生活保護を受けている方は相続が必須であり相続放棄は特定の場合だけ
- 相続手続き
「生活保護を受けているから、相続をしたらすぐに生活保護を打ち切られてしまわないか・・・」
「財産をもらったら生活保護の受給をとめられてしまうなら、相続放棄をして財産を相続しなければいいのだろうか」
これからの生活や安定した収入の目処が立っていない状況で、相続により一時的な収入があったことをきっかけに生活保護の受給が打ち切られてしまうと、今後の生活が不安になりますよね。
相続できる財産が数年間生活できるほどの財産であればよいのですが、不動産などすぐに現金化できないものだと生活に行き詰まる可能性もあります。
本記事では、生活保護を受けている方が相続により相続財産を受け取った場合の考え方、相続放棄をしてもよいのか、についてご説明をしていきます。
目次
1.生活保護を受けていても相続できる財産がある
相続人として財産を引き継ぐ権利は、すべての方が平等に認められる権利ですので、生活保護を受給されている方であっても当然相続する権利があります。
ただし、生活保護の本来の目的が「生活困窮者の方が最低限度の生活を維持することができるように国が援助を行い、生活の自立に向けたサポートをすること」となってることから、相続により財産を得るとご自身が生活保護の要件から外れる可能性がある点がご不安になるところです。
仮に生活するための必要最低限といえる財産を相続した場合でも、すぐに生活保護の受給が止まるわけではありません。
最低限度の生活を維持できるようになったかどうかを判断した上で、生活保護が引き続き必要な状況とみなされれば、受給は継続されます。
一方で偽った申請を行い、不正受給する傾向が増えていることも事実ですので、受給に関する要件は厳しくチェックされます。生活する上で十分といえる財産を相続すれば、受給を継続することはできません。
図1:生活保護は相続により必ず停止されるわけではないイメージ
2.自分で判断せずケースワーカーへ相談
生活保護を受けている場合には、ご存じのとおり「収入に変動があった場合には届け出る義務」があります。相続することが決まっている場合には、まずは福祉事務所のケースワーカーへ状況について相談しましょう。
ご自身で勝手に判断して進めるのではなく今後の進め方についてのアドバイスをもらい、あとから意に反して生活保護の受給が停止されないようにしましょう。
3.生活保護を受けながら相続できるもの・放棄できるもの
生活保護を受けている場合の相続については、まずは相続する財産の全体を確認しましょう。
生活保護の受給を継続しながら相続できる財産もあります。また、5章で説明しますが一般的には相続放棄をすることが認められていませんが、相続放棄できる財産もあります。
3-1.【相続できるもの】小額の財産や家などを含む必要最低限なもの
一時的な収入だと認められる小額な財産や、居住用・事業用として必要不可欠な財産であった場合には、受給を継続しながら相続することが認められています。
つまり、最低限度の生活を維持するために住むための自宅であれば相続をすることができます。ただし、資産価値が非常に高くて売却が容易な不動産や、現在持ち家がある状況でもう1件相続した場合など、現金に換価することが可能な不動産の場合は原則、受給は停止されます。
こちらに該当しない場合には、生活保護が最終的に停止や減額される可能性がありますが、報告せずにあとからバレた場合には、返金を求められることもありますので、ケースワーカーと相談しながら正しく手続きを進めていきましょう。
図2:生活保護を受給しながら自宅を相続できるイメージ
3-2.【放棄できるもの】処分が困難な山林などの不動産
山林や農地などを相続すると、管理や整備だけでも費用と手間がかかり、資産価値も見込めず売却することも難しい状況となる場合があります。
築年数が古い家屋についても同様のことがいえますが、このような売却が困難かつ、ご自身の住居としての利用も困難な土地を相続することになると、かえって生活が破綻しかねないため、相続放棄の手続きを行って生活保護の受給を継続することができます。
4.相続を機に生活保護が廃止される可能性が高い3つのこと
相続した財産の内容によっては、生活保護が廃止や減額になることがあります。相続した財産は少額であっても報告する義務があります。
報告したのちに今回相続した財産の内容と、受給申請時に提出していた財産の内容を照らし合わせ「もう給付は必要ない」と判断されれば、その時点で生活保護は廃止されます。
また、近い将来に相続で財産を得られることが分かっていながら虚偽の申請をして生活保護を受給していた場合は、すでに受け取った受給額(保護費)の返還が求められます。
4-1.福祉事務所へ相続財産を受け取った報告を怠った
2章でご説明しましたが、収入に変動があった場合にはケースワーカーへ報告する必要があります。
相続した金額が少額であっても必ず報告が必要となりますが、生活保護の受給額に影響がありそうだからといってバレないと考えて報告を怠ると見つかった際に生活保護が停止されてしまいます。
また、ある程度の財産を相続したあと報告せずにいると、不正受給とみなされて過去に受給した金額の返還命令が出される場合があります。
福祉事務所のケースワーカーの方は、年数回、生活保護を受けているご自身のご自宅に実態調査にきていますよね。この際に生活水準等が変わっていないかなどチェックされています。
4-2.生活保護が不要になるほどの財産を相続した
ケースワーカーへ相談したとしても、相続した財産で当面の生活が安定する場合には、原則、生活保護はいったん打ち切られ、停止状態となります。
「停止」とは廃止と違い、生活をまかなえていた資金が尽きた場合には受給を再開してもらえる制度です。
相続した財産額によっては一旦停止されますが、状況に応じて受給が再開されるため、完全に終了してしまう「廃止」よりは安心です。
停止の場合は、過去に受給していた金額の返還を求められることもありません。
図3:生活保護が不要になり打ち切られるイメージ
4-3.相続で財産を得られることを知っていたが申請していた
生活保護の申請をする際に、近いうちに相続が発生する可能性があり、さらにある程度の財産を引き継ぐことがわかっていた場合は、虚偽の申請となりますので受給は即座に廃止されます。
また、生活保護を廃止されないようにするため、本来はご自身が相続すべき財産を相続せず、ご家族の誰かに代わりに相続をしてもらった場合も同様となります。
本来ご自身が相続できる財産があるにも関わらず、自ら断って相続しないという選択肢は生活保護の受給ルールに反します。
虚偽の申請が悪質な場合、これまで受給した金額(保護費)を遡って返還請求される場合があります。
図4:生活保護費を返還請求されるイメージ
5.生活保護者の相続放棄は原則認められない
基本的に生活保護の受給を継続したいから相続放棄する、ということは認められません。生活保護の受給要件には「利用できる資産を生活維持のために活用する」と定められているためです。
相続する財産の中に生活を維持するために活用できる財産であるにも関わらず、それを相続放棄して相続しないようにしてしまうと生活保護の受給要件から外れることになります。
ただし、2-2でご説明したとおり処分できない不動産がある場合や、借金が多い場合などは相続放棄することが認められます。
最低限の生活を維持するために活用できる財産か、相続放棄すべき財産か正しく判断する必要がありますので早めに福祉事務所に相談することをおススメします。
図5:負の財産が多い場合、生活保護受給者の相続放棄は可能なイメージ
6.まとめ
生活保護を受けていると相続の対象にならない。という話も耳にしたことがある方もいらっしゃると思いますが、生活保護の受給者も相続する権利は認められています。
ただし、相続する財産の内容によって、生活保護は廃止されたり、停止となったりする可能性があります。廃止等を恐れて報告すべきか悩むところですが、即座に廃止されることはありませんので、相続した財産はたとえ少額であってもケースワーカーにしっかりと報告をしましょう。
報告を怠ったことがバレると不正受給とみなされてしまいます。さらに悪質だと判断されると、遡って生活保護費の返還命令を受けることになるので十分注意してください。
また、生活保護を継続するために財産を受け取らないように相続放棄をすることは認められていませんが、借金などのマイナスの財産が多い場合等には相続放棄をすることが可能です。
生活保護者の相続に関し、不安に思うことがあったら、まずは福祉事務所にご相談いただき、一日も早い生活の自立が目指せる最善の相続を進めて頂ければと思います。