相続税の未成年者控除で減額!3つの適用条件と控除額の計算方法
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「働き盛りの夫が、まだ幼い子どもを残して突然亡くなってしまった・・・。」
信じがたい現実に直面してしまい、どうしたらよいかわからずお困りかもしれません。生活費や教育費も心配になります。
お子さんの将来のために、1円でも多くの財産を相続させたいとお考えでしょう。
相続には、残されたご家族の生活を守るため相続税を減額できる控除がいくつかあります。未成年者控除は、未成年者が相続人となった場合に相続税を減額できるしくみです。
本記事では、未成年者控除の制度の概要や控除額、未成年者控除を適用した相続税額の計算例を詳しくご説明いたします。
目次
1.未成年者控除とは未成年者の相続税を減額できるしくみ
「未成年者控除」とは、未成年の方が相続する場合に、相続税から一定の額を控除するという制度です。
未成年者であっても、財産を相続すればその金額に応じて相続税を支払わなければなりません。しかし、未成年者の方は養育費や教育費がかかりますので、成人するまで相続税の負担を軽減するというものです。
令和4年4月1日に成年年齢が18歳に引き下げられました。よって、未成年者控除の対象についても令和4年4月1日以後に、相続または遺言書による遺贈により財産を取得する方については、18歳未満となります。
(令和4年3月31日までに相続が開始した場合は20歳未満)
2.相続税の未成年者控除の3つの条件
相続税の未成年者控除を受ける場合には、適用条件があります。
次にあげる3つをすべて満たす場合に未成年者控除を適用できます。
2-1.①日本に住所があること
原則として、相続開始時に日本に住所がある場合には未成年者控除の対象になります。
なお、海外に住所がある場合でも、未成年者控除を適用できる場合があります。
2-2.②財産を取得したときに18歳未満であること
財産を取得した時とは亡くなられた日のことです。財産を取得した年が18歳になる年だったとしても、亡くなられた日に18歳未満であれば、未成年者控除の対象となります。
なお、母親のお腹の中にいる胎児についても、無事に生まれてきたことを条件に未成年者控除を適用できます。
2-3.③財産を取得した方が法定相続人であること
相続でも遺言による遺贈でも、法定相続人(相続放棄をした場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)の場合に限り未成年者控除が適用できます。
遺言書により法定相続人でないお孫さんへ相続する場合などは、この対象とはなりません。
3.相続税の未成年者控除の計算方法
未成年者控除の額は、未成年者が満18歳になるまでの年数1年(1年未は切り捨て)につき10万円を乗じた額です。年齢が低いほど未成年者控除が大きくなります。胎児だった相続人が無事に生まれてくると、控除額は満額の180万円となります。
なお、未成年者控除額が、未成年者本人の相続税額より大きいため控除額の全額が引き切れないことがあります。この場合は、引き切れない金額をその未成年者の扶養義務者(配偶者、直系血族及び兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の者)の相続税額から差し引きます(4-2参照)。
図1:未成年者控除の計算方法
【事例】
未成年者の年齢は4歳11ヶ月のお子さんの場合、1年未満を切り捨て4歳として計算します。
未成年者控除で利用する年数は(18歳-4歳)=14年となります。
よって、未成年者控除の額は10万円×14年=140万円となります。
4.未成年者控除を適用した相続税の計算例
未成年者控除を適用して、相続税の納税額を計算しましょう。未成年者控除額が相続税額より少ない場合は、相続税額から未成年者控除額を差し引いた金額が納税額となります。
未成年者控除額が相続税額よりも大きい場合は、引ききれない控除額が出ますが、この金額を未成年者の扶養義務者から控除することができます。
4-1.未成年者控除額を差し引いても申告・納税が必要なケース
相続税額から未成年者控除の額を引いて残額がある場合は、その額を相続税の納税期限内に納める必要があります。
<事例1>
未成年者:16歳6ヶ月の長男
相続税額:200万円
未成年者控除:20万円
納税額:180万円(200万円-20万円)
図2:16歳6ヶ月、相続税200万円の長男の納税額の考え方
4-2.未成年者控除額が余ったため扶養義務者から控除するケース
相続税額よりも未成年者控除の額の方が多い場合には、未成年のお子さんの納税額は0円になります。さらに、未成年者控除はお子さんの相続税で控除できなかった金額を扶養義務者から控除することができます。
<事例2>
未成年者:1歳7ヶ月の長女
相続税:50万円
未成年者控除:170万円(120万円控除できない)
納税額:0円(50万円-170万円)
図3:1歳7ヶ月、相続税50万円の長女の納税額の考え方
長女の相続税から未成年者控除を差し引いても、控除できない金額120万円が残ります。
控除額から相続税額が引き切れなかった場合は、控除しきれない額をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引くことができます。
図4:控除しきれない場合は扶養義務者の相続税額から控除できる
ただし、未成年者の扶養義務者が亡くなられた方の配偶者である場合は、配偶者控除を先に適用するため、相続税額がすでに0円になっている場合が考えられます。
また、図4のように扶養義務者の納税額からも引ききれなかった場合、還付されることはありません。
※配偶者控除について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.相続税の未成年者控除を利用するための手続き
未成年者が相続人にいる場合、判断能力が十分でないとされますので、単独では、財産の分け方を話し合う遺産分割協議に参加できません。
未成年者控除を利用するための手続きを確認しましょう。
5-1.特別代理人を決定する
法定相続人の中に未成年者がいる場合には、必ず特別代理人を選定しなければなりません。たとえば旦那さまが亡くなられたとき、未成年者の代理人は奥さまですが、相続では、奥さまとお子さんは同じ相続人という立場であり、利害関係にあるため、奥さま以外の方を「特別代理人」として選任しなればなりません。
実際には祖父母などが特別代理人となることが多いです。特別代理人は未成年者が不利にならないように遺産分割をするため、法定相続分を下回らないように相続分を確保します。
特別代理人は家庭裁判所で選任してもらわなくてはならないので時間がかかります。
※特別代理人について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
図5:戸籍・財産調査、特別代理人の選任手続き
5-2.遺産分割協議を調える
法定相続人全員でおこなう遺産分割協議には、特別代理人が未成年者の代理として出席します。
遺産分割協議が成立したら遺産分割協議書を作成して、全員が署名・捺印をしたうえで印鑑証明書を添付すれば完成となります。未成年者の分の署名・捺印は特別代理人が行い、印鑑証明書も特別代理人のものを添付します。完成された遺産分割協議書は相続税の申告の際だけではなく、様々な名義変更手続きの際にも利用できます。
図6:遺産分割協議のイメージ
6.まとめ
相続税の未成年者控除を適用すると、未成年者が満18歳になるまでの年数1年(1年未は切り捨て)につき10万円を乗じた金額を、相続税額から控除できます。
控除額が相続税額より大きく、引き切れない金額がある場合には、未成年者の扶養義務者からも控除できることが特徴です。
未成年者が相続人にいる場合の遺産分割協議は、特別代理人を立てる必要があり、通常の相続手続きより煩雑になることが考えられます。また、保険、団信、年金、退職金などの手続きをひとつひとつこなすだけでも大変なことだと思います。
相続税の申告は亡くなられた日の翌日から10ヶ月以内におこなう必要がありますので、相続に強い税理士にご相談されることをおススメします。