【遺言書の効力一覧】無効になるケースと効力を争うときの対処法
- 遺言
「遺言書を作成したときには認知症と診断されていたはずだけど、遺言書に効力はあるのかな。」
「遺言書の内容が不公平だわ。遺言書に効力があるならば財産をもらえないのかしら…。」
「ずいぶん古い日付の遺言書だけど効力はあるのだろうか。」
遺言書は亡くなられた方の最後の意思表示であり、最大限尊重されることが望ましいと考えられています。相続人全員が遺言書の内容に合意している場合はその通りに分割すれば良いのですが、遺言書の書き方や内容に疑念を抱かれた場合、効力があるのかをどのように判断すればよいのでしょうか。
本記事では、遺言書で効力を持つ内容と無効になる2つのケースについてご説明いたします。遺言書の書き方に不備がない場合で納得できない遺言書を無効にしたいときの対処法と、遺言書を開封してしまったら効力がなくなってしまうのか、あるいは遺言書に有効期限はあるのかなど注意点についても参考にして頂ければと思います。
目次
1.遺言書の効力一覧
遺言書は、遺言者が生前に財産を誰にどう残すのかという意思を伝えるための法的な書類です。遺言書が残されていた場合には、原則として遺言書の内容に従って相続手続きをします。遺言書により、法定相続分とは異なる割合で相続させたり、法定相続人以外に財産を引き継いだりすることができます。
遺言書は法定相続より優先されます。遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合は、原則として相続手続きをやり直すことになります。
遺言書に記載することで法的な効力を持つ事項(遺言事項)は法律で定められています。具体的には、相続に関する事項(①~③)、その他の財産処分に関する事項(④)、身分上の事項(⑤、⑥)、遺言の執行に関する事項(⑦)に分類されます。一覧で確認していきましょう。
図1:遺言書は財産の分け方を示した書類
2.遺言書の効力が無効になるケース
遺言書は法律で決められた書き方があり、不備があると無効になってしまいます。また、遺言を作成できる方は意思能力のある満15歳以上の方です。遺言書に効力があるかは、遺言書の書き方と遺言者に意思能力があるかという2つのポイントで判断されます。
図2:遺言書が無効になるケース
2-1.遺言書の書き方に不備がある
遺言書には3種類あり、よく用いられるのは公正証書遺言と自筆証書遺言です。公正証書遺言は公証人が作成するので書き方の不備で無効になることはありません。自筆証書遺言は、遺言者が財産目録以外の全文を自筆で作成するため、書き方の不備で無効になる可能性があります。(法務局の保管制度を利用していた自筆証書遺言については、事前にチェックしてもらえますので書き方の不備で無効になることはありません。)
図3:自筆証書遺言は書き方の不備で無効になる可能性がある
自筆証書遺言の書き方のルールをご説明します。
【自筆証書遺言の書き方のルール】
①財産目録以外はすべて遺言者の直筆で書かれていること
②作成日の記載があること
③署名・捺印がされていること
④財産の内容が正確に記載されていること
⑤修正・加筆が正しくされていること
図4:自筆証書遺言の書き方のルール
※自筆証書遺言の書き方について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
2-2.認知症など意思能力のない方が作成
認知症を発症している方などが、遺言書作成時に遺言書の内容を理解する能力(遺言能力)がないと判断された場合に遺言書は無効になります。認知症といっても症状の進行はそれぞれ異なりますので、すべての方に遺言能力がないとされるわけではありません。遺言時の診断状況や遺言内容が複雑かどうかなどにより意思能力の有無が判断されます。
図5:認知症など意思能力のない方が作成した遺言書は無効
3.納得できない遺言書の効力を無効にしたいときの対処法
遺言者は遺言により、相続分を自由に決められます。たとえば「全財産を長男に相続させる」という内容の遺言書も効力があります。ほかの相続人が合意するならば遺言通りに相続して構いません。一方で、遺言書に納得できない場合もあるでしょう。遺言書の効力を無効にしたいときはどのようにしたらよいのでしょうか。
3-1.遺留分の請求をする
遺留分とは兄弟姉妹以外の相続人が最低限得られる相続分のことです。遺言に記載された相続分が遺留分を下回るとき、相続財産を多く取得した相続人に対して遺留分の請求を行うことができます。遺留分侵害額請求は、通常は亡くなられた日から1年以内という時効がありますので注意が必要です。
図6:遺言書があっても遺留分の請求はできる
※遺言書より遺留分が優先させるということについて詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
※遺留分侵害額請求について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-2.相続人全員の合意により遺産分割協議ができる
相続人と受遺者全員の合意があれば、相続人全員で遺産分割協議をおこない、遺言書とは違う遺産分割をすることができます。注意点として、遺言執行者を選任している場合には遺言執行者の同意も必要です。また、遺言書で「遺産分割の禁止」について言及されていた場合も遺産分割協議を行なうことができません。
3-3.話し合いで解決しないときは裁判所の調停・訴訟に進む
遺言書の無効を主張しても受け入れられない場合は、原則として家庭裁判所に調停を申し立てて話し合います。調停で相続人全員が合意し遺言書の無効が確認された場合は、遺産分割協議で分割内容を決めます。調停が調わない場合は遺言無効確認訴訟に進みます。判決により遺言書に効力があるとされた場合の多くは、遺留分の請求をすることになります(3-1)。
裁判になると長期化するリスクがあり、相続人同士の関係が険悪になることも珍しくありません。話し合いでの解決を目指すことが望ましいでしょう。
図7:話し合いで解決しないとき裁判所の調停・訴訟に進む
4.遺言書の効力について3つの注意点
封がしてある遺言書を発見したときの扱いをご存じでしょうか。その場で開封してしまった場合はほかの相続人から偽造したのではないかと疑念を持たれてしまうかもしれません。家庭裁判所の検認前に開封してしまうと遺言書の効力はなくなってしまうのでしょうか。遺言書の効力についての注意点をご説明いたします。
4-1.遺言書を検認前に開封しても効力はなくならない
自筆証書遺言を見付けた場合は、勝手に開封せずに家庭裁判所に検認を請求しなければなりません。検認とは、家庭裁判所が遺言の存在と内容を認定するための手続きのことです。封がされている遺言書を検認前に開封した場合でも遺言書の内容が無効になるわけではありませんが、5万円以下の過料が科される場合があります。
図8:検認しないで開封された遺言書でも効力はなくならない
※遺言書の開封について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
4-2.遺言書に有効期限はない
遺言書に有効期限はありません。遺言書を作成してから長期間経過していても効力があります。遺言書がかなり昔のものである場合は、新たに別の遺言書が作成されているかもしれません。複数の遺言書が見付かった場合には、日付の新しいものが効力を持ちます。財産内容が変わっている可能性も大きいと言えるでしょう。
4-3.財産内容が変わり遺言書通りに分割できない時の効力
遺言書の作成時と財産内容が変わっている場合があります。たとえば生前に不動産を売却した場合等は、遺言書で相続するはずだった財産がすでに無くなっていますよね。遺言書の効力は亡くなられた時から生じますので、不動産についての遺言の部分は撤回されたものとみなされます。亡くなられた時点で残されている財産を、遺言書の内容に従って遺産分割します。
遺言書に記載されていない財産がある場合は、遺言書の内容に従って遺産分割したのちに記載されていない財産については遺産分割協議により遺産分割をすることになります。
5.まとめ
遺言書に記載することで効力を持つ遺言事項についてご理解いただけましたか。遺言書は法定相続より優先されます。
遺言書の効力を確認したい場合は、遺言書の書き方に不備はないか、遺言者が作成時に遺言能力があったかという2点が判断のポイントになります。
これらの要件を満たしている場合で遺言書を無効にしたいときは、まず相続人全員が「遺言書によらない遺産分割」に合意しているかを確認しましょう。相続人全員の合意があれば遺言書の内容に従わずに遺産分割協議により遺産分割することができます。
相続人の中でひとりでも遺言書通りに遺産分割したいという意思があるならば、遺言書自体を無効にすることはできません。
遺言書の効力を認めたうえで遺留分を請求するか、あるいは遺言書の無効を主張して調停や訴訟に進むという方法があります。裁判になると長期に渡るので相続人同士の関係性が悪化してしまう可能性が懸念されます。
遺言書が見付かって効力に疑問をお持ちの方は、専門家にご相談されることをおススメ致します。