相続税の税務調査は何年前までさかのぼる?調査対象になる3つのケース
- 相続税
「実家の整理をしていたところ、昨年亡くなった父の通帳が数冊見つかった。合わせるとまとまった額になる。相続税の納税は済ませているから、このままでも問題ないのだろうか。税務調査が来たら、何年前までさかのぼって調べられるのだろう・・。」
相続税の申告や納税を済ませた後に、ふとしたタイミングで亡くなられた方の財産を見つけることがあります。
「もう申告は終わったのだから、何も言われないだろう」
と思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、申告後でも相続税の税務調査対象になるケースがあります。
特に遺産総額の規模が3億円以上や、金融資産が1億円以上と大きい方は調査対象になりやすいと言えます。
では、仮に相続税の税務調査になると、何年前までさかのぼって調査されるのでしょうか。
当記事では、税務調査の際に過去にさかのぼって調査されるケースや、申告に誤りがあった際の対応方法についてご紹介します。
目次
1.相続税の税務調査は原則10年前までさかのぼる
相続税の税務調査は、適切に納税されているかを確認し、納税されていないものについて指導するためのものです。そのため、対象は相続税の申告、納税が必要な方だけです。
税務署は納税者が提出した相続税の申告書等の内容から、申告漏れはないかなどの調査をします。税務調査では、預金や過去に行われた贈与財産についても確認します。
特に金融機関では情報保持義務が10年間とされており、税務署が金融機関へ確認することができる権限があります。そのため、10年を目途にさかのぼり、それ以上前の事が必要であればお金の流れを確認するために通帳などの提出を求められます。
図1:相続税の調査は10年を目途にさかのぼる
2.さかのぼって税務調査を調査する3つのケース
相続税の税務調査は、適切に納税されているかを確認するためであるとご説明しました。財産はその方が亡くなられた時点での財産状況だけではなく、亡くなられる前にどのような財産を持っていたか、その流れはどこへ行ったのかまで調べます。
そのため、下記のようなケースの場合、税務調査がさかのぼって行われます。
2-1名義預金とみなされる預金がある場合
名義預金とは、亡くなられた方の名義ではないが相続財産となる預金です。実際にお金を預金している人と口座の名義人が違う預金の場合、相続が発生すると名義預金として相続財産に含まなければいけません。
例えば、お子さん名義の預金を亡くなられた方が積み立てていた場合や、専業主婦だった奥さまのへそくりなどがそれにあたります。
税務調査では、通帳と印鑑の管理は誰がしていたのか、生前贈与ではないか、名義人は通帳の存在を知っているのかなどを、総合的に判断します。
図2:名義預金は相続財産になる
※名義預金にかかる相続税について詳しくはこちらをご覧ください。
2-2.相続発生前3年以内の贈与がある
亡くなられるまでの3年以内に贈与された財産は、生前贈与加算といい相続税の対象となる財産として加算します。金額の大小にかかわらず全ての贈与財産が対象となります。
毎年110万円までであれば贈与税がかからない暦年贈与も同様です。そのため、税務署は亡くなられる前にさかのぼって調査をします。
※平成5年度の税制改正大綱により、生前贈与加算の対象を、亡くなられる日より前3年間から7年間へ延長になります。令和6年1月1日以降に贈与される財産から対象です。
令和6年1月1日以降に行った贈与は、段階的に期間が延長されます。令和13年1月1日からは7年間の加算期間が完全に移行されることとなります。
図3:生前贈与加算
※相続税の生前贈与加算について詳しくはこちらをご覧ください。
2-3.預金の取引履歴を10年以上前にさかのぼるケースも
1章では原則として金融機関に義務づけられている取引記録を保管する期限である10年前までは、さかのぼって調査するとお伝えしました。しかしながら、財産の内容によっては10年以上前にさかのぼって調査する場合があります。4つのケースをご紹介します。
ケース①過去の相続時に引き継いだ財産がある
過去の相続時に引き継いだ財産があるにもかかわらず、今回の相続財産に含まれていない場合です。
さかのぼって過去の記録を調査し、その財産がそのまま所有され申告漏れとなっているのか、売却されたのかを確認します。
ケース②相続財産に不動産がある
相続財産に不動産があった場合、亡くなられた方がどのように不動産を取得したのか購入資金について調べます。
贈与を受けて購入するか、ローンを組んで購入することになりますが、ローン返済中であれば貯蓄できるのは返済後になり、多額の財産は残すことができません。いつローンを完済したのか、ローンの利用状況で亡くなられた方の財産の中身が分かります。
ケース➂亡くなられた方が1人で財産を築いた
くなられた方ご自身が生前に引き継いだ大きな相続財産はなく、亡くなられた方がお1人で財産を築いた場合です。
収入や貯蓄、購入した財産を当時までさかのぼってどのように形成されたのかを調査します。
図4:亡くなられた方が1人で築いた財産
3.相続税の税務調査の通知が来たらやるべきこと
相続税の税務調査は、殆どの場合亡くなられた後の1,2年後の秋に通知されます。通知には主に電話が使用されます。
通知先は、税理士に依頼していた場合は担当税理士へ、ご自身で相続税の申告を行った場合は、ご自身(相続人)へ連絡が来ます。税務調査の通知が来たらやるべきこと、何が起こるのかをご紹介します。
3-1.担当税理士に速やかに相談する
税理士に依頼して申告手続きをしていた場合には、税理士経由で税務署から連絡が来ます。通知後おおよそ1週間から10日以内に税務調査を行う事になります。速やかに担当税理士と申告書類の不備や贈与財産などについての確認を行いましょう。
3-2.税務調査で行われること
税務調査は基本的に亡くなられた方のご自宅で行われます。
調査には相続人全員の立ち合いがのぞましいですが、参加できない相続人にも予め実施の事実を伝えておきましょう。
午前中は聞き取り調査で、亡くなられた方の生前の職業や所有財産、借金、贈与などを聞かれます。午後は現物確認です。午前中の聞き取り調査の内容をもとに、現物の確認や置き場所などの確認を行います。
※相続税の税務調査について詳しくは、こちらをご覧ください。
4.相続税の修正申告にはペナルティが発生する
相続税の申告・納税後に、新たな財産が見つかった場合や相続税の計算が間違っていたことが分かったら、申告をやり直します。これを相続税の修正申告といいます。
納付期限を過ぎたら「延滞税」が発生します。日数が基準となりますので、1日でも早く納税しましょう。また、税務署の指摘により申告額が少なかった際に修正申告をする場合は、「過少申告加算税または重加算税」が課されます。
<申告漏れの財産にかかるペナルティ>
・延滞税
・内容に応じて支払う「過少申告加算税または重加算税」
※相続税の修正申告について詳しくは、こちらをご覧ください。
5.まとめ
相続税の税務調査の対象は相続税の申告、納税が必要な方だけです。
税務署は金融機関へ確認することができる権限があり、金融機関の情報保持義務である10年を目途にさかのぼり、相続税の税務調査を行います。
税務調査をするケースはいくつかあり、名義預金がある場合、生前贈与をしていた場合、また預金の取引を10年以上前にさかのぼるケースもあります。
相続税の税務調査の連絡は、殆どの場合亡くなられた後の1,2年後の秋に来ます。
相続税の申告内容に誤りがあった場合は、修正申告をします。その場合は、相続税に加え、ペナルティ税も発生します。
相続税申告後に、亡くなられた方の財産を見つけた場合や、税務調査の連絡があった場合には、放置することはせずに対応しましょう。
税務調査の連絡があったら、すみやかに税理士に連絡をし、申告書類の不備や贈与財産などについての確認、相談をしましょう。
税務調査や、修正申告などについてご不明な点等がございましたら、お近くの税理士にお尋ねください。