遺産相続でいつもらえるかは手続きの進め方と内容によって異なる!
- 相続手続き
「父が亡くなったあと、相続手続きの取りまとめを兄に任せているが、私が遺産をもらえるのはいつになるのだろうか?父の入院費や、葬儀費用など、立替で支払っているお金もあるので、できれば早く遺産を分けてほしい。だいたいいつごろになるのか知りたいが、だれに聞けばよいのだろうか・・・」
遺産について「いつごろもらえるのか」ということは、相続人の方にとって、一番気になる点ですが、なかなか他の人には聞きづらいことですよね。
相続手続きは、「相続人の人数が少ない、揉めていない、遺産内容が明らかになっている、手続きの進め方も決まっている」といった状況が整っていれば、比較的スムーズに進めることができます。しかし、トラブルなどが発生してしまえば、相続手続きはなかなか先に進まなくなってしまいます。
本記事では、相続手続きは、手続きの進め方によって遺産がもらえるまでの時期が変わってくること、また、遺産の種類によっても異なることについて、ポイントをまとめています。遺産をもらえるまでの大よその目安として、参考にしていただければと思います。
目次
1.遺産は相続手続きをしてから数週間でもらえる
相続が発生したからといって、すぐに亡くなられた方の財産がもらえるわけではありません。1つ1つの財産について、相続手続きをしなければならず、その手続きが完了して、初めてもらうことができるようになります。
また、相続手続きをするためにも、事前に確認しなければならないことや、手続きの際に必要となる書類を集めなければならず、その準備をするのに、数ヶ月ほどかかってしまう場合もあります。
手続きするための事前準備を整えた上で、提出する書類などに不備がなければ、手続きを申し出てから最短で10日ほどで遺産をもらうことができます。手続きが完了するまでは、預金などを勝手に引き出す行為は相続トラブルの原因となりますので控えていただければと思います。
表1:遺産相続の手続きを進めるための「基本の準備」
確認すること | ・遺言書があるかどうか | |
・プラスもマイナスも含めた相続財産のすべて | ||
・相続できる権利のある人(法定相続人はだれか) | ||
集める書類 | ・亡くなられた方の除籍謄本(出生~ご逝去まで) | |
・相続人全員の現在の戸籍謄本 | ||
・相続人全員の印鑑証明書 | ||
手続きを始める前にすること | ・自筆証書遺言書が見つかったら「検認」する ※保管制度を利用されていた場合、必要なし |
|
・遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議をする ※分割内容を遺産分割協議書にまとめる |
図1:相続手続きが完了次第遺産はもらえる
2.注意!手続きの進め方によって遺産をもらえる時期が変わる
相続手続きの進め方は、大きくわけて2つあります。
「遺言書が見つかって、その内容にそって進めていく方法」と、「遺言書はなく、相続人全員で遺産分割協議をおこない、同意した分割内容にそって進めていく方法」です。
どちらの方法で進めていくかによって、相続手続きの開始や完了するタイミングが異なるため、遺産をもらえる時期も変わってきます。
トラブルなく、スムーズに手続きを進めることができれば、その分もらえるまでの時間も短くなります。
図2:相続手続きの進め方は大きく2つ!
2-1.遺言書にそって進める場合
遺言書は、相続においては「最優先されるべきもの」とみなされます。遺言書の内容に従って進める場合は、話し合いなどでトラブルに発展する心配もないので、比較的スムーズに手続きは進むでしょう。しかし、遺言書の種類によって、相続手続きを開始できるタイミングが異なりますのでご注意ください。
2-1-1.自筆証書遺言は保管場所がポイント
自筆証書遺言書の場合、相続手続きを進める前に「検認の手続き」が必要となります。遺言書の検認とは、家庭裁判所において、相続人の立会いのもと、遺言書を開封して内容を確認し、遺言書の存在を明らかにすることです。(遺言書の内容が有効か無効かを確認するものではありません。)
なお、2020年7月10日より開始された法務局での自筆証書遺言書の保管制度を利用した場合、検認の手続きは不要となります。保管制度を利用していない自筆証書遺言書は、今まで通り、検認の手続きが必要となり、検認の手続きをするためには1~2ヶ月程度の期間を要するので、その分相続手続きを始めるタイミングが遅くなります。
図3:自筆証書遺言書の保管場所により手続き開始時期が変わる
<自宅などに保管されていた自筆証書遺言書>
・家庭裁判所での検認が必要
・検認の手続きが完了するまで1~2ヶ月ほどかかる
<法務局に保管されている自筆証書遺言書>
・家庭裁判所の検認は不要
・全国の法務局(遺言書保管所)で閲覧、交付の請求が可能
・必要書類を揃え、交付請求(郵送でも可)
※自筆証書遺言について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
※自筆証書遺言の保管制度について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
2-1-2.公正証書遺言だと手続きはスムーズ
公正証書遺言書の場合、検認の手続きは必要なく、遺言書の内容に不備があることも少ないため、すぐに相続の手続きを進めることができます。遺言執行者が指定されていた場合には、相続手続きそのものをすべて遺言執行者の方に任せることができ、相続人の方は手続きが完了した遺産を受け取るだけとなります。
公正証書遺言書の「副本」(正本は公証役場で保管)がご自宅などに保管されているケースが多く、公正証書遺言書の存在は、生前のうちに把握できていることがほとんどだと思いますが、公正証書遺言書の存在そのものを確認したい場合は、公証役場に問い合わせてください。亡くなられた方が遠方に住まわれていた場合であっても、「相続人の方の戸籍謄本、ご本人の身分証明書と印鑑、亡くなられた方の戸籍謄本(除籍謄本)」を持参すれば、全国どこの公証役場においても確認することができます。
2-2.遺産分割協議をする場合
遺産分割協議とは、遺産をどのように分割するのかを相続人全員で話し合って決めることです。その内容を書面にまとめたものを遺産分割協議書といいます。遺言書がなく、相続人が複数いる状況で、不動産の相続登記や金融機関での相続手続きをする際に必要となる書類です。相続人がお1人の場合は必要ありません。
協議に際しては、相続人の人数が多い、遠方に住んでいるため話し合う時間がなかなかとれないなどの理由から、協議がまとまらないことはよくあることです。遺産分割協議は、いつまでにまとめなければならないといった法的な期限はありませんが、協議がまとまらず長引けば、それだけ遺産をもらうまでに時間がかかることになります。
※遺産分割協議書について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3.財産の種類によっても遺産をもらえるまでの時間は異なる
相続財産には預金や株式、不動産など様々あります。遺言書や遺産分割協議書、戸籍謄本などの必要書類がすべてそろった段階で、それぞれの財産ついて、相続手続きを始めてから遺産をもらえるまでの期間についてご説明いたします。
図4:財産ごとの相続手続きの内容と遺産をもらえるまでの期間の目安
3-1.預金は手続きをしてから2週間程度でもらえる
亡くなられた方の預金が、相続人の方の口座に振り込まれるまでの期間は、金融機関により多少の違いはありますが、大よそ10日~2週間となります。預金をもらう方法には「預金の払い戻し」と「名義変更」の2つの方法があります。
預金の払い戻しとは、預金を解約して相続人それぞれの口座にお金を振り込む方法です。一方、名義変更は、1人の相続人の方の名義に変更する方法です。
※相続の銀行手続きについて詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-2.上場株式は手続きをしてから3週間程度でもらえる
株式の相続は、必要書類を提出してから不備がなければ、3週間ほどで、まずは、引き継がれる方名義の証券口座に株が移ります。株の場合、亡くなられた方の株式口座で、相続人の方が売却の指示を出すことができないため、いったん相続人の方名義の株式口座を作り、そこに株を移管させてから、タイミングを見計らって売却し、現金化するという流れになります。現金化するまでには時間を要しますが、売却しないでそのまま運用し続けることも可能です。
※株の相続手続きについて詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-3.不動産は手続きをしてから2週間程度でもらえる
土地や建物などの不動産の相続には、相続登記といって名義変更手続きが必要となります。相続登記をしなければならないという決まりはありませんが、遺言や分割協議が整っていても、相続登記が済んでいなければ、登記簿上は名義人が変わっていないので「相続人全員の共有財産のまま」ということになってしまいます。売却をしたくても、契約書面には、相続人全員の同意が必要となってしまう場合があるので、相続登記しないまま放置することはお勧めできません。
相続登記は必要書類を揃えて、所在地を管轄する法務局へ申請します。申請してから1~2週間程度で相続登記が完了し、登記簿上も新しい所有者の方が相続したことが証明されます。
※相続登記について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-4.自動車は手続きをすればもらえる
自動車も他の財産同様に、遺産分割協議が整わなければ勝手に名義変更手続きをすることはできません。遺言や遺産分割協議により自動車を引き継ぐ方が決まったら、名義変更の申請をします。車検証や戸籍謄本などの必要書類を揃え、陸運局(運輸局)にて手続きをおこないます。
書類に不備なく、窓口で申請が受領されれば、新しい名義人のお名前の車検証が発行されます。名義変更後は、そのまま自動車を使用する、もしくは、売却や廃車することが可能となります。
※自動車の相続手続きについて詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-5.死亡保険金は請求すれば1週間程度でもらえる
死亡保険金は、受取人の方自らが保険会社に請求の連絡をしなければ受け取ることはできません。亡くなられた後3年以内に請求しなければ、もらう権利が消滅する場合がありますので、速やかに手続きをおこないましょう。保険会社へ連絡をいれて必要書類を揃え、不備なく受領されれば1週間程度でご指定の口座に保険金が振り込まれます。
4.すぐにお金が必要なときの対処法
「亡くなられた方の介護や医療費、葬儀費用などを、相続手続きの完了を待たず、遺産から支払わなければならない」というような、やむを得ない事情もあることでしょう。
金融機関は、原則、口座名義人が亡くなられると、その時点で口座を凍結して、相続手続きが完了しなければ、預金を引き出すことができないようになっています。しかし、然るべき手続きをふめば、ある一定の金額までなら、預金を引き出すことができる「仮払い制度」が創設されました。
いずれにしても、他の相続人に相談せずに、勝手に預金を引き出してしまうことは、その後の相続手続きにおけるトラブルの要因になってしまうので十分に注意されることをお勧めいたします。
※仮払い制度について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
5.まとめ
遺産相続はいつもらえるのだろうか?それは遺言書の有無や必要書類の取得までの時間、そして財産ごとに異なることがお分かりいただけましたでしょうか。
医療費や葬儀費用の支払いなどがあり、「もらえるまでに何ヶ月もかかるのは困る」という場合でも、他の相続人の方の同意を得ずに、勝手に財産に手を付けてしまうことは、大きなトラブルに発展しかねませんのでご注意ください。