遺留分を放棄するとどうなるの?相続発生前に遺留分の放棄ができる!
- 相続手続き
「会社経営をしている父が、『長男である兄に事業を引き継ぐので、万が一の相続の際には、財産をすべて兄に相続させたい。次男である自分には、あらかじめ遺留分を放棄してほしい』といった趣旨のことを言ってきた。遺留分放棄の意味がよく分からないので、判断もできない。どうすればよいのだろうか?」
突然、遺留分を放棄してほしいと言われても、何をどうすればよいのか、安易に放棄などしたら、不利ではないだろうか・・・と不安に思い、「遺留分の放棄」について、調べられているのではないでしょうか。
本記事では、遺留分放棄の意味や相続への影響、手続きの仕方、また、相続放棄との違いについてご説明いたします。
遺留分の放棄をマイナスのイメージでとらえているかもしれませんが、相続の際に起こりえるトラブルを未然に防ぐことができる効果的な手段と考えることもできます。
必要な知識を得たうえで、遺留分放棄をするべきかどうか、じっくりご判断いただければと思います。
目次
1. 遺留分の放棄とは何か
「遺留分」とは、一定範囲の相続人の方が、最低限保障された財産の取得割合(法定相続分の半分)のことです。一定範囲とは、亡くなられた方の配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属(父母、祖父母など)の方であり、亡くなられた方の兄弟姉妹にあたる方は、相続人であっても、遺留分を請求する権利はありません。
遺言書に記載された相続分が、遺留分を下回っていた場合、財産を多く取得された方に対し、遺留分を請求し(遺留分侵害額請求という)、遺留分に相当する財産を取り戻すことができます。遺言書の内容に納得できるのであれば、遺留分の権利を主張する必要はありません。
遺留分は遺言者の生前、または相続発生後のどちらでも、請求する権利を放棄することができます。手続きの仕方が、放棄する時期によって異なりますので、次章で詳しくご説明いたします。
【相続分と遺留分】
相続人:実子2名(長男、次男)
法定相続分:長男1/2、次男1/2
遺留分の割合:長男1/4、次男1/4
「長男に全財産を相続させる」という遺言書が残されていた
①次男が遺留分侵害額請求をした場合
相続分は、長男3/4、次男1/4
②次男が遺留分を放棄した場合
相続分は、長男全部 次男なし
図1:遺留分は放棄することができる
※相続人ごとの遺留分の割合について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※遺留分侵害額請求について詳しくは、こちらを参考にしてください(当サイト内)
2. 生前の遺留分放棄は家庭裁判所での手続きが必要
遺留分を請求できる相続人(遺留分権利者)が、遺言者の相続発生前にあらかじめ遺留分の放棄をする場合には、家庭裁判所に申し立てをおこない、許可を得る必要があります。
遺留分をご本人の意思に反して、無理に放棄させることはできないため、家庭裁判所では、遺留分の放棄が、強要されたものではないかを確認します。
2-1.遺留分放棄が認められる3つの要件
家庭裁判所が、遺留分放棄を認めて許可する判断基準については、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
遺留分を放棄する方が、遺留分放棄に納得して自らが手続きをおこなっていること、事業を継続するための放棄など理由に合理性があること、また、借金の肩代わりや、生前贈与をしていたなど、遺留分権利者への充分な代償がすでにおこなわれていることを要件としています。
【遺留分放棄が認められる3つの判断基準】
①遺留分権利者本人の意思により行われている
②遺留分放棄を認めるべき合理的な事情がある
③遺留分権利者に充分な代償が支払われている
2-2.遺留分放棄の手続き
遺留分権利者が、家庭裁判所に対して遺留分放棄の許可を求める審判を申立てます。ご自身の遺留分に対してのみ、申立てることができます。
必要書類は、相続人であることを確認するための戸籍謄本類や、被相続人となられる方の財産目録などを申立書とともに提出します。家庭裁判所で申し立て内容の審理がおこなわれ、許可通知は、申立人宛に郵送されます。
表1:遺留分放棄の手続き
※遺留分放棄の許可の申立書は、裁判所ホームページより入手可能です。
参考:裁判所ホームページ https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_53/index.html
2-3. 遺留分放棄の念書だけでは効力は及ばない
「遺留分を放棄する」と書かれた念書を作成して渡すだけでは、法的な効力はありません。遺留分の放棄は、遺留分権利者が納得の上で、自らが申し立ての手続きをおこない、家庭裁判所の許可を得ていなければなりません。
2-4. 一度許可された遺留分放棄の撤回は原則できない
一度、家庭裁判所より遺留分放棄の許可が得られると、撤回することは簡単にはできません。改めて家庭裁判所に、遺留分放棄の撤回を申立て、許可を得なければなりません。
遺留分放棄の撤回が許可されるのは、撤回が必要となる合理的な理由がある場合のみです。
たとえば、家業を継いでもらう関係で、遺留分放棄をしていたが、事情が変わって廃業してしまった、などの場合です。
ただし、撤回の申立てができるのは、原則、相続が発生する前となります。
3.亡くなられた後の遺留分放棄は手続き不要
遺言者の相続発生後に遺留分の放棄をする場合は、家庭裁判所への手続きは不要です。遺留分は、遺留分侵害額請求をおこなうことで、初めて権利を行使することができます。
遺留分の請求時効は、相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内となります。相続開始の時から十年を経過したときも、同様です。
この期間内に遺留分侵害額請求をしなければ、遺留分を放棄したことと同様になります。
遺留分放棄をするか、遺留分侵害額請求をするかは、遺留分権利者が自由に決めることができます。
図2:遺留分侵害額請求を1年間行わなければ遺留分放棄したことになる
4.生前に遺留分放棄をすると効果的なケース
生前におこなう遺留分放棄は、家庭裁判所の許可が必要で、手続きも少し煩雑ですよね。しかし、それでも、生前に遺留分放棄をしておいた方がよいといえる理由は、相続トラブルを未然に回避できる可能性が高いからです。生前に遺留分放棄をすると効果的といえる3つのケースを確認してみましょう。
4-1.生前贈与分を調整したい場合
特定の相続人だけに、多額の生前贈与がおこなわれていた場合、相続で平等に遺産分割をしたとしても実際の取得割合は不平等となり、トラブルに発展する可能性があります。
生前贈与を受けていない相続人の方に配慮した内容の遺言書を作成した上で、生前贈与を受けた相続人の方は、あらかじめ遺留分の放棄をしておくことで相続トラブルになることを防ぐことができます。
また、異母兄弟であったり、疎遠な相続人の方がいて、関係性などが複雑な場合には、相続で揉めるかもしれないと心配になりますよね。事前に代償しておく必要はありますが、その代わりに遺留分の放棄をあらかじめしてもらえば、相続発生後のトラブルを防げる効果が期待できるでしょう。
4-2.事業承継をスムーズにおこないたい場合
事業承継をスムーズにおこなうため、事業の後継者となる相続人の方に財産を多く相続させ、後継者以外の相続人の方には、あらかじめ遺留分の放棄をしてもらうことで、余計な相続トラブルを未然に防ぐ効果を期待できます。
4-3.希望通りの分割案を実現したい場合
たとえば、特定の相続人の方が長年同居して、生活全般のサポートをしていた場合など、せめて相続で財産を多く引き継がせたいと考えていることもあるでしょう。
他の相続人の方には、遺留分の放棄をしてもらうことで、感謝の思いを込めた遺言内容を相続で確実に実現させることができます。
5.遺留分放棄と相続放棄の違い
遺留分放棄は、遺留分を請求する権利のみを放棄することなので、相続人であることに変わりありません。相続放棄は、プラスとマイナスの財産すべてを引き継ぐ事を放棄し、初めから相続人ではなかったことになります。
表2:遺留分放棄と相続放棄の違い
5-1.遺留分放棄しても遺産相続はできる
遺留分の放棄をしても相続権を失うわけではありません。
極端にいえば、遺言書がなければ、法定相続分どおりに相続することも可能です。遺言書で指定された財産や、遺産分割協議に参加して財産を引き継ぐことも可能です。逆に、債務がある場合にはマイナスの財産も引き継ぐ事になりますので、注意が必要です。
5-2.遺留分放棄しても他の相続人の遺留分は増えない
遺留分の放棄をしても、他の相続人の方の遺留分が増えるわけではありません。
一方、相続放棄をすると放棄をした方が初めから相続人ではなかったものとして法定相続分を計算することになりますので、他の相続人の方の相続分が増えることになります。
5-3.相続放棄は生前にできない
相続放棄を生前におこなうことはできません。
遺産分割協議に参加したくない、相続に関わりたくないという思いがあるならば、相続発生後に相続放棄の手続きをすることになります。相続放棄は、相続が発生してから3ヶ月以内に家庭裁判所への申立てが必要です。
※相続放棄について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
6.まとめ
遺留分を放棄することにより、相続トラブルを未然に回避できる効果があることをご理解いただけましたでしょうか。
遺留分を放棄する時期は生前、もしくは相続発生後のどちらでも構いません。生前に放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要です。
一方、相続発生後に遺留分の放棄をする場合は、特に手続きをする必要はありません。
遺留分侵害額請求の時効である1年を経過すると請求権を失いますので、遺留分を放棄したことと同じ意味を持ちます。 遺留分の放棄をすると原則として撤回は認められません。
遺留分を放棄した方が良いかどうか迷われている方、家庭裁判所の手続きについてご心配な方は、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。