相続の手続きの全体像でわかる!相続税申告期限までにやるべきこと
- 相続手続き
ご家族が亡くなられると、対応すべき手続きが続きます。
そのうちの一つが相続手続きです。葬儀関係が終わるとすぐに相続手続きを行います。
これは財産の大小にかかわらず、だれにでも必要な事です。
「やっと葬儀関係もひと段落、相続や手続きはゆっくりやろう」
ついついこのように考えがちですが、期限がある手続きもあるため必ず確認しなければいけないこともあります。
当記事では相続手続きを完了するまでの全体像から、具体的な手続きの内容まで、無事に完了するまでをご紹介します。
目次
1.相続手続きを無事に完了までの全体像
相続手続きは、相続税がかかる場合に亡くなられてから10ヶ月以内に申告、納税をしなければいけません。また、亡くなられた方に多くの借金がある場合には亡くなられたから3ヶ月以内に相続放棄の手続きが必要です。
このように、期限のある手続きもあり、何から手を付けたらよいかわからないという方もいらっしゃるでしょう。
まずは相続手続き完了までの全体像は大きく分けて3つになります。
具体的にどのような手続きが必要なのか、次の章よりご紹介してまいります。
<相続手続き全体像は大きく分けて3つ>
①四十九日の法要を目途に行う手続き
②亡くなられてから4か月経過頃に行う手続き
➂亡くなられてから10ヶ月以内が期限の相続手続き
2.四十九日の法要を目途に行う手続き
四十九日の法要を済ませてから財産やそのほかの手続きは行いたい、と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、法要を待たずして、この下準備を進めていく主な理由は「相続放棄」の判断のためです。
また、並行して光熱費や賃貸日、携帯電話など亡くなられた方が契約していたサービスなどの解約手続きも行います。少しでも長引くと支払う金額が大きくなりますので、なるべく速やかに行いましょう。
図1:四十九日を目途に行う手続き
2-1.遺言書の有無を確認
初めに亡くなられた方が遺言書を残していないかを確認します。
遺言書は主に自筆遺言書と、公正証書遺言があります。それぞれ有無の確認方法や、存在を確認した際の対応が異なります。遺言があると全ての相続財産の分割に対して優先されます。つまり相続人全員で集まって協議をしても、そのあと遺言が見つかり、財産の指定があると基本的には遺言どおり分割することになります。相続財産は亡くなられた方の財産ですから、亡くなられた方の意思を最も尊重できる遺言は最優先となります。
<自筆証書遺言>
・自宅で保管されている場合は開封せずに家庭裁判所での検認が必要
・法務局で保管されている場合には検認不要
<公正証書遺言>
・公証役場の「遺言検索システム」により公正証書遺言を探すことができる
・家庭裁判所による検認不要
2-2.相続人の確定
相続の対象となる相続人を確定させます。戸籍上の相続人を把握し、相続人全員に連絡して一緒に進める必要があります。手順としては、「亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本の取得」と「相続関係図の作成」です。亡くなられた方が生まれてから亡くなるまでの間に、戸籍がどう変化したのかについて市町村役場で戸籍再婚を戸籍謄本を取得して確認していきます。
戸籍がそろったら相続関係図を作成して誰が相続人になるのかを確定します。相続関係図は先の相続手続きでも使用します。
図2:相続人確定のための手順
図3:相続関係図
2-3相続財産を把握する
亡くなられた方の財産をすべて把握します。相続税の対象であるかの判断のために重要です。
不動産や預貯金などのプラスの財産の他に、借金などのマイナスの財産も相続財産になりますので、必ず確認しましょう。不動産評価額の把握には、専門家にご相談されることをお勧めします。
<相続財産の財産別確認方法>
①預貯金
預金は各金融機関に残高の照会をして、残高証明書を取得します。
②手元現金の確定
ご自宅にある現金や、亡くなる直前に支払いを目的にして下ろした現金は亡くなられた時点から相続財産となります。
亡くなった時点でいくら現金があったのか、分かるようにメモをしておき、使用したら領収書を保管しておきましょう。
➂不動産価値の把握
法務局に行き「登記簿謄本」と「公図」をもらって相続する不動産の正しい情報を取得します。
次に、財産としての目安の価値を知るために、各市町村役場に行き固定資産税の評価証明書をもらいます。評価証明書に記載のある固定資産税評価額は売却する場合の参考となる公示価格の約70%です。
④株式価値の把握
株式の価値は市場価値から算出します。おおよその価値は亡くなられた日の株価で把握します。
⑤自動車の価値の把握
車の価値は購入した額ではなく、売却できる金額が評価額になります。買取査定をしてもらい算出された金額を車の価値とします。
⑥ゴルフ会員権、リゾート会員権の把握
市場価値を確認してその取引価格もとに評価します。売買の値がつかない会員権も多く、その場合は価値無しで扱われます。
⑦生命保険金の確定
生命保険会社の保険証書を確認することで金額を把握できます。ただし、生命保険は受取人が決まっているため分割の対象にはなりません。
⑧死亡退職金の確定
死亡退職金は亡くなられた方が務めていた会社に確認します。ただし、受取人が各会社の規定で決められており、それに準ずることから分割の対象にはなりません。
⑨生前贈与・相続時精算課税の確定
亡くなる前3年以内に贈与を受けた財産については、贈与税を納税していたとしても、非課税枠の中で贈与したものであっても相続財産として持ち戻して相続税の計算します。また、生前に相続時精算課税制度を利用して贈与を受けている場合には、その名のとおりすでに贈与された財産を相続財産として持ち戻して相続税の計算を行います。
亡くなられたことで相続財産とあわせて計算をした結果、支払いが発生する場合があります。
⑩借金、葬儀費用、税金などの未払い金の把握
借金は相続財産として扱われます。金融機関の貯金通帳を記帳して返済履歴を確認する、請求書や領収書などの書類を確認、クレジットカード会社や消費者金融からの借金を確認します。
※借金の把握方法について詳しくは、こちらをご覧ください。
2-4相続放棄の期限は3ヶ月
借金などのマイナス財産は、プラスの財産を分割した割合に関係なく法定相続分という法律で定められた割合で引き継ぐ事になりますので注意が必要です。相続財産の調査の結果、返済の目途が立たないほどの多額の借金がある場合や相続をしないと決めた場合は相続放棄をします。相続放棄は3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
図4:相続放棄の手続きは3ヶ月以内
※相続放棄について詳しくは、こちらをご覧ください。
3.亡くなられてから4か月経過頃に行う手続き
次に亡くなられてから4か月経過したころに行う手続きをご紹介します。
既に財産や借金の総額を把握しているので、相続税がかかるのかどうかの確認、財産はどのように引き継ぐのかなどを決めていきます。
3-1相続税申告が必要か否かを確認する
相続財産が相続税の基礎控除額を下回れば、相続税はかからず申告も不要です。相続税の基礎控除額は、3,000万円+(相続人の数×600万円)で求めることができます。基礎控除額を上回った相続財産に対して相続税がかかります。
例えば、相続人が3人の場合は3,000万円+(3人×600万円)=4,800万円となり、相続財産が4,800円を下回れば相続税がかかりません。
図5:相続税の基礎控除
※相続税の基礎控除について詳しくは、こちらをご覧ください。
3-2遺産分割協議を相続人全員で行う
相続財産を具体的に分割していきます。
先に記載したとおり、遺言があった場合は遺言が優先となります。四十九日を目途に把握した財産をもとに、全ての財産の価値を確定させ、相続人全員で分割します。
原則としては、相続人全員が集まって相続財産をどのように分割するか決めます。遠隔地の方など参加ができないは場合については、メールやFAXなどを通じて合意していただくことも可能です。分割をする場合には法律で決められた法定相続分というルールを基準として、相続人の間で調整をしていくことが、円満に進めていくコツです。
また、ケースとして多いのが「財産の大半が自宅」という場合です。配偶者が自宅を相続すると現金等の相続財産がほぼ無いため、偏ってしまいます。こういった場合には、皆さんの話し合いと配慮で分割をまとめましょう。自宅を相続した方が、代償としてご自身の財産から他の相続人に支払う代償分割という方法が取られる場合もあります。
3-3遺産分割と名義変更手続き
誰がそのように相続財産を引き継ぐのかが決まったら、名義変更手続きを行います。
預金の場合、金融機関で必要書類を受け取り、分割する方全員が署名捺印をして提出をします。近年は余程金利が良い口座を維持するなどの特別な理由が無い限りは名義変更をせず、相続人の口座へ分割して振込をします。一人で複数の口座を持てないなど、金融系のルールに沿った対応となります。
不動産の名義変更は、遺産分割協議書と登記関係書類をすべて整えて法務局に提出しますが、手続きが複雑なこともあり大半の場合は司法書士に依頼します。名義変更に定められた期限はありません。しかし相続した財産の中に土地や車など所有権がある場合は、早めに名義変更しましょう。名義変更がされていないと、売買や賃借契約、財産の処分などができません。
※相続財産の名義変更について詳しくは、こちらをご覧ください。
3-4.最後は遺産分割協議書にまとめて全員が署名と捺印
すべての相続財産の分割が決まると遺産分割協議書という書類を作成します。
形式は特に決まっていませんが相続財産に関わる内容はあとで揉めないように、全て記載しておくことをオススメします。
最後に全員が署名と捺印をして、相続人全員に配布します。
4.亡くなられてから10ヶ月以内に相続税の申告納税を行う
亡くなられた方の財産が基礎控除額を上回る場合には、亡くなられてから10ヶ月以内に税務署へ相続税の申告手続きが必要になります。引き継いだ財産の割合に応じて、各相続人が納税義務者となります。
仮に相続税の申告が必要となった場合でも、相続税にはいくつかの特例が設けられています。それらを適用することで、納税が不要となる方も多くいます。注意しておきたいのは、特例は遺産分割協議という財産をどのように分割するかの話し合いが終わっており、相続税の申告書を税務署に提出しなければ認められない点です。
相続税の申告手続きはご自身で行うことも可能ですが、複雑な書類の作成や相続税を減額できる特例の選定などが必要です。そのため専門家にご相談された方が、期限内に特例を最大限に適用した申告が可能です。
5.まとめ
相続手続きは、ご家族が亡くなられたその日から始まります。
まずは、遺言の有無を確認し、相続人や相続財産をすべて把握します。次に、遺言書があればその通りに、なければ財産を誰がどのように引き継ぐのかを相続人全員で話し合います。この時、放棄するかどうかも判断しましょう。
そして、相続税の基礎控除以上財産がある場合には、相続税の申告手続きが必要ですので、手続きを行います。
守らなければならない期限があるのは、3ヶ月以内に手続きが必要な相続放棄と、10ヶ月以内に手続きが必要な相続税申告手続きです。
この2つを意識して相続手続きを進めていきましょう。
相続手続きについてご不明な点、お困りに事がございましたらお気軽にOAG税理士法人へご相談ください。