相続と遺贈の言葉の違いで相続の取り扱いが大きく変わる2つのこと
- 相続手続き
「終活を始めるにあたり、遺言書を書こうと考えている。財産を渡すのは息子2人と、いつも世話をしてくれている長男のお嫁さん。遺言書の書き方について調べていたら、渡す相手によって、「相続させる」、もしくは「遺贈する」と書き方を変えるようだが、いったい何が違うのだろうか?」
財産をどのように引き継ぎたいか、遺言書に意思を記すことは、とても大事なことです。お世話になっている方や、可愛いお孫さんに引き継いでもらえたら・・・と、財産を譲る相手を思案されているのではないでしょうか。
遺言書の書き方として、「相続させる」と書いた場合と、「遺贈する」と書いた場合では、言葉の違いだけで、相続における取り扱いに、違いが生じる場合がありますので、注意が必要です。
本記事では、「相続」と「遺贈」の違いについてご説明いたします。相続において、それぞれの言葉が意味することを正しく理解して、終活の参考にしていただければと思います。
目次
1.「相続と遺贈」言葉の違いで相続への影響大
相続も遺贈も、「亡くなられた方の財産を特定の方が譲り受ける」という意味で似ている言葉ではありますが、相続においては、この言葉の違いで「取り扱い方」が大きく異なってきます。
「相続」とは、亡くなられた方の財産を、法律で定められた相続人(法定相続人=配偶者・お子さん・ご両親・ご兄弟など)が引き継ぐことです。相続できるのは、原則、法定相続人としての権利のある方です。
「遺贈」とは、遺言書により、無償で財産を譲ることです。遺贈を受ける人を受遺者といい、受遺者となる方に条件や制限などはありません。法定相続人でも構いませんし、法定相続人以外の第三者の方、あるいは法人が受遺者になることも可能です。
表1:「相続と遺贈」対象となる方とは?
遺言書を作成するとき、法定相続人に対しては「相続させる」「遺贈する」という言葉の両方が使えますが、法定相続人以外の方には必ず「遺贈する」という言葉を使います。また、「与える」「譲る」「あげる」という言葉を使われる場合、相続では「遺贈する」と同様の意味として扱われます。
法定相続人には、「相続させる」方が、手続きや税金面でメリットがあるといえますので、遺言書を作成する際には、必ず「相続させる」と記載することをお勧めいたします。
※法定相続人と相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.【手続きの違い】不動産の登記手続きへの影響
不動産の所有者が亡くなられたときは、その不動産を引き継ぐ方に名義変更する登記(所有権移転)手続きをおこないます。
遺贈の場合、通常の相続における所有権移転登記とは、手続きの方法が異なります。さらに、遺贈で不動産を取得する場合、関係各所からの許可や、承諾を得る必要がありますので、手続きが煩雑になります。
表2:遺贈では許可や承諾がないと登記できない
2-1.遺贈登記は手間がかかる
「相続させる」場合の登記は、引き継ぐ相続人の方がひとりで所有権移転登記をすることができます。一方、「遺贈する」場合の登記は、受遺者と相続人全員が共同しておこなわなくてはなりません。
共同しておこなうということは、全員の署名・押印と印鑑証明書が必要となるため、受遺者が不動産を取得することに賛成しない相続人がいるなどの相続トラブルが発生してしまうと、登記手続きをスムーズに進めることが困難になるかもしれません。
ただし、遺言執行者が指定されている場合には、受遺者と遺言執行者が共同すれば、登記申請することができます。受遺者を遺言執行者に指定すれば、受遺者が遺言執行者として、ひとりで登記申請できることになります。これから遺言書を作成する方は、遺言執行者を指定されておくことをお勧めいたします。
図1:不動産を遺贈するときは遺言執行者を指定するとスムーズ
※不動産の相続登記について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※遺言執行者について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2-2.遺贈登記しないと権利を主張できない
「相続させる」場合では、所有権移転登記がなされていなくても、債権者などに対して権利を主張することは可能です。(※法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになっています。)一方、「遺贈する」場合は、登記をしていなければ、債権者に対して権利を主張することはできません。
たとえば不動産の遺贈を受けた受遺者が登記をしない間に、相続人の債権者がその不動産を差し押さえた場合、受遺者は債権者に対抗できないということです。
不動産を遺贈された方は、すみやかに登記申請されることをお勧めいたします。
2-3.農地の遺贈には許可が必要
農業を法定相続人であるお子さんが継がない場合など、農地だけ他の親戚や第三者の方に譲ることもあるでしょう。
遺贈により農地を取得した際は、農地法による農業委員会、もしくは都道府県知事の許可を受けなければ、農地の所有権移転登記をすることができません。「相続させる」場合の所有権移転登記の場合、許可は不要となります。
2-4.借地権の遺贈は賃貸人の承諾が必要
借地権や借家権を遺贈された場合、賃貸人(地主さんや大家さん)の承諾が必要となります。その際に、譲渡承諾料を請求されることがあります。
相続の場合は、賃貸人の承諾は不要です。もし、賃借人であるご主人様が亡くなられたことにより、賃貸借契約が終了してしまったら、残された奥さまとお子さまが退去しなくてはならなくなるため、相続人の方の権利は守られるように配慮されています。
3.【税金の違い】遺贈だと税金が高くなる
遺贈により相続人以外の方が不動産を取得する場合、不動産取得税がかかったり、通常の相続における登録免許税よりも高くなったりと、課税の負担が大きくなります。
「不動産取得税」は、土地や建物などの不動産を取得した際に支払う地方税です。不動産を相続により引き継いだ場合に、不動産取得税はかかりませんが、遺贈(特定遺贈)された場合にはかかります。
また、「相続」「遺贈」ともに、相続税の対象となりますが、「遺贈」の場合の相続税は「相続」の場合より高くなることにも注意が必要です。
表3:遺贈すると税負担が大きくなる
3-1.特定遺贈は不動産取得税がかかる
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」があります。「特定遺贈」は、財産そのものを指定して渡す方法、「包括遺贈」は、財産の割合を指定して渡す方法です。
法定相続人以外の方に遺贈する場合は「特定遺贈」の方がトラブルになりづらくお勧めといえます。
「自宅を〇〇に遺贈する」という遺言により不動産を特定遺贈した場合、不動産取得税がかかります。
図2:不動産を特定遺贈すると不動産取得税がかかる
※特定遺贈と包括遺贈について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
3-2.遺贈は登録免許税が相続より高い
不動産の登記をするときに支払う登録免許税の税率も、相続と遺贈で異なります。
相続では、土地や建物の評価額(固定資産税評価額)の0.4%であるのに対して、法定相続人以外に遺贈した場合は2%(法定相続人が遺贈された場合は0.4%のまま)と高くなります。
図3:遺贈の登録免許税の計算式
3-3.遺贈は相続税の2割加算対象
法定相続人以外の方が遺贈により財産を引き継いだ場合、相続税が2割加算されます。お孫さんや長男のお嫁さんなどに遺贈をすると2割加算の対象となりますので注意が必要です。
※法定相続人であっても、祖父母や兄弟姉妹にあたる方が財産を引き継ぎ、相続税がかかる場合には、2割加算の対象となります。
図4:法定相続人以外の方に遺贈すると相続税は2割加算の対象
※相続税の2割加算について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
4.遺言書を作成するときは遺留分に配慮が必要
遺言書を作成することにより、相続させる割合を遺言者自身が自由に決めることができますが、ご自身の兄弟姉妹以外の法定相続人の方々には、最低限相続できる財産の割合である遺留分が保障されています。
遺言書は尊重されなくてはなりませんが、遺言書に記載された相続分が、遺留分を明らかに下回り、不公平な場合には、遺留分を主張することができるのです。
特に第三者の方に遺贈することを検討する場合には、トラブルを回避するためにも、遺留分に十分配慮しましょう。
▶2019年7月1日に施行された民法(相続法)改正後に生じた相続では、遺留分請求に対する取扱いが変わっています。
改正前は、遺留分を請求され、侵害額の弁償ができない場合には、 対象財産について、現物の返還が求められ、遺留分割合に基づく共有関係となり、権利関係が複雑になる問題が生じていました。そのため、相続法の改正において、遺留分権利者は、侵害額に相当する「金銭」の支払いのみを請求することができる制度に変更しました。つまり、財産を返還するのではなく、金銭だけで解決することができるようになりました。
また、遺留分算定の基礎となる財産の範囲に関する考え方も変わりました。改正前は、相続人対しておこなわれた生前贈与の期間は、無制限に参入されるという考え方でしたが、改正後は相続開始前10年以内に限定されました。
図5:遺言書を作成するときは遺留分に配慮する
※遺留分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
※遺留分に配慮した遺言を書くことについて詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.まとめ
相続と遺贈の違いについてご理解いただけましたか?
法定相続人に法定相続分で財産を引き継ぐときは、通常の「相続」となり、遺言書を作成する必要はありません。引き継ぐ財産を指定したり、相続割合を変えたい場合に遺言書を活用します。遺言書で法定相続人に引き継ぐ場合には「相続させる」と記載しましょう。
「遺贈」は遺言書により、だれにでも財産を譲ることができます。法定相続人以外のお世話になった方(息子さんのお嫁さんなど)に財産を引き継ぎたい場合、遺贈することになります。遺贈すると、不動産登記の手続きが煩雑になり、不動産取得税や登録免許税の負担が大きくなります。
相続・遺贈ともに相続税の対象ですが、遺贈の場合は、相続税が2割加算になる場合があることにも注意が必要です。
相続人以外の方に遺贈するときは特に、トラブルになることもありえます。遺言書を作成するときは、遺留分に十分配慮し、法定相続人の納得を得るようにしていただければと思います。