分) 相続税額
長男 2,500万円(5,000万円×1/2) 40万円(80万円×1/2)
長女 2,500万円(5,000万円×1/2) 40万円(80万円×1/2)

(相続税額)一次相続315万円+二次相続80万円=395万円

①のように配偶者にすべての財産を引き継がせて「配偶者の税額軽減」を適用すれば相続税額は0円となりますが、一次相続と二次相続の合計額では②の法定相続分通りに遺産分割するよりも375万円(①770万円-②395万円)も多くなります。相続税を節税したい場合は一次相続時に二次相続まで考慮して遺産分割をする方がよいということになります。

4.二次相続の相続税対策

相続税は早めに財産を把握して対策をしておくことで、全体の相続税額を大きく変えることができます。

二次相続へ向けた具体的な5つの対策をご紹介します。ポイントはお子さんやお孫さんに資産を移転して配偶者の相続財産を減らすということです。実際には、相続税を専門としている税理士にシミュレーションを依頼することが得策ですが、ご自身でも検討してみましょう。

4-1.生前贈与により相続財産を減らす

暦年贈与により、毎年110万円までなら贈与税がかからない基礎控除枠を利用して生前に資産をお子さんやお孫さんへ移すことにより、将来発生する相続税の負担を減らす贈与の方法です。ただし、亡くなられる前3年~7年(段階的に延長)以内の贈与分はすべて相続財産として戻さなくてはならない決まりがあります。

計画的な贈与で財産を減少させることをご検討される場合には、少しでも早く実行しましょう。

※生前贈与の活用について詳しくは、こちらを参考にしてください。

4-2.生命保険の受取人をお子さんにする

生命保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。相続税の負担を少なくしたい場合は、生命保険金の受取人をお子さんにしましょう。配偶者には「配偶者の税額軽減」が適用できるため生命保険の非課税枠を利用しなくても相続税がかからないことが大半です。また、生命保険の非課税枠は受取人が法定相続人でないと利用できませんので、お孫さんを受取人にしても生命保険金は非課税になりません。

※生命保険について詳しくは、こちらを参考にしてください。

4-3.一次相続で配偶者の税額軽減を最大限使わない

二次相続で最も後悔につながりやすいのは、一次相続で「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」を最大限利用した場合です。一次相続でお父さまが亡くなられた時には、今後のお母さまの生活を案じて、住む家に困らないように自宅はお母さまに相続させたいなど多くの財産を相続することもあるでしょう。

「配偶者の税額軽減」は1億6,000万円または法定相続分までの財産が非課税となりますが、最大限利用してしまうと二次相続で高額な相続税を支払わなくてはならなくなります。一次相続で相続税の納税が必要になっても、二次相続と合計した納税額が下がる可能性がありますのでシミュレーションをすることが大切です。

※配偶者の税額軽減のデメリットについて詳しくは、こちらを参考にしてください。

4-4.一次相続で値上がりしそうな財産・収益財産はお子さんが相続

将来値上がりすることが見込まれる有価証券や家賃収入がある収益財産は、一次相続の際にお子さんが相続することを検討しましょう。一次相続で配偶者が相続すると、配偶者の相続財産を増やすことなりますので、結果的に二次相続でお子さんが多額の相続税を支払うことに繋がります。一次相続でお子さんが取得すると評価額を抑えることができますので相続税を節税できます。

4-5.一次相続でご自宅をお子さんが相続

一次相続時にお子さんがご実家に同居していた場合など「小規模宅地等の特例」を利用できる場合は、お子さんが相続することで二次相続における相続税の負担を大幅に軽減することができます。配偶者には「配偶者の税額軽減」が適用できるため、小規模宅地等の特例を利用しなくても相続税がかからないことが大半のため、お子さんに特例を適用する方が良いと言えます。お子さんが同居していない場合は、適用要件が複雑かつ厳しくなっていますので、対策されたい方は相続に強い税理士にご相談されることをおススメいたします。

5.さいごに

二次相続についてご理解いただけましたでしょうか。相続税対策は、一次相続と二次相続の相続税をトータルで考慮するということが大切です。一次相続の際に相続税がかからないからという理由で「配偶者の税額軽減」を最大限利用すると、二次相続で高額な相続税を支払うことになってしまいます。

二次相続対策で難しいのは「時期的な予測ができないこと」「財産の価値が変動する可能性が常にあること」です。定期的に財産の変動を加味してシミュレーションを繰り返していくとよいでしょう。

まずは現時点でご両親が所有されている財産がどれくらいあるのか確認しましょう。財産目録を活用して、預貯金・不動産・生命保険などの財産をご両親と一緒に整理します。少しでも相続税を減額するために早めに地道な節税対策を実践しておけば、将来の相続税の節税効果は大きくなります。

特例の適用要件などを意識して対策をとる必要があります。ご両親の財産を有意義に引き継ぐために、ぜひ相続に強い税理士のアドバイスを求めることをおススメします。

※財産目録について詳しくは、こちらを参考にしてください。

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