公証役場で作る遺言とは?公正証書遺言のメリットと作成手順・手数料
- 遺言
遺言についての書籍や雑誌を目にしたり、友達からも親の相続時に遺言があってよかったなどの話を聞くようになる今日この頃、「公証役場で作成する遺言が良い」とご友人やメディアで耳にされたことと思います。
ご夫婦で築いてきた財産をご自身が亡くなられたあと奥さまが老後に不安がないように、そしてお子さんたちが揉めることが無いようにするためには遺言書の作成が最適です。
遺言書には大きく分けてご自身で書く自筆証書遺言と、公証役場へ行って遺言を遺す公正証書遺言と言うものがありますが、ここでは公証役場で遺言を遺すというのはどのようなことなのかご説明します。
目次
1.公証役場で取り扱う遺言書は2種類ある
公証役場とは一体どのようなところかご存知ですか?
公証役場とは法務省が管轄している国の機関となりますので、市区町村役場とは異なります。
お近くの公証役場を検索する方法:「日本公証人連合会」のサイト
http://www.koshonin.gr.jp/list
公証役場には、裁判官や検察官のOBなど公証人と呼ばれる法律実務家が常駐しており、遺言書を公正証書として作成することができます。公正証書とは公証人が作成する公文書のことを言います。つまり、公証役場で遺言書を作成するということは「国の機関で公文書を作成する」ということになりますので、自筆証書遺言と比べてメリットが高くなります。メリットについては2章をご確認ください。
また、その公証役場で取り扱う遺言書は2種類ありますので、違いをご説明します。
図1:公証役場のイメージ
図2:公証役場で取り扱われる遺言書は2種類
1-1.一般的に利用されている公正証書遺言
公正証書遺言を作成する場合、遺言の作成者であるご自身の他に2人以上の証人に立会ってもらい、公証人に対して遺言書に書きたい内容を口頭で伝えます。公証人はそれを遺言として正しい表現を用いて書き記していきます。遺言は遺言書の書き方が間違っていると無効になってしまいますが、公証人が作成することで不備が無くなります。また、この公正証書遺言は公証役場で原本を預かってもらうため紛失や見つからないといった事態を防ぐことができます。
詳しくは2章でご説明します。
1-2.秘密にしたい遺言を預ける秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言書に書いた内容をご自身以外の方には知られること無く遺言を遺したいときに利用する遺言書です。ご自身が作成した遺言書を封筒に入れて封をし、二人の証人を連れて公証人に提出します。遺言書の存在のみを公証人に証明してもらいます。
秘密証書遺言は、遺言者自身で署名・押印していれば、パソコンや代筆により作成することも認められています。ただし、検認が必要なことと、遺言の書き方に不備があると無効になる場合があります。
※検認について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.公証役場で公正証書遺言を作るメリットとデメリット
公証役場で公正証書遺言を作成することにどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
遺言の内容は、相続税を最大限に下げる工夫や遺留分などの注意事項をどうするか、後のトラブルが発生しないようにしっかりと考えることをお勧めします。そのためには、相続を専門にする税理士へまず相談することで遺言の内容や証人の課題も一緒に解決していくことができます。
2-1.公正証書遺言4つのメリット
公証役場で公正証書遺言を作成するメリットは次の4つです。
図3:公正証書遺言4つのメリットイメージ
2-1-1.メリット1:公証人が作成するため無効にならない
裁判官や弁護士のOBなど法律の専門家が公証人となって作成する公文書であるため、遺言書の形式不備により無効になる事はありません。せっかく作成しても無効になってしまったら意味がありませんので、安全、確実に遺言書を作成できることが最大のメリットです。
2-1-2.メリット2:書き換えられてしまう心配が無い
公証役場で作られた遺言書は、原本を公証役場で保管し、控えを遺言作成者であるご自身がもらいます。
よって、遺言書を第三者が書き換えて自分に有利な遺言にするなど、ご自身の意思と異なる相続になることを防ぐことができます。これは自筆証書遺言ではトラブルになることがありますので、とても大切な点です。
2-1-3.メリット3:紛失しても公証役場ですぐに検索できる
公正証書遺言を作成すると控えをもらって帰ってくるのですが、仮に控えを紛失しても公証役場で遺言書を確認することができますので安心です。公証役場には「遺言検索システム」があり、昭和64年1月1日以降に作成された全国の公正証書遺言を一元管理しています。
遺言を作成された方がご健在なときは、ご本人のみが検索を依頼できます。
遺言を作成された方が亡くなられた場合は、法定相続人や遺言で指定された受遺者、遺言執行者に限定して検索することができます。
2-1-4.メリット4:検認が不要ですぐに手続きができる
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言書が見つかったら偽造や変造を防ぐため、家庭裁判所で遺言書の存在と内容を確認する検認の手続きをしなければなりません。しかし、公正証書遺言の場合は、この検認の手続きが不要になります。よって、遺言者に相続が開始したらすぐに遺言の内容を執行する事ができます。
2-2.公正証書遺言2つのデメリット
公証役場で遺言書を作成するデメリットは次の2つです。
図4:公正証書遺言2つのデメリットイメージ
2-2-1.デメリット1:作成に手間と時間とお金がかかる
公証役場で遺言書を作成する場合、事前に必要書類を用意し、証人2人を決めたうえで、公証人と会う日時を決めるなど、多くの時間と手間がかかります。そして、公証役場で遺言を作成するには財産の額に応じて手数料が必要であり、証人へのお礼、専門家へ依頼するとその手数料も発生します。確実ではありますが、
時間と手間とお金をどう考えるのか、こちらがポイントになります。
主な費用は4-2.でご説明します。
2-2-2.デメリット2: 証人にお願いしないといけない
公正証書遺言を作成するには証人が2人必要であることはすでにご説明しましたが、推定相続人や利害関係者には証人を頼むことができないため、証人探しに苦労する場合があります。ご両親やご自身のご兄弟が推定相続人とならない場合にはお願いをすることも一つの案ですが、時間を取らせることや、ご自身の財産がすべて知られてしまうため全く関係ない方に依頼したい気持ちになります。
そんな場合には、手数料が発生しますが行政書士や弁護士、司法書士に依頼することもできます。
相続税対策や遺留分についての考え方を理解された方が後のトラブルになりませんので、まずは税理士へ相談して、証人を一緒に検討することがオススメとなります。
3.公証役場で遺言書を作成する4つの手数料
公証役場で公正証書遺言を作成するには費用がかかります。遺言書作成に必要な4つの手数料があります。
1.公正証書作成手数料(公証役場に払う)
公正証書の作成手数料は、財産を引き継ぐ人ごとにその引き継ぐ財産額をもとに手数料が決まります。
手数料は財産を引き継ぐ人ごとの手数料を計算して合算したものになります。
表1:公正証書遺言の作成費用一覧
【手数料の例】
ご自身の財産 :1億円 (遺言者)
奥さまの相続額:5,000万円
長男の財産額 :2,500万円
長女の財産額 :2,500万円
公証役場の手数料
奥さま(5,000万円) → 29,000円
長男 (2,500万円) → 23,000円
長女 (2,500万円) → 23,000円
1億円以下の加算 → 11,000円
よって、合計86,000円
各1部であれば必要ありませんが、2部以上必要な場合には、正本・謄本の手数料が加算されます。
図5:財産1億円を相続人3人で相続する遺言を作成した場合の作成手数料
2.必要書類と費用
必要書類と取得する際にかかる費用です。遺言者の財産内容によって異なります。
・住民票 350円
・印鑑証明書 400円前後
・戸籍謄本 450円
・除籍・原戸籍謄本 750円
・登記事項証明書 500円(すべて1通につき)
・固定資産評価証明書 0円(毎年送られてくる)
などです。
3.証人2人分の費用
公証役場に依頼をして専門家を2名決めてもらった場合、証人2人にかかる費用は1人につき5,000円から15,000円程度です。ご自身で弁護士や司法書士などの専門家を依頼した場合には、契約した金額を支払います。2-2-2.でご説明しましたが専門家以外に依頼するとなるとデメリットもありますので、慌てずに検討しましょう。
4.公証人の出張費用
遺言者が入院や障害などで公証役場へ出向く事ができない場合、公証人に出向いてもらう事ができます。その場合、公証役場で作成する手数料に対して1.5倍の手数料を支払うことになります。
以上の経費が必要になります。
専門家と一緒に遺言書を作成する場合には、相談内容によって異なりますがおおよそ30万円~を想定し、
財産が高額の場合には100万円を超えることもあります。遺言を作っても執行されないと意味がありません
ので、金額だけで判断するのではなく相続の専門家に相談することをお勧めします。
4.公証役場で遺言書を作成する6つのステップと必要書類
公証役場で遺言書を作成するにはどのような流れで進めていけば良いのでしょうか。
ここでは公正証書遺言ができるまでの6つのステップと、準備する必要書類、そして要する期間をご説明します。
4-1.公証役場で遺言書を作成する6つのステップ
公証役場に行き公正証書遺言の作成を開始し、完成するまでの流れを6つのステップでご説明します。
公証役場へ行けばすぐにでも作成してもらえるというわけではありませんので、大切な財産を誰に相続させるのか、について事前に準備してから公証役場に行きます。
図6:公証役場で遺言書を作成する流れのイメージ
ステップ① 遺言の内容をまとめておく
ご自身の財産をまずは書き出します。一般的には財産目録と言われているものを作成すると良いのですが特にフォーマットはありません。財産の種類とおおよその財産額を書き出します。
そのあと、誰にどのくらい引き継ぐのか、遺言書の内容を誰に実行してもらいたいのかなど、遺言書に記載する内容についてまとめていきます。
※財産目録について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
ステップ② 証人を決める
すでにご説明のとおり相続人以外の2名の証人が必要となります。財産内容や遺言の内容をすべて知ることができるため、信頼できる方または専門家を選びます。適当な公証人が見つからない場合は、公証役場で手配してもらうことができますので公証役場へ相談しましょう。
ステップ③ 必要書類の準備
詳しい必要書類は4-2でご説明しますが、ご自身に加えて証人、遺贈する方、遺言執行者といった関係者の書類も準備が必要となります。その他、財産内容のエビデンスも準備します。
ステップ④ 公証人との事前打ち合わせ
まずは電話をかけて決められた日時にご自身だけで公証役場へ相談に行きます。
無料相談のようなもので、財産を誰にどのくらい相続させるのかなどご自身が考えてきたことを公証人の方に一度話をして内容や表現方法など遺言書の方向性を決め原案の作成をしてもらいます。そして、遺言書作成日に必要な書類を確認したり、必要があれば証人の準備を依頼します。
最後には、遺言書作成日の予約をします。
ステップ⑤ 遺言書の作成、確認
予約をした日にご自身と証人2名が公証役場へ行きます。既に事前打ち合わせで出来上がっている遺言書の原案を元に、公証人は公正証書遺言の内容を口述により読み上げます。この時に遺言者の意思と遺言書の内容に誤りは無いか確認を行うことになります。
ステップ⑥ 完成(証人と共に署名押印、費用支払い)
遺言書に内容に誤りが無ければ遺言者と証人の2名が署名捺印をし、最後に公証人も署名捺印をします。これで公正証書遺言書の完成です。遺言書は合計3通作成され、そのうちの1通は原本として公証役場で保管されます。残りの2通は正本および謄本としてご自身が受け取ります。
最後に公正証書作成手数料を支払えば終了です。
4-2.公正証書遺言の必要書類
公正証書遺言の作成に必要な書類は次のとおりです。
【遺言作成者】
①遺言者と相続人との関係がわかる戸籍謄本
②ご自身の印鑑証明
③ご自身の実印(認印は不可)
④固定資産税納税通知書又は固定資産評価証明書(不動産を含む場合)
⑤不動産の登記簿謄本(不動産を含む場合)
⑥遺贈する場合はその人の住所・氏名・生年月日のわかる住民票等
⑦遺言執行者を指名する場合はその人の住所・氏名・生年月日のメモ
【証人】
①証人の住所、職業、氏名、生年月日のわかる資料
②証人の認印(シャチハタ禁止)
4-3.遺言書ができるまでに要する期間
公証役場で遺言書を作成する場合、4-2のとおり公証役場へは事前打ち合わせと作成当日の2回行くケースが多いです。その前の準備にどの程度時間を要するかにもよりますが、一般的にはおおよそ事前打ち合わせから完成まで2~3週間程度をみておきます。
5.公証役場で遺言書を作る前に聞いておきたいQ&A
公証役場で遺言書を作る際の手順やメリット・デメリットをご説明してきました。
最後に事前に聞いておきたい3つの質問についてQ&Aでご紹介します。
5-1.Q1:公正証書遺言書を書き直すことはできるのか
【Q1】
公正証書遺言を作成しました。時間をかけて納得したものを作成しましたが、時間も経過して財産など変更点があり、少し書き換えたい箇所が出てきました。
公証役場で遺言書を作成した場合、もう書き直す事はできないのでしょうか。
【A1】
いつでも書き直すことができます。
遺言書は一生に一度書いたらそれっきりと言うものではありません。
状況やお気持ちが変化することもありますので、遺言は定期的に内容を確認してその変化にあわせて修正をすることがおススメです。場合によっては、遺言書の内容を全て撤回する事もできます。
ただし、公正証書遺言書は原本が公証役場に保管されているため、ご自身が持っているものを修正・破棄しただけでは反映されません。公証役場で修正をする場合には改めて所定の手数料がかかることがデメリットではありますが、最新の遺言書がどれなのか明確になる点はおおきなメリットです。
図7:遺言書は定期的な見直しが必要
5-2.Q2:公正証書遺言が無効になることはあるのか
【Q2】
安全、確実と聞いたので公証役場で遺言書を作ろうと思いますが、無効になることもあるのでしょうか。
【A2】
公証役場で作成された遺言は基本的には無効になりません。
公証役場で作成する場合、公証人は遺言書に記載する表現の正しさを確認しますが、財産の分け方や財産の総額などの正しさは確認しません。
公正証書遺言が無効になるのは次の3つケースです。
1.遺言書に代理人や他人の意見が入っている場合
2.作成時に遺言者が認知症などで遺言能力が無かった場合
3.証人として不適格な方が立会っていた場合
※未成年者、推定相続人、受遺者、配偶者、直系血族、欠格者、
遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員
5-3.Q3:自筆遺言書も預けることができるのか
【Q3】
公正証書遺言のメリットのひとつに「公証役場で保管してもえる」ということがあるが、自分で書いた自筆証書遺言も預かってもらえますか。
【A3】
「自筆証書遺言書保管制度」があります。
遺言書をめぐる紛失や書き換えなどのトラブルを防止する有効な手段として、自筆証書遺言保管制度があります。
こちらは公証役場ではなく全国の法務局で保管されます。遺言書の原本を法務局にもっていき、保管してもらうことになります。その際に自筆証書遺言として有効なものかどうかを確認してもらえますので、検認の手続きが不要になります。
図8:自筆証書遺言書保管制度
6.さいごに
公証役場で遺言を作成するということは、準備や公証人との打ち合わせなどに時間や手間、お金がかかります。金額も決して安くはありませんのでためらってしまうかもしれません。
しかし、相続が発生した際に相続人となるご家族がトラブルになることを防ぐことができ、なおかつご自身の希望どおり財産を引き継ぐことができるため遺言書の作成は必須と言ってもよいくらいです。そのなかで確実に実現することができるのが公正証書遺言です。
5-2.で説明したとおり、公証役場の公証人は遺言書に記す表現としての正しさを確認する役割です。
相続の権利や相続税のことは、相続に強い税理士または弁護士等に確認されることをお勧めします。