【成年後見人とは】なれる人と申立て手続き・費用を徹底解説!

  • 相続手続き

「成年後見人の手続きはどのようにしたらいいの?」
「家族は成年後見人になれるのかな」

朝ごはんのメニューを思い出せない、レジでお金の勘定に手間取ってしまう等、お母さまが物忘れするようになったり、日常生活に支障が出てきてご心配なことでしょう。

日本における65歳以上の認知症の方の数は、2020年時点で約600万人となっており、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています(厚生労働省HP参照)。

成年後見人は、物事を判断する能力が十分でない方の意思を尊重しながら支援する役割を担います。
成年後見人の利用を検討したい、あるいは将来に備えて成年後見人について理解しておきたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。

本記事は、成年後見制度の内容と成年後見人等の役割、選任手続きの流れについて、詳しくご説明いたします。

ご自身が成年後見人になるべきか迷われている方は、ご家族が成年後見人になるメリット・デメリット(5章)についても参考にして頂ければと思います。

1.成年後見人は判断能力の不十分な方を保護し支援する

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない方に対し、成年後見人等を選任し、保護するための制度です。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。「法定後見制度」は家庭裁判所により成年後見人等が選任される制度です(手続きは3章参照)。ご本人(被後見人)の判断能力の程度によって、3つに区分されます(図2参照)。

「任意後見制度」はご本人に十分な判断能力があるうちに、将来ご自身の判断能力が不十分になった時に備えて、あらかじめ任意後見人になる方と財産管理など支援してもらう内容を契約で決めておく制度です。

図1:成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」がある
成年後見制度は「法定後見制度」と「任意後見制度」がある

図2:法定後見制度の3つの区分
法定後見制度の3つの区分
*後見監督人を選任することがあります

2.成年後見人とは?3つの役割とできないこと

成年後見人は、ご本人に代わって財産の管理をしたり、療養看護の方針を決定し、必要な契約の締結を行ったりします。一方でご本人の身の回りのお世話などは、成年後見人等の役割ではありません。成年後見人は、後見する事務について家庭裁判所に、定期的に(1年に1回程度)報告をする必要があります。

2-1.成年後見人の役割

成年後見人は、ご本人の日常生活における財産管理等の代理権を持ちます。ご本人が不利益な契約を結んだ場合等は、後から取り消すことができる取消権も持ちます。

【成年後見人の3つの役割】
①財産の管理/不動産の管理
預貯金の引き出し、年金や保険金の受領、税金や医療費の支払い、不動産の売却(ご本人の居住用不動産は事前に家庭裁判所の許可が必要)

 

②契約の締結と取消
介護施設等の入所契約、病院への入院手続き、要介護認定の申請手続き、行政窓口への各種手続き
ご本人が単独で行った法律行為の取消

 

③遺産分割など相続手続き
遺産分割協議に参加、相続を承認あるいは放棄の判断、名義変更等の相続手続き

2-2.成年後見人ができないこと

成年後見人ができることは、財産管理や療養看護に関わる代理・取消等の法律行為に限られます。成年後見人がご本人の介護や日常生活の介助を行うこと等は含まれません。また、成年後見人の役割は、ご本人の財産を保護することなので、相続税の節税対策などはできません

【成年後見人ができないこと】
①日常生活を行う上での買い物の支援、食事や入浴の介助、病院の付き添い
②医療行為への同意
③身元保証人、身元引受人、入院保証人になること
④結婚、離婚や養子縁組、認知、遺言作成
⑤資産運用・生前贈与など資産を減少させること

3.成年後見人の申立て手続きの流れ

成年後見制度を利用するためには、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「後見開始の審判の申立て」を行う必要があります。申立てのできる方は、ご本人、配偶者、四親等以内の親族(親御さん、お子さんなど)や市町村長などです。申立てをしてから審判まで約1~2ヶ月かかります。

図3:成年後見人を申立てる手続きの流れ
成年後見人を申立てる手続きの流れ

※後見人の手続きについて詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)

3-1.「成年後見人になれる人」を候補者に立てる

家庭裁判所に申立てをする際に、申立人は成年後見人の候補者を立てることができます(候補者がいなくても構いません)。ご自身や親族の方を後見人にしたいとお考えの場合は、その方を候補者にして申立てをしましょう。成年後見人になれない人(欠格事由)に該当しなければ、成年後見人になることができます。

【成年後見人になれない人】
①未成年者
②成年後見人等を解任された人
③破産者で復権していない人
④ご本人(被後見人)に対して訴訟をしたことがある人とその配偶者または直系血族(ご両親、お子さんなど)
⑤行方不明者

申立人が希望する候補者が成年後見人に選ばれない場合もあります。具体的には、親族間に意見の対立がある、財産の金額や種類が多い、遺産分割協議などで候補者とご本人の間で利益相反する場合などです。

3-2.必要書類と費用

成年後見制度の申立て時に、後見・保佐・補助の区分からご本人の判断能力に応じたものを選択します。そのため、まずは医師に診断書を作成してもらいましょう。主治医に依頼するのが一般的です。診断書は判断能力の区分を判断する大切な資料となりますが、家庭裁判所が別途さらに詳しく鑑定をする場合もあります。

一覧表にて必要書類をご確認ください。家庭裁判所に申立ての書式をまとめた「申立セット」の用意がある場合は、ご活用いただけます。

後見・保佐・補助開始申立セット(東京家庭裁判所)はこちら→https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/kouken/1102R0404.pdf

図4:後見開始の審判の申立ての必要書類

【費用例(東京家庭裁判所のケース)】
①申立て費用:800円
②登記費用:2,600円
③郵便切手
後見の場合:3,270円
保佐・補助の場合:4,210円
④鑑定料(鑑定を行う場合)10万~20万円
⑤医師の診断書費用:数千円程度
⑥戸籍謄本・住民票等取得費用:各自治体により異なる(合計750円程度)

3-3.成年後見人になると「後見登記」される

成年後見開始の審判が確定し、成年後見人が選任されると、家庭裁判所は法務局に後見登記します。「登記事項証明書」は成年後見人の住所、氏名、権限の範囲を証明する書類です。成年後見人は、登記事項証明書を提示し、各種手続きを行います。

4.成年後見人の報酬は月2~6万円

成年後見人に司法書士や弁護士などの専門職が選ばれた場合、報酬の支払いがいくら位になるのかご心配かもしれませんね。

成年後見人の報酬は、後見人の「報酬付与申立て」により家庭裁判所が決定し、ご本人の財産から支払われます。ご自身がご家族の成年後見人になった場合も報酬付与の申立てをすることができます。

4-1.報酬額は管理財産額により異なる

成年後見人が通常の後見事務を行った場合の報酬額(基本報酬)は、ご本人の管理財産額により異なります。成年後見人の報酬は、後見事務が始まって1年が経過した時点で後見人から申立てを受け、「月額×対象期間の月数」で計算する後払いとなっています。

表1:成年後見人の基本報酬額の目安

ご本人の管理財産額

報酬(月額)

1,000万円以下

2万円

1,000万円超~5,000万円以下

3万円~4万円

5,000万円超

5万円~6万円

4-2.特別な後見事務を行った場合は「付加報酬」が加算される

さらに特別困難な事情があった場合や、通常の後見事務を超えた事務を行った場合は、基本報酬額の50%の範囲内で相当額の報酬が付加されます。訴訟、調停、遺産分割、不動産の任意売却、不動産の賃貸管理等の特別な職務を行った場合にも付加報酬が加算されます。

5.ご家族が成年後見人になるメリット・デメリット

ご自身あるいはご家族が成年後見人になることを検討している方も多いでしょう。ご家族(親族)が後見人に選ばれるケースは全体の約2割となっています。(令和4年成年後見関係事件の概況:最高裁判所事務総局家庭局)

ご本人の財産額が大きい場合や財産内容が複雑な場合は、家庭裁判所により専門職の方が適していると判断されることもあります。反対するご家族がいない場合は、身近なご家族が成年後見人になることが望ましいと考えられています。

ご家族が成年後見人になるメリットとデメリットは下記になります。成年後見人の役割はご本人の判断能力が回復するかまたは亡くなられるまで続きますので慎重に判断する必要があります

【メリット】
①ご本人の安心感、より信頼を得られる
②費用を抑えることができる(報酬付与を申立てなければ無報酬となります)
③財産管理を適確に行うことができる
(家庭裁判所へ状況報告をしなくてはならないため、他のご家族に対して預貯金管理を疑われることはありません)

 

【デメリット】
①家庭裁判所への報告などの事務が煩雑
②他のご家族とトラブルになる恐れ(横領の疑いを掛けられるなど)
③成年後見人に選任されると辞めることが難しい

6.まとめ

成年後見人は、認知症などの理由により判断能力が不十分な方に代わり財産の管理を行い、療養看護の方針を決定して必要な契約の締結をします。介護施設の入所契約や遺産分割協議の際に成年後見人の必要性を感じ、本記事をお読みになった方も多いのではないでしょうか。

成年後見人を就けたい場合は、家庭裁判所に申立ての手続きをしなくてはなりません。必要書類は、後見・保佐・補助の区分を判断するための診断書や財産目録などになります。後見人候補者を立てることはできますが、家庭裁判所が選任するため、申立人の希望通りにならないこともあります。

ご自身あるいはご家族が成年後見人になるべきか検討している方もいらっしゃるでしょう。成年後見人になるために特別な資格は必要なく、成年後見人になれない方の条件のみ定められています。ただし、家庭裁判所への報告などの事務を負担に感じるかもしれません。

成年後見人にご家族がなることの最大のメリットは、ご本人の安心感でしょう。信頼できるご家族の支援は心強いはずです。また、成年後見人の報酬は、専門職が選任されると基本報酬だけで月額2万円~6万円かかります。報酬を受け取らない場合は経済的であると言えます。

成年後見人は、一般的にはご本人が亡くなられるまで続きますので熟慮の上、判断しなくてはなりません
成年後見人が必要と言われた方または将来のために利用をお考えの方は、専門家にご相談されることをおススメ致します。

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