成年後見人は相続人の判断能力に応じて必要!役割と選任方法を簡単解説

  • 相続手続き

「認知症などの家族がいる場合、成年後見人がいれば安心です」という話題をテレビや広告等でご覧になったことはありませんか。
どのような方にに成年後見人が必要なのでしょうか。

成年後見人とは、判断力が無くなった方、身寄りのない方、子どもたちが遠方に住んでいて日々のサポートができない方などのサポート役として、手続き関係や保証人、悪徳な契約の解除などの対応をします。
親族が後見人となるケースも多いですが、場合によって司法書士などにお願いすることもあります。
 
また、相続の場面では法的判断ができない方の代わりとして不平等にならないように成年後見人がしっかりチェックをします。

今回の記事では、「成年後見人が相続で果たす役割」にと選任手続きの方法についてご紹介いたします。

1.相続手続きには判断力に応じた成年後見人が必要

相続財産を相続人の間で分割する際に、判断能力がなく自分の意思を伝えられない方は冷静に判断をすることができず、不利益を被る可能性が考えられます。そういったケースは少なくなくありません。判断能力が無い方を保護する必要性があることから、その方に変わって相続財産を守る「成年後見人」が相続の際に必要となります。

この成年後見人は、依頼する方ご本人の判断能力に合わせて、次の3つを選択することができます。主には、認知症、知的障害、精神障害などの場合で、判断能力ついては医師の診断書をもとに家庭裁判所が審理します。

図1:判断能力の違いにより異なる成年後見人
成年後見制度の全体観

①判断能力がない場合:成年後見人
重い認知症などで判断能力が無くなった方に対して選任されます。
成年後見人は日常生活に関する行為を除く全ての法律行為を本人に代わって行い(代理権)、取り消したりすることができます(取消権)。
本人の利益のために財産を適切に維持管理し,本人が日常生活に困らないよう十 分に配慮されます。

②判断力が著しく不十分の場合:保佐人
認知症などで判断能力が著しく不十分な方に対して選任されます。
本人の不利益にならないかどうかに注意しながら,本人がしようとすることに同意したり(同意権),本人が既に行った事を取り消したり(取消権)して援助します。保佐人がいる場合には、特定の事項(金銭の貸借,不動産及び自動車 等の売買,自宅の増改築等)を単独で行うことができず,保佐人の同意が必要となります。

➂判断力が不十分な場合:補助人
軽度の認知症などで判断能力が著しく不十分な方に対して選任されます。
本人が望む特定の事項について、保佐人と同様の活動(同意・取消しめ代理)を行い、本人を援助していきます。
本人が望む特定の事項については、申し立てをおこなう必要があり勝手に決めることはできません。

2.相続における成年後見人の役割

相続における成年後見人の役割にはどのようなものがあるのか、具体的にご紹介します。

2-1.代理人として遺産分割協議に参加

法的な判断ができない相続人がいる場合には、代理人を立てて遺産分割をしなければその内容は無効となります。
成年後見人は相続人の代わりに遺産分割の協議に参加することができることから、成年後見人を立てることで遺産分割を完了させることができます。
また、通常の成年後見人は子や配偶者など身近な方が務めることができますが、相続の場合には同じ相続人の立場である方が成年後見人として代理となることはできません。例えば、旦那さまが亡くなられ、相続人が認知症の奥さまと息子さんの場合、息子さんは認知症の母親と同じ相続人の立場にあり利害関係が生じるため成年後見人になることはできません。

2-2.「法定相続分」以上の財産を引き継げるようにする

相続の際に財産を分割するための基準となる割合を「法定相続分」と言い、法律で定められています。この法定相続分は、認知症などの方が引き継げる事が義務付けられています。認知症などの方の財産を守り不利益にならないようにする必要があることから、成年後見人は法定相続分は最低限受け取れる遺産分割の協議の結果でなければ同意しません。

成年後見人がいる場合の分割協議の結果は、家庭裁判所に審理を求めることになりますので、法定相続分を満たしていない場合には、差し戻しとなります。遺産分割協議が終わったのちに、家庭裁判所に申し立てをおこなって、審理を求めます。

2-3.相続以外での成年後見人の役割

成年後見人の役割は、相続時以外でも依頼者ご本人の不利益を防ぐために様々あります。
病院への入院や老人ホームへの入居に必要な契約行為や月々の支払いなどの預金管理、各種申請手続きを代行することができます。また、悪徳な営業が行き勝手に契約をしたり、詐欺行為をする可能性もあります。こういった不利益のある契約が成立したことが分かった場合に、成年後見人は取り消しをすることができます。

<成年後見人その他の役割>
1.病院・老人ホームなどの身元保証や契約・申請・支払い代行
2.不当な契約の解除

3.成年後見人を選任する手順と必要書類

成年後見人の選任は、家庭裁判所への申し立てによりおこないます。次の手順と概要をおさえて、スムーズな申し立てをおこないましょう。

3-1成年後見人の選任の4STEP

成年後見人の選任に方法は次の4つのSTEPで進めます。

図2:成年後見人選任4STEP
成年後見人の選任の4STEP

STEP1:書類の準備
成年後見人の申立には次の書類を準備します。(3-2参照)

STEP2:家庭裁判所へ申し立て
成年後見人をつける方の最寄りの家庭裁判所へ行き、申し立ての手続きをおこないます。
申し立てが行える方は、「本人」「配偶者」「四親等以内の親族」などに限られます。申し立てを行う場合には、提出先の家庭裁判所に電話をして面接日の予約をしてから伺います。

STEP3:家庭裁判所による事実調査
申立人、本人、成年後見人(保佐人、補助人)候補者が家庭裁判所に呼ばれて、それぞれの意思を尊重するために面接をします。
成年後見人になると対象の方が亡くなるまでその任務を負うことになりますので、成年後見人の候補者の方にもしっかりと意思確認がされます。また、家庭裁判所が主治医に依頼する形で、判断能力について鑑定と診断書の発行が行われます。

STEP4:家庭裁判所の審判(3つの類型)
鑑定や調査が終了した後に、本人の判断能力に合わせて成年後見人・保佐人・補助人のいずれかが決められ、選任されます。

3-2.成年後見人の申し立てに必要な書類の準備手順

選任に必要な書類と費用です。費用は、医師の鑑定書なども含めておおよそ10万円以上になります。

<成年後見人選任費用>

・申立手数料800円
・登記手数料2600円
・医師による鑑定書など10~20万円

表1:成年後見人の申し立てに必要な書類一覧

必要書類等 取寄先
1 申立書類
・申立書
・申立事情説明書
・親族関係図
・本人の財産目録及びその資料
 (不動産登記簿謄本(全部事項証明書),預貯金通帳のコピー等)
・本人の収支状況報告書及びその資料
 (領収書のコピー等)
・後見人等候補者事情説明書
・親族の同意書

家庭裁判所・支部の窓口

または

家庭裁判所のサイト

2 戸籍謄本 各自治体の担当窓口
3 住民票(世帯全部,省略のないもの) 各自治体の担当窓口
4 登記されていないことの証明書 法務局
5 診断書(成年後見用),診断書付票 家庭裁判所・支部の窓口

4.相続人が未成年や行方不明の場合の代理人

相続人に未成年や行方不明者がいる場合も遺産分割は全員で行わなければ無効になりますので、代理人を立てる必要があります。
この場合の代理人は成年後見人ではない代理人を立てます。
相続人が未成年の場合は、そのご両親も相続人となる場合があり、その場合には利害関係が生じるため親は代理人となれません。そんなときは家庭裁判所に「特別代理人」を申請して選任をしてもらいます。

また、相続人の中に行方不明者がおり戸籍をたどっても出会うことができないケースもあります。そんな時には失踪宣言を申し立て、行方不明者を死亡とみなして協議をおこなうか、「不在者財産管理人」の選任を申し立てます。
この選択は失踪期間が7年以上なら死亡として扱い。7年未満であれば不在者財産管理人の申し立てとなります。

5.まとめ

相続における成年後見人の役割は、判断能力がない相続人の方にも法定相続分以上の財産をきちんと引き継いでもらうことです。
また、判断能力がない相続人がいるにもかかわらず成年後見人を立てずに行われた遺産分割は無効となります。
相続人の方が認知症の場合は成年後見人、未成年の場合は特別代理人、行方不明者の場合には不在者財産管理人が代理人を務めます。
相続税がかかる場合には、相続手続に期限が生じます。円滑に相続手続きを終えるためにも、成年後見人をきちんと立てることが必要です。

複雑な相続手続きに加え、成年後見人の申し立てなどでご不明な点等がございましたら、お近くの税理士などの専門家へまずはご相談されることをおススメいたします。

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