公正証書遺言が無効とならないために注意すべき3つの確認ポイント
- 遺言
「将来、相続で家族が揉めたりしないように、しっかりと自分の意志を遺言書に残しておこう」
「公正証書遺言は、公証役場で作成するから無効になることはないだろう」
生前にご家族で将来の相続について話し合うことは、可能な限り避けたいというお気持ちの方も、遺言書を書いておくことで、ご自身の意志をしっかりと残すことができます。
そして、遺言には種類があり、気持ちをしっかりと残して確実なのは公正証書遺言です。自筆証書遺言は比較的気軽に作れる分、無効になるリスクが高くなります。
ただし、公証役場で公証人にしっかりと作っていただく公正証書遺言でも、無効になることがあります。
本記事では、公正証書遺言が無効となるケースとならないケースについてご説明をしていきます。ご自身の意志を残したはずの遺言が無効にならないためにも、本記事を参考にしていただき、確実な遺言書を作成していきましょう。
目次
1.公正証書遺言が無効とならないための3つの確認ポイント
公正証書遺言は、公証役場に足を運び公証人が関与して作り上げていく遺言書であり、記載方法などに間違いが無いため、無効となるリスクはほとんどない確実性の高い遺言書です。
しかし、公正証書遺言であっても次の3つのポイントをおさえていない場合には、例外的に無効となってしまいます。次の3つのポイントを押さえて、公正証書遺言が無効にならないように気を付けましょう。
※公正証書遺言作成について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
1-1.【意思】遺言者本人の意思で作成していること
遺言はご自身の意思を残すためのものであり、相続人の希望を叶えるためのものではありません。
例えば長男から「○○のような内容で遺言書を作成しておいてほしい」とお願いされ、長男に有利な内容で遺言を作成した場合、遺言を作成した経緯を知った別の相続人が不服に思い、トラブルになれば無効となる可能性があります。
遺言書はあくまでもご自身の思いを書き記すものであり、ご自身の意思で決める必要があります。
遺言書には「どうしてこのような内容の遺言書を書くに至ったのか」という遺言者の想いや意志を残しておく付言というものがあり、自由に書くことができます。
特に偏った財産分割を記す場合には残されるご家族の幸せを願い、最後のメッセージを付言に記しておきましょう。
図1:遺言の作成はご自身の意思で
1-2.【証拠】遺言者が認知症などになっていないこと
遺言を作成した時期に遺言を作成したご自身がすでに認知症になっていた場合など、そもそもご自身の意志が明確に伝えられない状態で作成したとして遺言は無効になります。
認知症が発症している時期に作成した遺言の有効・無効を裁判で争う場合には無効の判決がでます。
公正証書遺言は公証人の方と作成するものですが、よほど受け答えが不自然ではない限り、認知症だとは気づかずに作成されてしまうことがあります。
作成した当時、認知症であったかどうかについては、医師の診断書やカルテ、ヘルパーの介護記録、また、介護保険の認定記録などで確認されることになります。
自覚症状がない場合もありますが、お元気なうちに早めに作成しておくことをおススメします。
またご自身の認知症等が心配な場合には、病院でテストを受けることができますので、病気等になっていないことを証明しつつ作成することをおススメします。
図2:認知症テストを受けることができる
1-3.【適正】証人には不適格とされる方を選任しないこと
公正証書遺言を作成する際には、遺言書の内容を決めたり、公証人と打ち合わせの日付を決めて打ち合わせに出向いたり、2人の方に証人になっていただくようにお願いをしたり、とやるべきことがたくさんあります。
そんな時に、ご家族の手を借りたくなってしまいますが、遺言書作成にはご家族の方が関わらないように注意しましょう。
遺言書の証人にも、ご家族の方が関与することは認められていません。証人として不適格とされる方は次の方になりますので、間違って選任しないように気を付けましょう。
<証人として不適格とみなされる方>
配偶者、直系血族、四親等内の親族、推定相続人、受遺者、未成年者、欠格者、遺言を作成する公証人の配偶者、公証役場の職員
図3:ご家族の意見に耳を傾けないこと
2.財産内容に変動が生じた場合の有効・無効の考え方
遺言を作成してから時間が経つと、財産が変動して遺言の内容と実際の財産に差異が生じてきます。遺言書を作成したら定期的に財産の内容を見直し、遺言書を作成し直すことが理想的です。
ただし、現実的には公正証書遺言は費用も高いため、なかなかそのようなことはできません。
2-1.財産が変動していてもすべてが無効になるわけではない
財産に変動が生じることは自然なことで、増えたり、減ったりしたからといって遺言書が無効になることはありません。
内容が大きく変わってしまう時は書き直すことをおススメしますが、財産の項目は変わらず、ある程度の増減だけであれば遺言書が無効になることはありません。
2-2.財産を売却したら、処分したものだけ無効
事情が変わり、遺言書作成したあとに遺言書に記した不動産を売却してしまうこともあります。
この場合、売却して得た現金の一部を不動産の代わりとして引き継いでもらうことはできません。不動産が財産からなくなれば、その部分は無効となります。
2-3.財産が増えていたら、増額分だけ分割協議の対象となる
遺言に記されていない財産が増えた場合には、増えた財産の分割は相続人の皆さんで改めて遺産分割協議などで分け方を決めてもらうことになります。
よって、遺言書を作成する時には金額まできっちり指定したものではなく、できるだけ「記載のない財産」が生じないような工夫が必要です。
図4:遺産分割協議
3.すでに作成した公正証書遺言を無効にしたい場合の対処法
手間暇かけて作成した公正証書遺言であっても時間の経過とともに様々な事情により内容を変更したいと思ったり、遺言自体を無かったことにしたいと思ったりすることがあります。
一度作成した公正証書遺言を無効にするにはどのようにすればよいのでしょうか。
3-1. 無効の手続きをおこなう
以前に作成した公正証書遺言を無効にしてなかったことにしてしまいたい場合は「撤回」の手続きが必要となります。作成した時と同じように、2人の証人の前で公証人に対して、公正証書遺言をなかったことにしたい旨を述べ、署名捺印をします。
3-2. 新しく作成し直せば古い遺言書は無効となる
公正証書遺言を新しく作成してしまえば、古い日付の遺言よりも新しい日付の遺言の方が有効となります。よって、新しく遺言書を作成すれば、以前の遺言書を無効にする撤回の手続きは必要ありません。
ただし、新しく作成した遺言に記されていないが、古い遺言には記されているものなどは、古い遺言書の内容が有効となります。
4.まとめ
公正証書遺言がどういう時に無効となるのか、ご理解いただけましたでしょうか。
公証役場でわざわざお金を支払って作成した公正証書遺言が、将来無効になってしまうことは悲しいことです。
公正証書遺言が無効にならないためにも、しっかりと公正証書遺言のルールを順守するとともに、公正証書遺言に込めた想いは付言に記して残された家族が円満に相続できるようにしましょう。