遺産分割協議書のひな形:基本的な書き方と特殊なケースの書き方事例
- 相続手続き
「父の財産を相続することになって、相続人の妹と2人で話し合った内容を遺産分割協議書にまとめておこうと思う。財産内容は複雑ではないので、できれば自分で作成したい。ひな形があればできそうだ。」
遺産分割協議書は、相続財産を「だれが、どのくらい引き継ぐのか」相続人全員で合意した内容を文書にしたものです。
実家の名義を変更する手続きや、金融機関の預貯金を解約するなど、相続手続き全般において、分割内容を対外的に証明することができ、手続きの効率化を図るために役立つ文書です。
遺産分割協議書をきちんと作成しておくことは、法的にも効力を持ちますので、将来において、相続に関するもめ事になることを防ぐことにも役立ちます。
本記事では、ご自身で作成していただけるように遺産分割協議書の基本的なひな形と書き方を詳しくご説明しています。
特殊なケースの記入例も解説していますので、ご自身の状況に合わせてアレンジして、遺産分割協議書を作成していただければと思います。
目次
1.【基本的なひな形】遺産分割協議書は自分で作成できる
遺産分割協議書には決められた書式はありませんので、ひな形などを参考にすれば、専門家でなくても作成することができます。
手書き、パソコンなど作成手段も自由ですが、相続人の方々のお名前だけは、各自で直筆してください。すべての相続財産について、どなたがどれだけの財産を取得するのかを正しく明記します。
遺産分割協議書の全体像をイメージできるよう、基本的なひな形を確認してみましょう。
→ダウンロードはこちら
図1:遺産分割協議書の基本のひな形
※遺産分割協議について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.財産の書き方
この章では、一般的な財産の書き方を詳しくご説明いたします。
分割内容の一番分かりやすい書き方は、ひな形でご確認いただいたように、相続人ごとに、取得する財産と取得する割合を正確に明記する方法です。
財産が特定できる情報を漏れなく記載します。書き方のポイントを以下で確認してみましょう。
2-1.不動産の書き方
不動産については、登記簿謄本(現在の呼び名は登記事項証明書)に記されている内容を正しく記載します。
登記事項証明書がお手元になければ、所在地を管轄する法務局で取得することができます。登記事項証明書は、不動産の相続手続きで必要となる書類なので、取得されることをお勧めいたします。
不動産の持ち主のことを所有者といいますが、所有者の方が亡くなられた場合、新しい所有者に名義を変更する手続きが必要となります。この手続きは「相続登記」といい、遺産分割協議書が必要です。
2人の方が一つの不動産を引き継ぐ場合は、共有名義となりますので、互いの取得割合を分割協議書に記載します。たとえば「持分2分の1」などの記述の仕方になります。
図2:登記事項証明書は法務局で取得
2-1-1.土地の記載例
土地は、登記事項証明書から「所在、地番、地目、地積」について記載し、正しく特定できるようにします。
登記事項証明書の所在や地番は、住所表示とは違いますので注意してください。
【記載例】※一軒家の場合
・所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目
・地番 〇〇〇番
・地目 宅地
・地積 250.00㎡
・持分 2分の1(持分がある場合)
図3:所在・地番・地目・地積が確認できる箇所
2-1-2.建物の記載例
建物は、「所在、家屋番号、種類、構造、床面積」を記載し、正しく特定できるようにします。
【記載例】
・所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目 〇〇〇番地
・家屋番号 〇〇〇番〇
・種類 居宅
・構造 木造かわらぶき2階建
・床面積 1階75.00㎡
2階70.00㎡
図4:所在・家屋番号・種類・構造・床面積が確認できる箇所
2-1-3.マンションの記載例
マンションの場合は、記載する項目が増えます。
土地については、マンション全体の敷地について記載し、その敷地面積の内、どのくらいの持分を所有しているのかという「敷地権の割合」を明記します。
建物に関しては、所有している家屋番号を明記し、床面積などを明記し、特定できるようにします。
【記載例】
(土地の表示)
・所 在 〇〇区〇〇 〇丁目
・地 番 〇〇〇番〇
・地 目 宅地
・地 積 〇〇〇.〇〇㎡
・持 分 ○○○○○○分の○○○○○(敷地権の割合)
(一棟の建物の表示)
・所 在 〇〇区〇〇 〇丁目 〇〇〇番地〇
・構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根3階建
・床 面 積 1階 〇〇〇.〇〇㎡
2階 〇〇〇.〇〇㎡
3階 〇〇〇.〇〇㎡
(専有部分の建物の表示)
・家屋番号 〇〇 〇丁目〇〇〇番〇の〇
・建物の名称 〇〇〇
・種 類 居宅
・構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根3階建
・床 面 積 〇階部分 〇〇.〇〇㎡
以上 〇〇〇〇 持分〇分の〇
図5:マンションの記載内容が確認できる箇所
2-2.預貯金の記載例
預貯金は、通帳より「金融機関名、支店名、種別、口座番号」を記載し、特定できるようにします。
金額まで明記してしまうと、把握している残高と実際の預金額が異なっていた場合、解約できなくなる可能性があるので、明記しないようにします。「のすべて」と記載しておくと確実です。
【記載例】
・○○銀行
・○○支店
・普通預金
・口座番号○○○○ のすべて
2-3.有価証券の記載例
有価証券は主に、上場会社の株式です。株を所有されている方には、定期的に証券会社より、取引残高報告書や配当金の支払通知書が送られてきていますので、その書面から内容が確認できます。
預貯金と同じように「預託している財産すべて」と明記しておくと確実です。
【記載例】
〇〇証券〇〇支店の被相続人口座の株式
・〇〇株式会社 株式〇〇〇〇株
・〇〇株式会社 株式〇〇〇株
・その他、預託している被相続人名義の全財産
2-4.自動車の記載例
自動車は、車内に保管することが義務付けられている自動車検査証より、「車名、登録番号、型式、車台番号」を明記し、特定します。
【記載例】
・車名 ○○○
・登録番号 〇〇1234567
・型式 ABC-D123
・車台番号 L123S-3456789
図6:自動車検査証より確認する
2-5.債務の記載例
相続財産は、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産もあります。どなたが引き継いで支払いをするのか、きちんと明記しておくことが必要です。
2-5-1.借金がある場合
金銭消費貸借契約書の内容を明記します。
【記載例】
・債権者 ○○〇〇〇〇株式会社 金100,000円
もしくは
・○○銀行○○支店に対する借入金債務全てを承継する
2-5-2.未払金がある場合
未払金とは、未納の税金や、最後の医療費などが該当します。確認できるものを細かく明記してもよいですが、「その他の債務」と明記しておくとよいでしょう。
【記載例】
被相続人の未払租税公課、医療費及びその他の債務
2-6.把握していない財産について
遺産分割協議書を作成する際は、すべての財産を調査した上で記載しますが、把握できなかった財産が後日見つかることもあります。
遺産分割協議書を作成した後に、新たに財産が見つかった場合の取り扱いを遺産分割協議書に定めておきましょう。
2-6-1.相続人全員で改めて遺産分割協議をおこなう
遺産分割協議を再度おこなって、新しい財産について分割します。状況に応じて話し合いを進めることができるので、一番公平な方法です。
この場合、新しい財産のみを記載した遺産分割協議書を作成し、再度、相続人全員の署名と実印が必要になります。
【記載例】
上記の通り分割された遺産および債務以外に、新たな遺産および債務が見つかった場合には、改めて相続人間で遺産分割協議をおこなうものとする
2-6-2.相続する人を予め決めておく
相続人が遠方に住んでいたり、もしくは相続人の数が多いなど、全員が集まり、改めて話し合うのが難しい場合は、あらかじめ新たに見つかった財産を取得する方を決めておきます。再度、遺産分割協議をする必要はありません。
取得者の変更は原則としてできませんので、新たに見つかる可能性のある財産が予測できており、多額ではない場合の方法となるでしょう。
【記載例】
上記の通り分割された遺産および債務以外に、新たな遺産および債務が見つかった場合には、相続人○○〇〇が全ての遺産および債務を取得するものとする
2-6-3.相続人全員が法定相続分で取得する
新たに見つかった財産を法定相続分で分割します。遺産分割協議をする必要はありません。相続人全員が集まる手間と時間がかからず、公平性も保たれる方法です。
【記載例】
上記の通り分割された遺産および債務以外に、新たな遺産および債務が見つかった場合には、各相続人の法定相続分の割合で取得するものとする
3.【特殊な書き方①】分割しにくい財産があった場合
亡くなられた方の財産がご自宅だけで、預貯金などがほとんどない場合、不動産を共有名義にすることはあまりおすすめできません。
後々不動産を売却したいと思っても、共有者全員の合意がなくては難しく、また共有者が亡くなり、次の相続が発生すると、新たな共有者が増え、権利関係が複雑になっていくからです。
このような場合、不動産を取得する代わりに、ほかの方に対して、財産の差額を現金で支払う方法(代償分割という)、もしくは不動産を売却して金銭に換えてから分割する方法(換価分割という)をとることができます。
※代償分割・換価分割について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
3-1.代償分割の書き方
相続人の方がお住まいの場合は、売却すると住めなくなってしまいますね。相続人の1人がご自宅を取得する代わりに、ご自身の財産からほかの相続人に代償金を支払います。支払う金額と期日を必ず明記しておきます。
代償として金銭を支払うことを明確にして、贈与税が課されることがないように気をつけましょう。
【記載例】
相続人○○〇〇は、〇〇に記載する遺産を取得する代償として、〇〇〇〇に対して代償金、金○○〇万円を令和〇年〇月〇日までに支払うものとする。
3-2.換価分割の書き方
分割することが難しい財産は現金に換えることで、公平に分けることが可能となります。
不動産の場合は、相続人全員で売却する方法でも構いませんが、便宜上、代表者の方を1人決め、その方に一度名義を移し、売却し、諸経費などを差し引き、残った金額を分ける方法も可能です。
【記載例①】※不動産を全員で売却する場合
次の不動産を売却換価し、売却代金から売却に伴う諸費用(不動産仲介手数料、登記手続き費用、譲渡所得税、その他売却に係る費用)を控除した残りの金額を、相続人○○〇〇、相続人○○〇〇が、2分の1ずつ取得する
【記載例②】※不動産を代表者が売却する場合
1.次の不動産は相続人○○〇〇が取得する。
《土地》
・所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目
・地番 〇〇〇番
・地目 宅地
・地積 250.00㎡
《家屋》
・所在 東京都〇〇区〇〇町〇丁目 〇〇〇番地
・家屋番号 〇〇〇番〇
・種類 居宅
・構造 木造かわらぶき2階建
・床面積 1階75.00㎡
2階70.00㎡
2.前項の不動産を売却換価し、売却代金から売却に伴う諸費用(不動産仲介手数料、登記手続き費用、譲渡所得税、その他売却にかかわる費用)を控除した残りの金額を、相続人○○〇〇、相続人〇〇〇〇で等分に分けることとする
売却益が生じた場合、譲渡所得税が課税され、申告が必要な場合がありますで、このような場合は税理士にご相談されることをお勧めいたします。
※譲渡所得税詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4.【特殊な書き方②】相続人に未成年者や認知症の方がいた場合
相続人の方の中に、意思能力がなく、単独で遺産分割協議書への押印などができない場合は、利益相反にならない第三者の方を代理人として、遺産分割協議書をまとめます。代理人が必要な方の相続権を守ることが目的です。
4-1.特別代理人がいる場合
相続人に未成年者の方がいる場合は、家庭裁判所で手続きをおこない、特別代理人を決めます。一般的には、相続と関係ない祖父母の方などが、特別代理人として認められるケースが多いでしょう。
【記載例】
・冒頭部分
被相続人〇〇〇〇(令和 年 月 日死亡)の遺産については、同人の相続人及び特別代理人全員において分割協議を行った結果、下記相続人が、次のとおり遺産を相続し、取得及び承継することに決定した。
なお、遺産分割の趣旨は、未成年者の養育費や生活費にあてるため、便宜的に相続人〇〇〇〇が相続するものとした。
・自署・押印欄の記載方法は「相続人〇〇〇〇の特別代理人 〇〇〇〇」とし、特別代理人の方の自署と実印の押印が必要です。
※特別代理人について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4-2.成年後見人がいる場合
病気などが原因で、すでに意思能力がない相続人の方が、遺産分割協議に参加することはできません。相続で不利になることがないよう、成年後見人の方が代理人となって、遺産分割協議に参加することになります。
【記載例】
・自署・押印欄の記載方法を「相続人〇〇〇〇の成年後見人 〇〇〇〇」とし、成年後見人の方の自署と実印の押印が必要です。
※成年後見人について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.遺産分割協議書の割印や契印が必要な場合
遺産分割協議書には、作成日を必ず記載し、相続人全員の署名と実印が必要となりますが、協議書紙面の空いている箇所に実印で「捨印」を押しておいてもらうと、些細な訂正をする際に便利です。
誤字や脱字があるために、一から遺産分割協議書を作成し直す手間が省けます。
5-1.「割印」遺産分割協議書を2通以上作成するとき
遺産分割協議書を2通以上作成するときは、相続人全員の実印で割印をします。すべての書面が同じ内容であることを説明するためです。
一般的には、遺産分割協議書は相続人全員の分を作成し、各自で保管します。紙面を少しずらして置き、両方にまたがるように押印します。
図7:割印の例
5-2.「契印」遺産分割協議書が2枚以上になるとき
遺産分割協議書が複数ページになるときは、ページとページの間をまたがるように、相続人全員の実印を押印します。
ページ数が多く、袋とじにした場合は、製本テープと遺産分割協議書の紙面にまたがるように押印します。
ページを抜き差しして、改ざんすることをできなくするためです。遺産分割協議書が一つの文書であることを証明します。
図8:契印の例
6.まとめ
遺産分割協議書のひな形と、詳しい書き方をご理解いただけましたでしょうか?
相続登記や預貯金の解約手続きなどの相続手続きでは、遺産分割協議書があれば、必ず提出するように求められます。手続きを簡略化する役目もありますので、内容は正確に、過不足なく整えておくことが大切です。
財産内容や分割方法が複雑なため、遺産分割協議書の作成を自力ですることはできないと判断された場合は、行政書士をはじめとした相続の専門家にご相談されることをご検討ください。