遺産分割協議書に印鑑証明書を必ず添付!期限や綴じ方の基礎知識
- 相続手続き
「預金の払い戻しをしようとしたら印鑑証明書が必要と言われたけど期限はあるのかしら…。」
「遺産分割協議書に添付する印鑑証明書は何通取得したらいいの?」
遺産分割協議の内容に基づいて、不動産の所有権移転登記(相続登記)をする場合や金融機関で解約や名義変更の手続きをする場合は、遺産分割協議書に併せて印鑑証明書の提出が必要です。
本記事では、遺産分割協議書に印鑑証明書を添付する理由と、印鑑証明書の期限について詳しくご説明いたします。未成年者や海外在住者など印鑑証明書がない相続人がいらっしゃる場合の対処法についても参考にしていただければと思います。
目次
1.遺産分割協議書には相続人全員の印鑑証明書の添付が必要
遺産分割協議書は相続財産をどのように分けるかという内容をまとめた書面です。非常に重要な書面ですので、相続人全員が合意したら、署名をしたうえで実印を押印します。
遺産分割協議書の提出を求められる相続手続きにおいては、遺産分割協議書に押印された印鑑が自治体に登録済みの「実印」であることを証明するために、相続人全員の印鑑証明書を必ず添付します。印鑑証明書を添付することによって、ご本人が自らの意思で遺産分割協議書に押印したことを対外的に証明することができます。
印鑑証明書は、市町村役場の窓口で取得します。コンビニエンスストアの証明書交付サービスでマイナンバーカードを利用して取得することができる場合もあります。
図1:遺産分割協議書は実印の押印が必要
図2:印鑑証明書は遺産分割協議書の印鑑が「実印」であることを証明する
表1:遺産分割協議書を提出する相続手続きは印鑑証明書を必ず添付する
手続きの内容 |
提出先 |
提出の期限の目安 |
【不動産の相続登記】 不動産の名義を亡くなられた方から新しい所有者へ変更する手続き |
法務局 |
現時点では期限はないが、令和6年4月から相続登記は義務化され、相続により不動産の取得を知った日から3年以内に行わなければならなくなる |
【相続税の申告】 相続税基礎控除額を超える相続財産がある場合に、相続税の申告書を作成して、税金を納める手続き |
税務署 |
相続発生の翌日から10ヶ月以内 |
【預貯金の相続手続き】 亡くなられた方名義の預貯金口座を解約、または口座名義人を変更する手続き |
銀行 |
期限はないが、原則として相続が発生すると口座は凍結されるので、早めの手続きが望ましい |
【自動車の名義変更】 亡くなられた方が所有していた自動車の名義を変更する手続き |
陸運局 |
期限はないが保険の問題も生じるので早めの手続きが望ましい |
【株の相続手続き】 亡くなられた方が所有していた上場株式の名義変更手続き |
証券会社 |
期限はないが相続税の申告が必要な場合は申告期限を考慮して早めの手続きが望ましい |
2.遺産分割協議書に添付する印鑑証明書に有効期限はない
印鑑証明書そのものに有効期限はありません。ただし、金融機関の相続手続きは発行後3ヶ月以内あるいは6ヶ月以内など、遺産分割協議書に添付する印鑑証明書に有効期限を設けているケースが多いです。遺産分割協議書の提出を求められる場合は、事前に印鑑証明書の有効期限について提出先に確認を取りましょう。
なお、印鑑証明書の日付(発行日)は問われません。相続開始前あるいは遺産分割協議が成立する前に取得した印鑑証明書を遺産分割協議書に添付して相続手続きを進めることも可能です。
表2:提出先ごとの印鑑証明書の期限
相続手続き |
印鑑証明書の期限 |
不動産の相続登記 |
なし |
相続税の申告 |
なし |
預貯金・株の相続手続き |
金融機関により3ヶ月/6ヶ月 |
自動車の名義変更 |
3ヶ月 |
3.遺産分割協議書と印鑑証明書は原本提出が原則
相続手続きの際は、原則として遺産分割協議書と印鑑証明書は原本を提出します。提出先によっては、印鑑証明書に有効期限が設定されている場合がありますので(2章)、必要なタイミングで取得するとよいでしょう。
手続きを進める際に原本還付の手続きをすると、提出した印鑑証明書の原本を返してもらえますので、別の相続手続きで利用することができます。還付対応が可能な場合は、還付を依頼することをおススメします。
3-1.印鑑証明書は遺産分割協議書に綴じなくてよい
遺産分割協議書は、書き方に決まりがありません。相続財産の内容を正確に特定できるように記載すれば有効です。遺産分割協議書が見開き1枚におさまらず複数枚になるときは、製本したりホチキス止めをすることがありますが、印鑑証明書を一緒に綴じる必要はありません。
※遺産分割協議書の書き方について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
3-2.遺産分割協議書と印鑑証明書の原本還付の手続き方法
金融機関へ必要書類を提出するときに原本返却を依頼すると、確認後すぐに遺産分割協議書と印鑑証明書を返却してもらえます。法務局で相続登記をするときは、ご自身で「原本の写しに相違ありません」と記載して記名押印したコピーを原本に添付して提出することで返却してもらえます。
一方で、相続税の申告時に税務署に遺産分割協議書を提出する場合は、印鑑証明書の原本を提出する必要があります。税務署に提出した印鑑証明書は、原本の還付はされません。提出先により原本還付の方法および還付の可否が異なりますので確認しましょう。
4.印鑑証明書がないときの対処法
相続人に18歳未満の未成年者や認知症の方がいらっしゃる場合は、十分な判断能力が備わっていないことから、代理人が未成年者や認知症の方の代わりに遺産分割協議をします。また、海外在住者は日本に住民登録がないため、印鑑証明書がありません。
本章では、印鑑証明書がないときの対処法についてご説明します。
4-1.未成年者・成年被後見人は代理人の印鑑証明書を添付
基本的に、未成年者に代わって法律に基づく契約を行う法定代理人は親権者です。したがって、相続人が未成年者の場合は、法定代理人である親権者が相続人の代理として遺産分割協議に参加します。しかし、遺産分割協議を行うにあたって親権者自身も相続人となる場合は、未成年者と親権者が利益相反の関係となるため、親権者は代理人にはなれません。
このような場合には、家庭裁判所に対して「特別代理人」の申立てをおこない、親権者以外の第三者を代理人として選任してもらう必要があります。特別代理人は、未成年者の相続人の代わりに遺産分割協議に参加して署名押印をし、特別代理人自身の印鑑証明書を添付します。
図3:未成年者の相続人に特別代理人の選任が必要なケース
認知症の方が相続人の場合は、遺産分割協議に「成年後見人」が代理人として参加します。成年後見人は、認知症の相続人の代わりに遺産分割協議書に署名押印し、成年後見人自身の印鑑証明書を添付します。
※未成年者の特別代理人について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
※成年後見人について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
4-2.海外在住者は「サイン証明書」を取得
日本での住民登録を抹消して外国に住んでいる場合は、印鑑登録も抹消されています。そのため、相続人に海外在住者がいる場合は、印鑑証明書に代わるものとして「サイン証明書」を遺産分割協議書に添付します。サイン証明書は、日本大使館または領事館で発行することができます。
5.まとめ
遺産分割協議書を提出する際は印鑑証明書の添付が必要です。印鑑証明書自体に期限はありませんが、金融機関などは、それぞれ有効期限を設定している場合がありますので、事前に確認しましょう。
原則として、印鑑証明書は原本を添付しなければなりません。もちろんすべての相続手続きの印鑑証明書を取得しても構いませんが、提出先によっては有効期限が設定されている場合があります。手間と費用がかかりますので、可能であれば原本還付を依頼するとよいでしょう。
相続人が未成年者や成年被後見人の場合は代理人の印鑑証明書を、海外在住者の場合はサイン証明書を添付するということに注意が必要です。
遺産分割協議書を作成し、印鑑証明書を添付の上、相続税申告をする場合は、遺産分割協議書の作成段階から相続に強い税理士にご相談されることをおススメ致します。