共有持分の相続はメリットとデメリットを理解した上で慎重に判断
- 相続手続き
「亡くなった父の財産に、叔父との共有持分になっている父の実家がある。妹と父の名義分をどうするか相談しているが、叔父にも相談した方がよいのだろうか?共有持分は、どのように引き継げばよいのだろうか?」
亡くなられた方の財産であっても、相続人以外の方との共有持分になっていると勝手に相続してよいものか、また、たとえ相続しても共有持分だと面倒なのではないか、と色々ご不安なことがあると思います。このまま相続しないでしばらく放っておこうか・・・と思われてしまうかもしれませんが、できるだけ早めにお手続きしていただくことをお勧めいたします。
不動産を相続する手続きは、共有持分であっても、単独持分の不動産を相続するときと何も変わりませんが、不動産登記をする際に発生する登録免許税は、持分で割って計算します。
共有持分の不動産は、維持していく過程で、単独所有よりも行動に制限がかかることがありますので、その点をきちんと理解した上で、慎重に相続する判断をしていただければと思います。
本記事では、共有持分の財産を相続することきに知っておきたい知識を詳しく説明していきますので、参考にしていただければと思います。
目次
1.共有持分の相続財産はこれ以上細分化しないように1人で相続
不動産を複数の方で所有した場合、共有持分となり、1人1人の不動産に対する権利は「完全」とはいえない状態になります。不動産の共有は、持分割合に応じた権利を持っていることになり、持分が多ければ、それだけ権利も強いことを意味します。
2分の1ずつの共有持分であれば、権利関係は平等です。しかし、共有持分である2分の1をさらに2人の方で公平に相続した場合、4分の1ずつで分けることになります。権利関係でいえば、4分の1の持分より、2分の1の持分の方が権利は強いことになります。
このように共有にして、持分を細分化することは、権利関係が複雑化するのでお勧めできません。やむを得ない事情がない限りは、共有持分は1人の相続人が引き継いで、これ以上権利関係が複雑になっていかないようにした方がよいでしょう。
今回の相続を機に、共有持分を解消しておきたい!とお考えの場合は、5章をご確認ください。
図1:共有持分は1人で相続
2.共有持分はデメリットの方が強い可能性が高い
共有者同士の不動産に対する考え方が同じで、意思の疎通が図りやすい良好な関係性であれば、共有持分で相続しても問題はありませんが、良好な関係性がいつまでも続くとは限らず、環境の変化から事情が変われば、デメリットが生じてトラブルに発展してしまいます。
2-1.最大のメリットは相続における「公平性」
相続における共有持分の最大のメリットは、相続人間の公平性が保てることです。共有持分の割合を同じにすれば、権利関係は平等になります。相続する財産が不動産しかないという場合に、共有持分で相続するという選択肢が、公平性を保つために有効となります。
持分を同じにすれば、不動産にかかる固定資産税も半分ずつ負担することになります。権利も、税金の負担割合も平等にすることができます。
また、共有持分の不動産を第三者に貸して、賃料収入を得るようなような場合には、共有者各人が持分割合に応じた賃料を受け取ることができます。賃貸所得に関する確定申告は、持分割合に応じて、各人でおこなうことになります。
2-2.大きな2つのデメリットは「自由にできない」「独り占めされる」
共有持分だと、不動産を売りたい!と1人の方が思っても、共有者全員の同意を得なえれば売却することはできません。思い通りのタイミングで行動できないという「制限」が共有持分の大きなデメリットです。
また、共有持分の不動産に1人の方がお住まいになる場合、持分割合に関係なく、不動産全体を利用することができます。共有者の1人が不動産を独り占めする状態となっても、他の共有者は阻止することはできません。もちろん利用する分の使用料を求めることはできますが、トラブルになる可能性が高いでしょう。
売りたいと思っても直ぐに売りに出すことができない、また、不動産を利用している方がいたら退去を強いることはなかなか難しいといったことが共有持分のデメリットといえます。
図2:共有持分は意見を合わせることが難しい
3.共有持分でもできること・共有持分だとできないこと
共有持分は権利です。法的に共有者1人の権利で認められる行為から、共有者全員の権利が必要となる行為まで、可能な範囲が決まっています。以下で行為の内容を確認してみましょう。
表1:共有持分でできること・できないこと
3-1.持分の「変更」にあたる行為は共有者全員の同意が必要
不動産を売却したり、お金を借りるために抵当権を設定したり、もしくは、不動産の改築をおこなうことなどを法律上では「変更行為」といいますが、共有持分の場合、この変更行為をおこなうには、共有者全員の同意が必要となります。
たとえ持分の大半を有していたとしても、手続き上では、共有者全員の署名や捺印が必要です。ご自身の持分だけを単独で売却することもできますが、購入者側からすれば、他に共有者いるのでは、不動産を活用しづらいことが明らかなため、適正価格よりも低めで取引きされることが多いです。
3-2.持分の「管理」にあたる行為は共有者過半数の同意が必要
不動産の賃貸借契約を結んだり、解約したりすることを「管理行為」といいますが、共有持分である不動産の管理行為をおこなうためには、共有者の過半数の方が同意する必要があります。
3-3.持分の「保存」にあたる行為は共有者の同意は必要ない
築年数が古い不動産の修繕などをおこなうことを法律上では「保存行為」といいますが、共有持分の不動産の保存行為については、共有者の同意は必要なく、単独でおこなうことが認められています。
4.共有持分の相続は早めに相続登記をおこなう
相続登記は必ずおこなうようにしましょう。共有持分の不動産の相続登記をしないままで放置すると、万が一、相続が発生してしまった場合、お子さんなどの次の世代の方の手続きが複雑になり、迷惑がかかります。
新聞などの情報でご存知の方も多くいらっしゃると思いますが、国は相続登記を義務化する方向で検討を進めており、数年以内に実現する流れです。登記せず、放置することにメリットはありませんので、早めにおこなっていただければと思います。
※相続登記の手続きの流れについて詳しくは、こちらを参考にしてください。
4-1.共有持分の登記申請書の記入例
共有持分であっても、登記手続きは、単独所有の不動産の場合と変わりません。
図3:相続登記を自分で行うための4つのステップ
登記申請書は法律で決められた書式はありません。一般的にはA4用紙に手書き、もしくはパソコンで作成します。単独所有の不動産の登記申請書と異なるポイントは以下の二つです。
ポイント②:相続人欄 「持分〇分の〇【相続人の名前】」と記載する
図4:共有持分の登記申請書の記載例
土地と建物でそれぞれ共有持分が異なることもあります。このような場合は、相続人欄には「持分後記記載のとおり【相続人の名前】」と記載し、不動産の表示欄にそれぞれ持分を記載します。
図5:土地と建物で持分が異なる場合の記載例
4-2.共有持分の場合の登録免許税計算方法
相続登記に限らず、不動産の所有権などを登記する際には、登録免許税という税金を納めなくてはなりません。相続登記の登録免許税は「固定資産税評価額の0.4%」となりますが、共有名義の場合は、さらに持分に応じた割合をかけて計算します。
【固定資産税評価額の調べ方】
毎年4月頃に所有者宛に送られている「納税通知書の課税明細書」で確認する、もしくは役所(都税事務所)で取得することができる「評価証明書」で確認することができます。
図6:固定資産税納税通知書に同封されている課税明細書
図7:共有持分の場合と登録免許税の計算式
【事例】固定資産税評価額(土地 3,100万円 建物900万円)4,000万円、共有持分1/2の場合
登録免許税:4,000万円×1/2×0.4%=8万円
※登録免許税について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.共有持分の3つの解消方法
ただでさえ共有持分の不動産は活用しにくいものですが、次の相続が発生し、世代が変わるごとに疎遠な関係性となり、いざどうにかしようと思ったときに足並みを揃えるのが難しくなっていきます。トラブルを未然に防ぐためにも、早めに共有持分は解消されておくことをお勧めいたします。
5-1.持分を買い取るまたは買い取ってもらう
共有持分を買い取ることで、単独所有に変えることができます。ただし、共有持分の売買では、住宅ローンなどの融資を使うことができないため、買い取る方は現金を用意する必要があります。また、現在の価値に合わせた買取価格が、購入当時に比べ、利益が生じた価格であれば、譲渡所得税の課税対象となります。
持分を放棄することもできますが、この場合は贈与になってしまいます。持分が帰属された所有者の方に、贈与税の申告義務が生じる可能性があります。
5-2.土地は分筆してしまう
共有持分である土地に関し、2つ以上の土地に分割することを「分筆」といいます。分筆された土地は、それぞれが独立した土地として登記することができるので、土地を単独所有扱いに変えることができます。
土地を分筆するには、新たに境界を確定する必要があり、土地家屋調査士に依頼する必要があります。
5-3.協力して第三者へ売却する
売却できるタイミングを見計らって、共有者全員で協力して売却してしまい、売却代金を持分で分配するのは、公平な方法といえます。
6.まとめ
共有持分の相続は、単独で引き継ぐか、もしくは早い段階で共有持分を解消できるよう話し合いをするなど、慎重に判断して決断する必要があります。
不動産にかかる固定資産税は、共有持分の割合に応じて負担することになりますが、役所からの請求は、持分に応じて個別にはきません。よって、共有者の1人が代表して支払うことが多く、そのことが原因でトラブルになるケースもあります。また、不動産を維持していくための話し合いが、適宜、必要なります。
今は共有者同士の関係性が良好であっても、次の相続が発生し所有者が変わった後でも良好な関係性を保てるかどうかは分かりません。後々のトラブルを避けるためにも、共有持分の状態は早めに解消できるよう、検討していただく方がよいでしょう。