数次相続が発生しても慌てない!遺産分割協議の進め方と相続税の申告手続きを簡単解説
- 相続手続き
「祖父が亡くなったばかりだったのに、立て続けに父まで亡くなってしまった・・・」
ご家族にとって不幸が続くことは何よりも悲しいことですが、先に亡くなられたおじいさまの相続が終わっていない時期に、お父さまが亡くなられた場合、相続手続きはどのように進めたらよいか困ってしまいます。
「亡くなった父に祖父のの財産を相続する権利はあるのだろうか」
「相続が複雑になってしまったが、どのように進めたらよいのだろうか」
このように相続の手続きが完了するまでの間に、相続人が続けて亡くなられてしまうことを「数次相続」といいますが、立て続けに亡くなられてしまったケースや、10年前に亡くなられた方の相続手続きが終わらぬうちに次の相続が発生するなど、数次相続が発生することは意外と多いのです。
本記事では、数次相続が起きた場合の遺産分割協議の進め方や、相続手続きについてご説明します。
目次
1.数次相続が発生した場合の相続の流れ
遺産分割協議中に、相続人が亡くなられることを数次相続と言います。
例えば、亡くなられたおじいさまの遺産分割協議の最中に(一次相続)、相続人の一人であったお父さまが亡くなられてしまう(2次相続)、という様な場合です。「遺産分割協議が終わっていない時期に相続人が亡くなられた」という点が重要なポイントとなります。
おじいさまとお父さま、それぞれの相続手続きを同時に進めていく事になります。お父さまは亡くなられても「おじいさまの相続財産を相続する権利」も「相続税を申告する義務」もありますので、ご家族が代行して遺産分割協議や相続手続きを進めていきます。
図1:数次相続が発生した場合の遺産分割協議の対象者の変化
2.数次相続における遺産分割協議の進め方と相続割合
一次相続の遺産分割協議が終わらぬうちに、続けて二次相続が発生する数次相続における遺産分割協議についてご説明します。
遺産分割協議の途中でお父さまは亡くなられましたが、おじいさまの財産を引き継ぐ権利は失いません。そのため、お父さまの相続人である方がその地位を引き継いでおじいさま(一次相続)の遺産分割協議を進めます。
遺産分割協議は初めからやり直す必要はなく、ある程度の協議内容が決まっている場合には亡くなられた方の意思だと考え、その内容を尊重します。もちろん、全員の方が同意したのであれば初めから遺産分割協議をやり直すことも問題もありませんが、お互いに数次相続であることを意識して、一方的になったり多数決等で決めたりすることの無いようにしましょう。
図2:二次相続で亡くなられた方の相続権は残る
2-1.2次相続の相続人は代理人として遺産分割協議に参加する
二次相続で亡くなられた方の地位を引き継ぐ相続人が複数人いた場合でも、一次相続の遺産分割協議には1人として参加します。
上記の図のように、お父さまの権利を引き継いだ相続人が3人でもお父さまの代理という立場のため1人として考えます。
よって、おじいさまの遺産分割協議を4名でおこなった場合も相続人の数は2人のままです。
おじいさまが亡くなられた時点ですでに法定相続人は確定していますので、相続人の人数は数次相続によって増減はありません。
図3:数次相続で相続人の人数は変わらない
2-2.引き継ぐ財産割合も変化しない
数次相続では引き継ぐ財産割合もそのまま引き継がれることになります。二次相続の相続人が複数名の場合でも、法定相続分は1人分であり相続割合が増えることはありません。
図4:数次相続において引き継ぐ財産割合も変化しない
3.数次相続における遺産分割協議書の書き方文例
一次相続と二次相続それぞれの遺産分割協議が終わったら、どちらも遺産分割協議書を作成して遺産分割協議で決まったことを書面にします。
遺産分割協議書は法的に決められた書式があるわけではありません。数次相続が発生したことによって、財産内容や法定相続人に変更が生じるわけではありませんので、遺産分割協議書は通常と同じものを作成すれば充足します。
3-1.数次相続が起こった経緯がわかるように追記する
一次相続における遺産分割協議書には、二次相続で亡くなられた方が署名・捺印ができませんので、「いつの時点で亡くなられて、その地位を誰が引き継いだのか」その経緯を正しく把握できるように、説明を加える必要があります。
表1:数次相続の経緯がわかる遺産分割協議書の冒頭文例
文例1 | 被相続人〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)の平成30年8月1日死亡による相続について、 その共同相続人全員において協議をした結果、次のとおり相続することに決定した。 なお、相続人のうち〇〇〇〇が平成31年1月1日に死亡したため、相続人兼被相続人 〇〇〇〇の相続人である〇〇〇〇、同〇〇〇〇、同〇〇〇〇と共に協議し、 以下のとおり相続するものとした。 |
文例2 |
被相続人 〇〇〇〇 相続人兼被相続人 〇〇〇〇 被相続人〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)の平成30年8月1日死亡による相続について、 |
※数次相続における遺産分割協議書の書き方について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-2.地位を引き継いだ相続人が署名捺印する
遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印の押印が必要です。数次相続の場合には、二次相続で地位を引き継いだ相続人が代筆をして実印欄は空欄にし、地位を引き継いだ相続人全員が署名と実印を押すことで完成します。
図5:数次相続における遺産分割協議書の署名と実印の押印例
4.数次相続における相続税の申告手続きの考え方
数次相続における相続税の申告手続きの考え方についてご説明します。一次相続の相続手続きは、亡くなられた方に代わって二次相続の相続人の方が代理で行います。
4-1.二次相続の相続人のみ一次相続の申告期限が伸びる
相続税の申告手続きには亡くなられてから10ヶ月以内という期限があります。
しかし、数次相続が発生した場合二次相続の相続税の申告期限は、数次相続となった相続人の方のみ延長されます。
一次相続でおじいさまの申告期限は本来10ヶ月ですが、二次相続で亡くなられたお父さまの相続人のみ一次相続の申告期限を二次相続の申告期限に延ばすことができます。
図6:二次相続の相続人のみ一次相続の申告期限が伸びる
4-2.数次相続でも相次相続控除が適用される
数次相続で一次相続と二次相続の両方に相続税の申告納税が必要になった場合、同じ財産に対して相続税が二重に課税されることになります。
相続税は亡くなられた日から遡って10年の間に相続税を納めていた場合、既に納めた相続税額を限度として今回の相続税を減額することができる制度があります(数次相続控除)。
数次相続で立て続けに相続税の申告を行った場合、この相次相続控除が適用できる可能性が高くなります。
5.まとめ
数次相続とは遺産分割協議が成立する前に、そのうちの相続人が亡くなられて新たに相続が発生することを言います。
二次相続で亡くなられた方は、一次相続で引き継ぐはずだった権利はそのまま二次相続の相続人へ引き継がれるため消滅することはありません。
一次相続の手続きは、二次相続の相続人が代理としてすべて行います。二次相続の相続人が複数人いても、相続割合に変化はありません。
数次相続は地位や権利の継承については明確になっていますが、実際に遺産分割協議を始めてみると協議に参加する人数も増え、なかなか整わずに揉め事に発展してしまう可能性も少なくありません。遺産分割協議書の作成や相続税の申告も複雑であるため、疑問点などがありましたらOAG税理士事務所にぜひお問い合わせください。