亡くなられた方の高額医療費還付請求(高額療養費制度)を忘れずに!

  • 相続手続き

「長い闘病生活の末、父が亡くなった。ここ数ヶ月で病院に支払った医療費は、かなりの額になっている。亡くなった後でも、医療費の還付請求はできるのだろうか?」

亡くなられた方の入院費などの清算をおこない、あまりに高額な医療費の支払いに、驚きと不安な気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか。亡くなられた方の生前にかかった医療費は、亡くなられた後でも、きちんと手続きをすれば、一定の金額が還付されますのでご安心ください。

ご葬儀や、煩雑な相続手続きに追われて、医療費の還付請求手続きをうっかり忘れてしまう方も多いと思いますが、還付請求には時効があります。本記事を読んで、早めに手続きをしていただければと思います。亡くなられた方の高額医療費の還付を受けるための申請方法や、還付金を受け取るときの注意点をご説明いたします。

1.高額医療費の還付(高額療養費制度)は亡くなられた後でも申請できる

高額医療費の還付(高額療養費制度という)は、1か月の間(1日から月末)にかかった医療費の自己負担額が高額となった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えて支払った分が払い戻されるという制度です。国民健康保険、後期高齢者医療制度、各種健康保険など(医療保険)のいずれの加入者の方が対象となる制度です。

加入されていた医療保険によっては、支給対象となれば、「支給申請の通知が届く場合」や、「自動的に精算されて高額医療費が口座に振り込まれる」といった場合があります。まずは、保険証(被保険者証)に記載されている保険者に、還付請求について、確認してみましょう。

被保険者の方が亡くなられていても、代理の方が請求手続きをすることは可能です。申請される方は、相続人であることが証明できる書類、代理人の方は委任状などを用意する必要があります。詳しい手続きについては、2章でご説明いたします。

図1:亡くなられた方の高額医療費の還付請求はできる!

2.亡くなられた方の高額医療費(高額療養費制度)の還付手続き

亡くなられた方の高額医療費の還付を受けるためには、相続人の方が必要書類を揃えて、該当の窓口へ申請します。

国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者だった場合は、亡くなられた方がお住まいの市区町村役場の担当窓口、また、健康保険の加入者だった場合は、加入していた健康保険組合が申請先となります。

郵送での手続きも可能です。還付申請に必要な書類は、其々の自治体や健康保険組合によって多少異なりますが、おおむね表1の通りです。

<高額医療費の申請ができる人>
亡くなられた方の相続人、または遺言書で指定された受遺者

<高額医療費の申請先>
申請先は亡くなられた方が加入していた医療保険によって異なります。
・国民健康保険、後期高齢者医療制度の加入者:亡くなられた方の最後の住所地を管轄する市区町村役場
・健康保険の加入者:加入していた健康保険組合

<高額医療費の申請における必要書類>
表1:必要書類

         必要書類           入手先など
高額療養費支給申請書 ・自治体などから送付されるもの
  ・役所や健康保険組合の窓口から入手、ホームページよりダウンロード
医療費の領収書                                                    –
相続人の戸籍謄本 亡くなられた方との関係が分かるもの
  自治体への申請の場合、法定相続情報一覧図のコピーでも可
その他申請者(相続人)などに関するもの ・身分証明書
  ・個人番号が分かる書類(マイナンバーカードなど)
  ・相続人全員の印鑑証明書
  ・遺言書(受遺者が受取人の場合)
・代理人の場合は委任状

図2:相続人が高額医療費の還付請求をおこなうイメージ

3.亡くなられた方の高額医療費(高額療養費制度)の3つの注意点

亡くなられた方の高額医療費の還付請求において、知っておくべき3つの注意点があります。

3-1.亡くなられた方の高額医療費の還付金は相続財産となる

還付された「亡くなられた方の高額医療費」は、本来生前にご本人が受け取るべきものですので、亡くなられた後に相続人が受け取った還付は、相続財産に含まれます。さらに、遺産分割の対象財産となり、相続財産の総額が相続税の基礎控除額を上回れば、相続税の課税対象となります。たとえ還付された金額が少額であっても、他の相続人とのトラブルに発展する可能性がありますので、相続財産として必ず扱ってください。

3-2.高額医療費の還付金を受け取ると相続放棄はできない

高額医療費(高額療養費)として払い戻されたお金は、相続財産です。そのため、相続放棄をする前に受け取ると、相続放棄はできなくなります。相続放棄が認められた後で受け取った場合も、相続する意思があるとみなされ、相続放棄は無効となる可能性があります。亡くなられた方に負債がある場合には、還付金の受け取りに充分注意してください。

(被扶養者の方が亡くなり、被保険者の方が受け取る還付金の場合は、被保険者に帰属する権利によって受け取れる還付金のため、相続財産とはなりません。この場合は、還付金を受け取っても、相続放棄をすることは可能です。)

※相続放棄について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)

3-3.高額医療費の還付請求の期限は2年以内

高額医療費(高額療養費制度)の申請期限は、診療を受けた月の翌月の初日から2年間となります。2年以上過ぎてしまうと、時効により請求権が消滅します。

亡くなられた方の過去の医療費に対する「未支給の高額療養費」についても、2年以内であれば遡って還付請求をすることが可能です。

4.年齢や所得により異なる自己負担限度額

高額医療費は、自己負担限度額を超えた分が高額療養費として払い戻されますが、自己負担限度額は、年齢や所得によって異なっています。亡くなられた方の自己負担限度額はいくらになるのかを以下で確認してみましょう。

自己負担限度額は、過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回該当」となり、上限額が下がります。

<自己負担限度額>
表2:69歳以下の自己負担限度額

所得区分(標準報酬月額) 自己負担限度額
83万円以上 252,600円+(医療費-842,000円)×1% 
多数回該当:140,100円
53万円~79万円 167,400円+(医療費-558,000円)×1% 
多数回該当: 93,000円
28万円~50万円 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 
多数回該当: 44,400円
26万円以下 57,600円  多数回該当:44,400円
低所得者(被保険者が住民税非課税) 35,400円  多数回該当:24,600円

表3:70歳以上の自己負担限度額(平成30年8月診療分より)

所得区分(標準報酬月額) 自己負担限度額
外来(個人ごと) 世帯ごと(入院を含む)
83万円以上 252,600円+(医療費-842,000円)×1% 
多数回該当:140,100円
53~79万円 167,400円+(医療費-558,000円)×1% 
多数回該当: 93,000円
28~50万円 80,100円+(医療費-267,000円)×1% 
多数回該当: 44,400円
一般所得者 18,000円 57,600円
年間上限:144,000円 多数回該当:44,400円
低所得※1 8,000円 24,600円
低所得※2 8,000円 15,000円

※1.被保険者の住民税が非課税の方
※2.被保険者及び被扶養者全員の所得が0円の方

5.高額医療費還付の対象となる費用とは

高額医療費の還付金の対象となるのは「保険適用分」です。限度額認定証を利用している場合、保険適用外の食事代、居住費、差額ベッド代、先進医療にかかる費用、月をまたいで合算することで上限を超えた場合などは、対象外となりますので注意しましょう。ここでは、対象になる費用の考え方についてご説明いたします。

5-1.既に支払い済みであること

既に支払い済みの医療費が対象です。未払いの医療費がある場合には、支払いを済ませてから申請しましょう。

5-2.ひと月単位の自己負担額の考え方

高額医療費の対象であるかは、月単位で考えます。その月の1日から末日までに支払った医療費を合算した額が、自己負担限度額を超えた金額が還付対象となります。複数の月で超えている場合には、月ごとに申請が必要です。

<ひと月単位の自己負担額の計算方法>
①月の初日から末日で計算する

②医療機関を受診した人それぞれで計算をする
➂医療機関ごとに計算する
④同じ医療機関でも外来と入院は別に計算する
⑤医科と歯科は別に計算する
⑥調剤薬局での自己負担額は処方箋を交付した医療機関の自己負担額と合わせて計算する

5-3.自己負担金額が世帯で合算できるケース

ひと月にかかる医療費の自己負担額の計算は、基本的に同じ月に同一人物が、同じ医療機関で支払った自己負担額が対象になりますが、複数の医療機関を受診された場合や、同一世帯(同一医療保険に加入の場合)条件を満たして入れば、合算できる場合があります。合算により、自己負担限度額を超えた場合、超えた額が還付されます。

<世帯で合算ができるケース>
・1人が複数の医療機関で受診していた場合

・1人が同じ医療機関で入院、外来で受診した場合

<70歳未満の場合>
ひと月単位の自己負担額の計算方法(5-2)の6つの計算方法に当てはめて、21,000円以上になった自己負担額のみ合算できる

<70歳以上の場合>
21,000円に満たない場合でも自己負担額を全て合算できる

6.まとめ

亡くなられた方の高額医療費は、相続人の方が申請すれば、2年前まで遡って還付金を受け取ることができます。(高額療養費制度)ただし、還付金は、本来亡くなられた方が受け取るべきお金なので、相続財産とみなされ、遺産分割の対象財産となります。相続財産の総額が、相続税の基礎控除額を上回れば、高額医療費の還付金も含めて相続税が課税されることになります。

高額医療費が還付されるのは、亡くなられた方の「自己負担限度額を超えた場合」となります。自己負担限度額は、亡くなられた方の年齢や所得により異なります。
亡くなられた方の高額医療費の還付請求などの手続きに関し、ご不明な点、ご相談されたい事項は、各自治体、もしくは健康保険組合の窓口に早めにご相談ください。

相続税申告で損をしたくない方へ

相続税の納税額は、その申告書を作成する税理士により、大きな差が生じます。
あなたが相続税の申告をお考えであれば、ぜひ当税理士法人にご相談ください。

OAG税理士法人が選ばれる
8つの強み

  1. 01【設立35年の歴史】国税OBが作った税理士法人(国税OBが多数在籍)
  2. 02相続専門税理士が多数在籍(グループ従業員数450名 / 士業関連の有資格者150名)
  3. 03申告実績:9500件以上(グループ累計)/ 年間:1200件以上
  4. 04女性税理士が多数在籍(きめ細やかな対応)
  5. 05相続関連の専門書多数発行
  6. 06トータルサポート(グループ内ですべてワンストップ)
    相続税申告、遺産整理、登記、不動産売買、弁護士対応など
  7. 07明瞭な料金設定
  8. 08税務署に指摘されない(税務調査の非対象)約98%

OAG税理士法人に依頼する
3つのメリット

  1. 考え方に幅のある「財産評価」を知識とノウハウで適切な評価をする
  2. 遺産分割を次の相続(二次相続)も視野に入れ、税額軽減の創意工夫をする
  3. 専門用語を使わないお客様目線の対応