相続の「遺産分割調停」を欠席しても「調停成立」させる3つの方法
- 相続手続き
遺産分割の話し合いがまとまらず、ある日突然、家庭裁判所から「調停期日の呼出状」が届いて驚いている・・・といった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
昨今のコロナ禍の影響で、話し合いが進められない場合や、疎遠な親族ばかりが相続人となり、協議の場を設定することが難しいなど、調停に至る理由は様々あると思います。
「急に遺産分割調停があるといわれても、仕事の都合で行けないよ。」
「裁判所が遠すぎて行けないわ。欠席したら不利なの?」
遺産分割調停を欠席してもよいものか、また、欠席することで不利益を被るのではないかと心配はつきないと思います。トラブルに巻き込まれたくない、遺産を受け取らなくてもいいから関わりたくないといった場合はどうしたらよいのでしょうか。
本記事では、遺産分割調停を欠席することについて、詳しくご説明いたします。欠席を避ける対処法や、調停に関わらないで済む方法についても参考にしていただければと思います。
目次
1.遺産分割調停は欠席者がいても行われる
遺産分割調停は、遺産分割について、相続人間で話し合いがまとまらない場合に、「遺産分割調停事件」として、家庭裁判所へ申し立てることによりおこなわれます。申し立てる家庭裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、もしくは当事者間の合意で決めた家庭裁判所となります。
申立人は、「相続人、受遺者、相続分譲受人にあたる方」となり、そのうちのお1人、もしくは何人かの方で、他の相続人全員を相手方として申し立てることになります。
調停は、おおむね1ヶ月に1回、平日の昼間(所要時間2~3時間)に開かれます。話し合いがうまくまとまらなければ、調停の期間が1年以上に及ぶこともあります。
調停の期日に都合がつかず欠席した場合でも、調停は行われます。
図1:遺産分割調停は欠席しても行われる
※遺産分割調停について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2.調停は欠席が続くと原則「不成立」
遺産分割調停は、欠席が続くと原則、不成立となります。調停の成立には、相続人全員の合意が必要だからです。調停は、遺産分割について自主的に話し合い、お互いに解決策を出し合って合意を目指すものです。裁判とは異なり、裁判官が分割方法を決定するわけではありません。
裁判官と調停委員は、中立的な立場で、双方を取り持つ手助け(助言)をすることになります。
図2:遺産分割調停は欠席ばかりでは不成立となってしまう
2-1.調停を欠席しても不利にはならない
仕事の都合や、遠方で行けないなどのやむを得ない理由により、調停を欠席しても、そのことを理由に不利になることはありません。正当な理由がなく欠席した場合は、5万円以下の過料が科される罰則がありますが、実際に科されることは、ほとんどありません。
2-2.ご自身の主張や証拠の提出ができないデメリットがある
遺産分割の調停が成立するまでに、お互いの主張が食い違うことがありますよね。欠席してしまうと、ご自身の主張を聞いてもらう機会を失い、また、主張を裏付ける客観的な証拠を提出することができない可能性があります。
欠席する一番のデメリットは、ご自身の主張を、調停で取り上げてもらえない可能性があるということをご理解ください。
3.調停を欠席したくないときの3つの対処法
調停は平日の昼間に開催されるため、お仕事の都合がつかないこともありますよね。遠方の家庭裁判所で調停がおこなわれる場合には、時間のやりくりが特に大変かもしれません。調停に出席したいのに、日程が合わないときの対処法をお伝えいたします。
3-1.調停の「期日の変更」を申立てる
調停に出席できないことが事前に分かっているときは、家庭裁判所に連絡をして、期日の変更をお願いすることができます。「期日変更申請書」を提出する必要があります。
3-2.「電話会議システム」を利用する
電話会議システムは、相続人が遠隔地にお住いのとき、もしくは病気等のため調停に出席することができない場合に利用できます。通話場所は、原則として最寄りの裁判所となりますが、やむを得ない事情がある場合は、ご自宅等での利用が認められることもあります。「電話会議システム利用希望申出書」を提出する必要があります。
図3:電話会議システムを利用することができる
3-3.「弁護士に代理人」として出席してもらう
ご自身が病気等で出席が難しい場合や、親族間で顔を合わせるのを避けたい場合などに、代理人として弁護士を立てることが可能です。代理人になれる専門家は弁護士だけです。
家庭裁判所の許可を得ることができれば、近親者など、弁護士以外が代理人になることも可能です。「代理人許可申請書」を提出する必要があります。
4.調停のメンバーから外れる方法
遺産分割調停の内容にすでに合意している場合や、遺産を引き継がなくてよいので調停の当事者から脱退したい場合などの手続き方法をご説明いたします。脱退以後、遺産分割調停に関わらずに、他の相続人の方だけで調停を成立させることができます。
4-1.調停案に合意する書面を提出する
遺産分割について、他の相続人と同じ意見であったり、遺産分割に関心が薄く、出席した相続人が合意した調停の内容で構わないという場合は、「調停条項案に合意する書面(受諾書面)」を提出します。他の相続人が調停期日に出席して、その調停条項案に合意したときは、ご自身が調停期日に欠席していても、調停を成立させることができます。
4-2.ご自身の相続分の譲渡や相続分の放棄をする
ご自身の相続分を譲渡、または放棄する場合は、遺産分割協議の当事者でなくなりますので、欠席しても問題ありません。譲渡、または放棄する場合、手続き以降の調停期日の出席や、話し合いの参加は不要となります。
相続分の放棄は、遺産分割における取得分をゼロとするものであり、債務があった場合には、そのまま負担することになる可能性があります。なぜなら、相続人としての地位は失われないためです。相続放棄とは異なる点に注意が必要です。
図4:相続分を譲渡すると遺産分割調停から脱退できる
※相続分の譲渡について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
5.調停の欠席が続くと遺産分割審判に移行する
調停の欠席が続くと、遺産分割調停は原則「不成立」となり、自動的に遺産分割審判に移行します。審判手続きでは、裁判官が遺産分割内容を決定します。法定相続分にそった相続分となることが多いものの、相続人間で寄与分や特別受益などで意見の相違がある場合は、欠席すると主張することができませんので、不利になる可能性は否めません。
図5:調停が不成立となれば、自動的に審判に移行する
6.まとめ
遺産分割調停に欠席しても、欠席を理由に不利になることはありませんが、欠席が続くと、調停は原則「不成立」となり、遺産分割審判に自動的に移行するということがお分かりいただけたと思います。
調停手続きでは、裁判官や調停委員が間に入ることにより、相続人各々の要望を聞いた上で、解決のための助言をおこない、話し合いがすすめられます。調停の成立のためには、相続人全員の合意が必要です。ご自身の相続分について、意思を主張するためにも、可能な限り欠席しないことが望ましいといえます。
日程のご都合が合わないのであれば、期日を変更したり、電話会議システムを利用する選択肢があります。遺産に関心がない場合などは、調停条項案に合意する書面を予め提出、もしくはご自身の相続分の譲渡や相続分の放棄をすることで、遺産分割調停の当事者から外れることができます。
調停が不成立となった場合は、自動的に遺産相続審判に移行します。審判では柔軟な解決を図ることがより難しくなるとご理解ください。
遺産分割調停で話し合いをうまく進められるかご不安がある場合や、ほかの相続人とどうしても顔を合わせたくないなどの理由で出席したくない場合には、弁護士を代理人に立てることを検討されるとよいでしょう。