後見人の手続きを分かりやすく解説!必要書類の一覧と選任までの流れ
- 相続手続き
「最近、母の様子がとても心配だ。勧められるがままに、高額な買い物をしてしまったり、同じものをいくつも買ってきていたり・・・、判断能力も低下しているようだし、物忘れも激しい。このまま、母自身に身の回りのすべてを任せておくのは、もう無理かもしれないな・・・」
高齢のお母さまに、お金の管理を含めた、生活全般のすべてを任せておくことは、だんだん不安が大きくなってきますよね。成年後見制度があることはご存じだと思いますが、「詳しいことまでは・・・」という方が多くいらっしゃると思います。
成年後見制度を利用すると、成年後見人(支援する人)は、被後見人(支援が必要な人)が、あらゆる場面で不利益を被ることがないように、法的に支援します。被後見人の生活全般におけるサポート、財産の管理、さらに介護施設などへ入所が必要となった場合には、契約行為のサポートまでおこないます。
本記事では、成年後見人を選任したいとお考えの方、もしくはご自身が成年後見人になるかもしれない方に向けて、手続きの流れなどを詳しくご説明いたします。
目次
1.成年後見制度の手続きの流れ
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が十分でない方々を保護し、支援する制度です。
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。ご本人の判断能力が、すでに不十分な状態の場合は「法定後見制度」を、現時点では判断能力があるけれど、将来に備えておきたい場合には「任意後見制度」を利用します。
この記事では、法定後見制度の手続きにポイントを絞ってご説明いたします。
図1:成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがある
法定後見制度を利用するためには、戸籍などの必要な書類を準備して、家庭裁判所に「申し立て」をします。後見人の手続きが完了するまでには、2ヶ月くらいかかることを想定してください。手続きの流れに関し、次章より詳しく確認していきましょう。
図2:成年後見人の選任手続きの流れ
2.成年後見人の申立ての必要書類・費用
支援が必要な方(被後見人)の住所地を管轄している家庭裁判所に、「後見人開始等の申し立て」をおこないます。申立てをすることができる方は、一定の親族(2-2参照)となっています。申し立てに必要な書類の確認がすべて整ったら、まずは、該当の家庭裁判所へ電話をかけて、面接日の予約を取ります。
この面接では、申立人、および成年後見人等の候補者のこと、申立てに至る事情など、事実調査に関する内容について、詳しく尋ねられますので、答えられるようにまとめておきましょう。なお、後見人の候補者が、弁護士などの専門家の場合、面接の予約は不要となります。
図3:成年後見人の申立てでは、原則、面接が必要
2-1.判断能力に応じて3つの類型のいずれかで申立てる
法定後見制度には、ご本人の判断能力に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型があり、いずれかで申立てをすることになります。
表1:法定後見制度の3つの類型
2-2.申立てをすることができる人
申立てをすることができる方は、ご本人、配偶者、四親等内の親族などに限られています。
【主な四親等内の親族】
・ご両親・祖父母・曾祖父母・子・孫・ひ孫
・兄弟姉妹・おじ・おば・甥姪・いとこ
・配偶者のご両親・配偶者の祖父母・配偶者の曾祖父母・配偶者の子・配偶者の孫・配偶者のひ孫
・配偶者の兄弟姉妹・配偶者のおじ、おば・配偶者の甥姪 ・・・など
2-3.必要書類
必要書類は、表2のとおりです。東京家庭裁判所では、「後見・保佐・補助開始申立セット(書式)」という申立て書類一式をもらうことができます。裁判所ホームページから入手することも可能です。
参考:裁判所ホームページ「申立てをお考えの方へ(成年後見・保佐・補助)東京家庭裁判所後見センター」
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/kokensite/moushitate_seinenkouken/index.html
申立てをする家庭裁判所で用意されている一覧表などを、あらかじめ確認されることをお勧めいたします。
表2:成年後見人の申立てに必要な書類一覧
図4:申立てに必要な書類をそろえる
2-4.費用
成年後見人の申立てにかかる費用の目安をお伝えします。
【成年後見人の申立て費用】
・申立て手数料 1件につき800円(収入印紙で納める)
・登記手数料 2,600円(収入印紙)
・切手代 3,000円分ほど
・鑑定料(医師による鑑定が必要な場合) 5万円~10万円かかる
2-5.申立て後は裁判所の許可を得なければ取り消せない
一度申立てをすると、家庭裁判所の許可を得なければ、申し立てを取り下げることができなくなります。後見人候補者として推薦した方が選任されなかったという理由だけでは、申立ての取り下げは認められません。
3.家庭裁判所の調査・鑑定とはどんなこと?
後見開始、保佐開始、補助開始の申立てがあり、家庭裁判所が審判をするときには、事前に、調査官が、ご本人や後見人候補者の調査や意思確認をおこないます。事実関係の調査や確認資料などを収集して、家庭裁判所に報告します。また、裁判所がご本人の判断能力について、鑑定をおこなうこともあります。
3-1.本人調査・候補者調査
成年後見制度では、ご本人の意思を尊重するために、申立ての内容などについて、ご本人から直接、意見を聴く「本人調査」がおこなわれることがあります。
【本人調査の確認ポイント】
①本人の氏名・年齢・住所、現在の生活状況、家庭状況、親族や申立人との関係など
②本人の判断能力
③本人の財産管理の状況
④申立てについての本人の理解の程度と意思確認
⑤後見人等候補者についての本人の意思確認
後見人候補者についても、ご本人の親族に意見を聴いたりし、後見人として適格かどうかの「候補者調査」をあわせておこないます。
【候補者調査の確認ポイント】
①後見人候補者等とご本人ついて、利害関係などがないかどうか
②後見人候補者等の職業や経歴
③後見人候補者等が職務を引き受けてくれるかの意思確認
3-2.ご本人の判断能力について鑑定を行うことがある
申立て時に提出した診断書とは別に、裁判所がご本人の判断能力について、鑑定をおこなうことがあります。
二重に診断するの?と疑問に思われるかもしれませんね。
成年後見が必要であるかは、精神判定の鑑定が非常に重要となります。しかし、診断書を作成した主治医の専門が精神科でない場合などで、その診断書の記載や、親族からの意見などを聴いたうえでも、ご本人の判断能力を十分に判定できないときに限り、裁判所の鑑定が行われます。
4.家庭裁判所の審判により成年後見人が選任される
成年後見人等の選任は、家庭裁判所がご本人にとって、もっとも適任な方を選任します。申立人が候補者として、指定された以外の方が選ばれることもあります。家庭裁判所の判断について、不服申し立てをすることはできません。
4-1.成年後見人になれる人・なれない人
成年後見人になれない方については、法的な定めがあり、それに該当していない方であれば、どなたでも成年後見人になることができます。ご本人が必要とする支援の内容により、弁護士・司法書士・社会福祉士・税理士などの専門家が選任されることもあります。
成年後見人になることができない方は下記のとおりです。
【成年後見人になれない方】
①未成年者
②成年後見人等を解任された人
③破産者で復権していない人
④本人に対して訴訟をしたことがある人
⑤行方不明である人
4-2.成年後見人が確定すると法務局に後見登記される
成年後見登記制度は、成年後見人等の権限を、東京法務局に登記しておいて、その内容について「登記事項証明書」を発行してもらうことで証明し、登記情報を開示する制度です。ご本人の戸籍に、後見人が選任されている事実が記載されることはありません。
成年後見人等がご本人に代わって、銀行などの金融機関で手続きをおこなう場合や、介護サービスの契約をする際に「登記事項証明書」を提示することによって、相手方にとっても、安心して契約を結んでいただくことができます。
5.成年後見人の役割と後見する期間
成年後見人の役割は、ご本人の生活を見守り、生活に必要なサービスを選択し、契約すること、また、ご本人の年金などの収入を把握し、生活費・医療費の支払いなど、財産を管理することです。
遺言書の作成や、手術・延命治療の同意などには、成年後見人の権限は認められていません。
図5:成年後見人はご本人に代わり財産を管理する
5-1.家庭裁判所にご本人の財産目録を提出し状況を報告
成年後見人に選任された方は、おおむね1ヶ月以内に、ご本人の財産の状況を明らかにするための財産目録と年間収支予定表を作成し、家庭裁判所に提出しなければなりません。その後は、年に1回、定期的にご本人の状況について、報告書を作成し、家庭裁判所へ提出します。
収入・支出をしっかり記録し、領収書や契約に関する書類をすべて保管しておく必要があります。
図6:成年後見人はご本人の財産目録を作成し裁判所に提出する
5-2.後見はご本人の判断能力が戻るか、亡くなるまで続く
成年後見人の役割は、ご本人の判断能力が回復するか、もしくは、亡くなられるまで、ずっと続きます。
申立てのきかっけとなった目的(遺産分割や保険金の受領など)を果たしたら終了、ということではありません。
成年後見人等が病気など、やむをえない事情で辞任したい場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。
6.まとめ
法定後見制度の手続きの流れをご理解いただけましたでしょうか。
家庭裁判所へ申立てする際の必要書類が多く、また面接をしたり、調査に協力したりなど、手続きが煩雑に感じられたかもしれません。
介護施設への入所や、遺産分割などの切迫した理由がなくても、ご本人の判断能力が低下して心配な状況の場合は、成年後見制度の利用を検討されるとよいでしょう。早めの備えが肝心といえます。
もし、ご自身が成年後見人の候補者になることをお考えの場合は、一度後見人に選任されると、被後見人の判断能力が回復する、もしくは亡くなられてしまうまで、その役割はずっと続くことを十分理解し、長期に渡り、被後見人の方のご支援と財産管理責任を果たさなければならないことを心得ておいてください。
成年後見制度の手続きについて分からないこと、サポートが必要な場合は、早めに専門家にご相談されることをお勧めいたします。