相続放棄した土地・建物はどうなる?注意点・手続きについて解説
- 不動産
「実家の土地や建物の引継ぎ手がいない。管理が大変で資産価値も低い。」
空き家放置などの社会的な問題も深刻化している中、相続財産に土地があるものの「実家を相続して維持管理していくことは難しい」と悩まれていませんか。
先祖代々の土地や建物であっても、引き継がずに手放す方は非常に増えています。土地が管理されないまま放置されることで、「所有者不明土地」が発生する要因にもなっています。
ご実家を相続しても誰も住まないうえに売却できる見込みがない場合、管理費用や固定資産税の負担が重くなるだけでメリットがないため、相続放棄をしようかとお考えではないでしょうか。
相続放棄はすぐにできるものなのでしょうか?相続放棄をしたら管理責任を問われることはないのでしょうか?
本記事では、土地や建物の相続放棄の手続きや注意点について詳しく解説いたします。
目次
1.相続放棄した土地・建物はどうなる?
相続放棄とは亡くなられた方の財産を一切引き継がないことです。預貯金などプラスの財産より負債が多い場合に相続放棄を選択した方がよいケースがあります。相続放棄すると初めから相続人でなかったとみなされますので、土地の維持管理費や固定資産税の支払い義務はなくなります。
※相続放棄について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
1-1.相続放棄すると次順位の相続人に相続権が移る
相続人には民法で定められた相続順位があります。配偶者は常に相続人であり、第一順位はお子さん、第二順位は祖父母など、第三順位は兄弟姉妹となります。
たとえば、亡くなられた方のお子さんが相続放棄をすると、祖父母に相続権が移ります。同順位の相続人が複数いる場合は、全員が相続放棄をした場合に、次順位の相続人が相続権を持ちます。
相続放棄をすればご自身の負担はなくなりますが、他の相続人に債務やいらない土地が引き継がれてしまいます。相続放棄をするときは、相続人となる方全員に必ず伝えましょう。
図1:相続放棄すると次順位の相続人に相続権が移る
※相続順位について詳しくはこちらをご覧ください。(当サイト内)
1-2.相続人全員が相続放棄したら「相続財産清算人」の選任が必要
通常、相続が開始すると相続人が亡くなられた方の財産管理を行いますが、相続人全員が相続放棄をした場合には、相続財産を管理する人がいなくなります。そのため、相続人の代わりに亡くなられた方の財産管理を行なう相続財産清算人を選任する必要があります。
相続財産清算人は相続財産や相続人を調査し、債務があれば債権者等に支払いをするなどして清算をします。家庭裁判所の許可があれば、管理対象の土地を売却することもできます。特別縁故者がいる場合は財産分与の申立てが行われ、相続財産を引き継ぐ者がいなければ国に帰属させます。
注意点として、相続財産清算人への報酬が発生します。相続財産清算人によって土地の処分が完了するまで支払いは続きますので、金銭の負担について、予め話し合って決めておくことをおススメします。
図2:相続放棄した土地が国庫に引き継がれるまで
1-3.相続放棄しても土地・建物の管理義務は残る
土地を相続放棄しても管理義務が残る場合があるということに注意が必要です。具体的には、相続放棄した時点で亡くなられた方とご実家で同居していた相続人(相続財産を占有していた相続人)は、相続放棄後に次順位の相続人が管理を始めるまで、あるいは相続財産清算人が選任されるまでご実家の管理義務を負います(令和5年4月民法改正)。建物の崩壊などで他人にケガ(損害)を負わせた場合等には、損害賠償請求される可能性があります。
相続する方がいない相続財産を最終的に国庫へ帰属させるためには、「相続財産清算人」を選任する必要があります(1-2)。
図3:放棄をしても管理義務責任は残る
2.相続放棄の手続きの期限は3ヶ月
相続放棄をするには、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月の期限内に、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出しなくてはなりません。 相続放棄の手続きは相続人ごとに行うことができますが、お子さんが複数いる場合など相続順位が同じ相続人であれば、全員まとめて手続きすることもできます。
図4:相続放棄手続きの5ステップ
2-1.相続放棄の必要書類
相続放棄の手続きに必要となる書類は、相続放棄をする相続人全員に共通する書類と、亡くなられた方との関係により別途必要となる書類があります。(審理に必要な場合、家庭裁判所から追加書類の提出を求められることがあります。)複数の申述人が申立てを同時にする場合など、共通の書類は1通用意すれば足ります。
表1:相続放棄をする方全員共通の必要書類
※費用は該当の役所により異なる場合がありますので事前に電話などでご確認ください。
※相続放棄の必要書類について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
2-2.相続放棄の費用
相続放棄の手続きはご自身で行うこともできます。ご自身で行う場合は5,000円程度、司法書士や弁護士等の専門家に依頼する場合は3万円~5万円かかります。
相続放棄をご自身で行う場合の費用の内訳は下記のとおりです。
- 収入印紙800円(相続放棄申述書に貼付)
- 必要書類の取得費用(表1参照:戸籍謄本、住民票除票など)
- 郵便切手500円程度(家庭裁判所により異なる)
3.土地・建物の相続放棄の3つの注意点
土地を相続放棄するときの3つの注意点をご説明いたします。
3-1.土地・建物だけを相続放棄することはできない
相続放棄をすると土地だけではなく、亡くなられた方の相続財産すべてを引き継ぐことができません。相続財産にいらない土地が含まれていたとしても土地だけを放棄するということはできないということです。
図5:相続放棄は土地も含むすべての財産を放棄する
3-2.先祖の土地・建物は遡って手続きしなければならない
亡くなられた方の土地が先代名義のままだったというケースは、珍しいことではありません。先祖代々にわたり相続登記されていない土地は、過去に遡って相続登記を行ってから相続放棄する必要があります。
長年相続登記をされていない土地は権利関係が複雑化してしており、相続放棄までの手続きが煩雑なケースが大半です。また、相続登記が令和6年4月1日から義務化されますので、未登記のまま放置していれば、過料が科される場合があります。義務化は、施行前に相続した土地も対象です。専門家の力を借りて早めに解決されることをおススメいたします。
3-3.「相続土地国庫帰属制度」を利用して国に土地を引き取ってもらう
「相続土地国庫帰属制度」は、相続または遺贈によって土地を相続した方が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡す(国庫に帰属させる)ことができる制度です(令和5年4月27日に施行)。相続土地国庫帰属制度を利用すると、すべての財産を放棄しなければならない相続放棄とは異なり、土地だけを国に引き取ってもらえます。
法務局に申請を行い、審査が承認されると、相続した土地の所有権と管理責任を国に帰属させるという流れになります。申請できる土地が限られ、審査費用や管理費用に当たる所定の負担金を支払う必要があります。
4.土地の相続放棄ができなくなる主なケース
原則として相続放棄ができなくなるケースは下記の通りです。ただし、やむを得ない特別なケースは、相続放棄を認められる場合がありますので、ご不安な場合は速やかに専門家に相談されるとよいでしょう。
<相続放棄ができなくなるケース>
①相続放棄の期限である3ヶ月を過ぎてしまった
②相続財産の一部を使ってしまった
➂相続財産の一部を売却(処分)してしまった
5.まとめ
相続放棄とは、亡くなられた方のプラスとマイナスを含むすべて財産を放棄することであり、土地だけを放棄するということはできません。土地の相続放棄をすると、土地にかかる固定資産税の納税や維持管理費の負担義務がなくなりますが、次の相続人(その土地を管理する人)が決まるまで、管理義務責任から免れることはできません。
相続人全員が放棄したら、代表者の方が「相続財産清算人の選任の申し立て」を家庭裁判所へおこないます。相続財産清算人には報酬が発生し、土地の処分が完全に終わるまでは支払い義務が生じますが、相続財産清算人へ管理を引き継ぐことで、管理義務責任からは完全に解放されることになります。
相続放棄は3ヶ月以内と期限も短く、相続財産清算人の選任手続きは複雑で時間も要します。相続登記の義務化されますので、正当な手続きで問題を早めに解決されておく方がよいでしょう。手続きに関してご心配がございましたら、専門家にご相談されることをおススメいたします。